競馬を見ていて思うこと①
先週末、オーストラリアから短期免許で来日中のレイチェル・キング騎手がGⅡ・アメリカジョッキークラブカップを勝利した。女性騎手がJRAの平地重賞を制すのは、2019年のGⅢ・カペラSの藤田菜七子騎手、2022年のGⅢ・CBC賞の今村聖奈騎手に続く3度目の出来事だった。おめでとうございます。
その後、X(Twitter)でこんな投稿を見かけた。
投稿者は元々トレーニングセンターに調教助手として勤めていらした方だそう。彼が言わんとすることはなんとなく理解できるけれど、いちファンとして競馬を見ている私は女性騎手の立場についてだいぶ違う感想を持った。
JRA所属の女性騎手には斤量(=競走馬が背負う重量)の減量特典がある。これは2019年3月に誕生した制度で、特別競走とハンデキャップ競走を除く競走において女性騎手は永久的に2kg分の恩恵を受けられるというものである(斤量1kgで1馬身の着差になると言われている)。JRAはこの制度を導入する理由を「女性騎手の騎乗機会を確保し、長く現役で活躍してもらうため」だとしている。まれに、女性騎手の斤量を有利に設定するのは男性騎手への逆差別だ!みたいな主張をしている競馬ファンを見ることがあるけれど、これは的外れだ。2024年1月現在、JRAには150名ほどの騎手が所属しているが、その中で女性はたったの6名であり、さらに現在JRAで開業している調教師は全員が男性で、厩務員と調教助手も99%が男性である。そんな究極の男社会で、同じ負担重量でレースに騎乗できる騎手が男女一人ずついたとして、果たして女性騎手に騎乗馬は集まるだろうか?女性騎手に与えられた2kgの減量特典はこのような状況を是正して乗鞍を確保しやすくするためのてこ入れのひとつなのだと思う。
そして、冒頭に引用した投稿の女性騎手の実力批判について。投稿の「女性騎手の活躍を促す制度の設置は好ましいとは思っているが、それが女性騎手の今後を考えた場合、いつまでも今のままでいいのだろうかどうかということ」という文章を、私は「2kg減の恩恵のみによって勝ち星を積み重ねているようでは本当の意味での騎乗技術は上がらないし、レイチェル・キング騎手のような強い女性騎手は育たないのではないか」と解釈した(違っていたら申し訳ありません)。2kg減の是非を問うのはあまりにも早すぎると思う。いつか女性騎手が男性騎手と同数くらいに増え、厩舎関係者も半分くらいが女性になった時、それでもレイチェル・キング騎手のような上手い女性騎手が育っていないのなら、その時に初めて言っていいことなのではないだろうか。「2kg減に甘んじているせいで実力のある優秀な女性騎手がいない」と。まだほんの少ししかいない、それもほとんどが若手のJRAの女性騎手にレイチェル・キング騎手レベルの技術を求めるのは酷だし、例えるなら男性若手騎手に武豊騎手や川田騎手レベルの人がたくさんいてもいいのに、と言うようなものだ。
今の競馬界は勝ちまくる女性騎手が育つ土壌を耕す段階の、まだほんの初期の初期なのだろう。減量特典によって女性騎手が乗り鞍を得て、レースに多くの女性騎手が当たり前に乗っているのを見て競馬界を志す女性が増え、業界に占める女性の割合が増え、そういう連鎖の先にいつか「別に減量特典なくても男性と同等にやっていけるよね」の声が上がるときがゴールなのだと思う。
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