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給料の上昇はインフレーションを招くという間違った神話

The UK(イギリス、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの連合4か国)では、大きなインフレーションが起こっています。一時期は、11パーセントを超えました。

私はロンドンに20年以上住んでいますが、Daily Products(乳製品:牛乳やバター、クリーム等)は2倍近くにあがり、小麦粉等も値上がりしています。ガソリン代の値上がりは少し収まりましたが、電気・ガス代の高騰は非常に大きく、病院(NHS)で働く人々、鉄道業界で働く人々、Royal Mail(郵便)業界で働く人々、空港で働く人々(Baggage Handler/荷物を扱う人々)など、さまざまな業界でストライキが起こっています。
これは、Advent Calendar(アドヴェント・カレンダー/クリスマスまでのカレンダーで多くの場合は、一日ごとに窓がついていて、開くとお菓子がでてくる)に例えられ、1月の上旬まで、さまざまなストライキが毎日のように行われることが予告されています。

なぜなら、インフレーションと照らし合わせると、彼らの給料は実質、大きく下がっているからです。また、働く条件(福利厚生や働く時間、休暇、安全性に関する規則等)はどんどん悪くなっていることも大きな原因です。

看護師さんたちでさえ、普通に働いているだけでは、家族の食費と電気・ガス代が賄えず、多くの残業をしたり、暖房をつけるか、食事をぬくか、或いはFood Bank(フードバンク/無料で食料がもらえる。多くはチャリティー団体によって行われる)に頼らざるを得ない人が増えてきました。看護師さんの不足は、年々ひどくなってきており、人不足状態が、働いている人々の健康を害し、かつ患者の安全性をさげることも長い間指摘されています。The UKの病院は中央化したシステム(NHS/National Health Service)で、治療や入院は無料です。日本のようにFor profit(お金を儲けることが目的)の私立病院が70パーセント以上あるような仕組とは全く違います。よく聞くメッセージは、「誰かの病気はお金儲けをするビジネス機会ではない」ですが、現在のメイン政党である保守党は、長年、このNHSの私有化を掲げており、NHSへの税金投入を年々大きく削り、かつ、看護師の教育への税金投入も大きく削ってきました。
彼らの意図は、NHSへの資金を大きく削り続けることにより、NHSが機能できなくなり、それを理由にして、自分たち(保守党の政治家)の家族や友人、知り合い(自分に政治献金をしてくれる人)の会社に病院の契約を売りわたしたいのではないか、とみているジャーナリストも多くいます。

病院で働く人々も、ストライキを行いたい人はいません。
でも、ストライキをする以外の方法は試しても機能しなかった結果、NHSの長い歴史の中でも初めて看護師のストライキが起こりました。国営放送BBCの記事は ここ より。

看護師の給料や働く条件についての交渉先は、イギリス政府ですが、保守党政府は話し合いのテーブルにつくことすら拒否しています。保守党政府の狙いは、ストライキが長引くほど、世間一般の人々の反感が強まる可能性はあり、それを待っていると見られています。現在のところは、看護師のストライキをサポートする人々のほうが多いです。また、ストライキといっても、最低限の治療等は行う義務があるので、救急部門の看護師によれば、長年続く看護師や医師の不足で待ち時間が長いことを考えると、この義務を満たすための基準で、普段より救急部門へのアクセスが良くなっているケースすらある、とのことでした。このストライキ時のサービスについては、他の業界でも同様で、鉄道もストライキ時でも約20パーセント程度は動いており、地域によってばらつきもあるものの、緊急時には対応でき、かつ最低限のサービスには対応しています。また、ストライキの2週間前の明確な予告も義務付けられています。
このストライキが行える条件(労働組合の組合員の投票率、賛成票の高さ)は年々厳しくなっており、保守派政党は、現在、ストライキを禁止する法案さえ考慮しています。

イギリスの中央銀行は、どう対応しているのでしょう?

イギリスの中央銀行のトップは、「給料の賃上げは、インフレーションにつながるので、給料の賃上げというリクエストは絶対に行わないように」と発言し、多くの批判を受けました。
そして、先日、またしてもInterest rate(金利)を上昇させました。

これは、正しい政策なのでしょうか?

 BBC Radio4のWorld at One では、経済学者が興味深い意見を述べていました。

中央銀行の金利上げは、特に貧しい世帯に大きな打撃を与えます。
少し前までは、インフレーションを引き起こしている大きな原因は、Foods and Goods(食料品と物品ーガソリン代等も含む)でしたが、現在は、サービスへと移行しています。
サービスとなると、給料はある程度の比重を閉めますが、現在の給料の値上げ幅は、民間(NHSのような公共サービスだともっと低い値上げ幅)で、約6ー7パーセントで、インフレーションは下がったものの10.7パーセント程度なので、実質、人々の購買力はひどく下がっています。そのため、賃金の上昇がインフレーションを起こしているというのは、正確ではありません。
また、賃金の上昇がどうインフレーションに影響を起こすかというと、NHSで働く人々や、鉄道で働く人々の賃金を上げたからといって、インフレーションが起こるわけではありません。なぜなら、サービス料が変るとしてもわずかだからです。
賃金の上昇とインフレーションの上昇が直接結びつくのは、企業が賃金の上昇を直接、商品やサービスの料金に適用したときです。このとき、商品やサービスの料金はあがり、インフレーションを招くことになります。

ここで大事なのは、企業の利益率は、近年非常に大きくなり続けていることです。
企業は賃金を上げる余裕が十分あり、賃金を上げたからといって、商品やサービスの価格を上げる必要はありません。

この隠された大きな利益は、賃金の上昇を(インフレーションを招くことなく)吸収することが十分可能です。

問題は、大きな企業がモノポリー状態になって競争システムが機能せず、企業のProfiteering(不当利益行為)が当たり前となっていることです。この大企業がモノポリーを行えるのは、多くの政治家がこれらの企業から多額の政治献金を受けていて、これらの企業の言いなりになっているからです。
これについては、アメリカの Robert Reich さんも、鋭い考察を分かりやすくYoutube等で述べています。私自身は、Substackでロバートさんの記事へのSubscribeもしていまが、短いビデオで分かりやすく政治や経済を説明しています。アメリカ英語は聞き取りにくいと感じる私でも、全く問題なく聞き取れる英語なので、ぜひ観ることをお勧めします。

経済は、自分とは関係ないところで起こっている官僚や一部の人々に任されるべきものでなく、一般市民の日常生活に大きく関わっていることで、関心を持ち続けることは重要です。
権威者たちが間違ったことをしていないか観察・監視し、間違ったことが起こっていれば、責任を取らせるよう行動を起こす必要があります。Check and Balanceがない権威は、あっという間に堕落し汚職や不正が当たり前になります。
民主主義では、一人一人の市民がこの社会を作っている一員としての自覚をもち、経済や政治、社会、法律等を理解し、より良い社会にし続けていく努力が必要です。
もし、政治家が「賃金の上昇があればインフレーションが起こるから、誰も賃金の上昇を頼んではいけない」と言っていれば、それは本当なのか、健康な疑いをもって考える必要があります。
絶対に正しい人は存在しないし、政治家が上で市民が下ということはありません。
政治家は市民の生活を良くするために存在しており、一般企業も社会のために善いことをするために本来存在している
ものです。

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