devoir / falloir のちがい(仮)

 わりと、質問箱から devoir と falloir のちがいについて質問があった。

 これは実は非常に大きな問題で、何百枚も論文が書けそうなテーマであり、それを、あまり考えることなく回答するのは非常に勇気がいるので、(仮)として回答しようと思う。しばらく寝かせてみて、考えが変わらなければ動画にするかもしれない。

 まず、身も蓋もないことを言ってしまえば、この2つの動詞の意味を特に区別せずに使っているネイティブも、多少はいるんじゃないかと思う。それは、複数の辞書で、相互に《類義語》として挙げているからだ。

 ただ、ことばについて考えている者からすると、まったく同じということはありえない。まったく同じであれば、どちらか1つで足りるはずで、もう一方は死語になる。

 以下、何らかの違いがある、という前提で話を進める。

 はっきりしているところから始めると、devoir は他の多くの動詞同様 je, tu, il … ils に対応した活用形を持つのに対して、falloir は非人称の il に対応した活用形しか持たない。このことから、devoir は主語によって表される人が、devoir によって表される「義務(仮)」に大きく関与していると考えられるのに対して、falloir は「一般論」に近いと考えられる。

 意味については、devoir は「BとかCとかDといった可能性・選択肢ではなく、ここではAという可能性・選択肢しかないです」という意味であるのに対して、falloir は「何かをするためには、●●が必要である」という「必要性」を表すのが基本的な意味だと思う。

(1) Il faut 10 minutes pour aller à la gare.
「駅に行くには10分かかる(←10分必要だ)」

では、誰であっても、ここから駅までは10分必要であることを表す。これに、間接目的語を挿入した

(2) Il me faut 10 minutes pour aller à la gare.

では、誰であっても、ここから駅までは10分必要だが、私にとっても10分必要です、というように、一般論が me にも適用されることを表す。

(3) Il faut bien travailler pour réussir.
「合格するためにはよく勉強しなければならない」

では、一般的に、réussir「合格」という目的を達成するためには、bien travailler「よく勉強すること」が必要だ、ということになる。

 これに対して、

(4) Je dois bien travailler pour réussir. 
「合格するために私はよく勉強しなければならない」

では、他の人は知らないけど、私が合格するためには、遊んだり、寝てばかりといった選択肢ではダメで、よく勉強しなければならない、という、私個人の事情を表す。

 なお、devoir には「推量」を表す用法もあり、

(5) Paul doit être chez lui maintenant.
「ポールはいま、家にいるはずだ」

のような表現が可能だが、この場合、ポールはいま、外で遊んでいたり、会社で遊んでいる可能性はなく、家にいるという可能性しかない、という感じ。

 とりあえず、暫定的なお答えとして。


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