
小売業に対する実践的支援!業種別支援の着眼点を活用して、小売業はこう支援する! 中小企業支援ケーススタディ【エフアンドエム解説】
エフアンドエムによる連載「中小企業支援 ケーススタディ2024」。小売業に対する実践的支援と具体的な支援事例を、経営サポート事業本部の中郡雅人 チーフコンサルタントが解説する(金融ジャーナル2024年3月号掲載。数字、肩書き等は掲載時点)。なお、飲食業に対する実践支援についてはこちら
小売業の着眼点(経営課題の共有)
「業種別支援の着眼点」について、今回は「小売業」での実践事例を紹介したい。「小売業」は、飲食業同様にコロナ禍で大きなダメージを負った業種の1つである。
特に人流が抑制されたコロナ禍初期(2020年4月~2021年8月)では、売り上げの確保が難しく、店舗の閉鎖を余儀なくされた事業者は多い。現在は、人流が戻りインバウンドの受け入れも増えているため、市場環境は追い風が吹きつつある状況ではあるが、小売業の経営課題はコロナ前より複雑化している。
小売業の経営課題は以下の4点である。①円安傾向による仕入原価の上昇②コロナ借り入れによる返済額の増加③新規出店時の資金調達が困難④多様化した販売形態(EC)と他業種からの新規参入(卸売業)
小売業の業態は、コロナ禍以降でEC店舗の増加により変化している。売上構成比が、実店舗よりEC店舗が上回る事業者も増加している。ゆえに、経営者へのヒアリング時には注意が必要である。
従来型の店舗を把握する際には、「商圏の確認と立地条件」「売場面積と坪単価」「アイテム数と在庫量」「販売員の特徴」「顧客層とリピート率」が主なヒアリング項目であったが、EC店舗の売り上げが増加している事業者には、①カード利用による支払サイトの長期化 ②配送コストの増加 ③広告宣伝費 ④支払手数料の増加について適正かどうか確認する必要がある。
特に、カード利用による回収サイトの長期化が懸念される事業者は、金融機関へ増加運転資金の相談を早期に行うべきだと思慮する。
「業種別支援の着眼点」による差別化戦略の主な確認事項
①専門性(希少性の高い商材、プロ・マニア向けの商材・・・オタク性があるかどうか)②保守保全(購買後のアフターフォローによるリピート率上昇、付加売り上げの提案)③関係性(地域特性を考慮した接客、コミュニケーション能力、お客さま同士のコミュニティー)
エフアンドエムでは、事業者のビジネスモデルを把握し、経営課題抽出を行う際に「業種別ビジネス俯瞰図」を活用している。小売業では、仕入アイテムの在庫状況を確認しながらヒアリングを行っている。事例紹介では、従来は卸売業だったが、コロナ禍でBtoCモデルのEC事業を展開し小売業への業態変更を行った事例を紹介したい。
事例紹介 業種別支援の着眼点(小売業)を活用した支援事例
<企業概要>
J社は業歴33年の食肉卸業である。コロナ禍で得意先が廃業し売り上げが減少していた。

<取り組みの背景>
新型コロナの影響で食肉の卸売上が減少し、主要顧客であった小規模スーパーの縮小、廃業により2022年度の売り上げが大幅に減少した。EC売り上げは2023年より増加傾向であったが、支払手数料等の経費も増加していた。
今期は小売業としての売り上げが卸業売上を上回る予測であり、所要運転資金の確保が必要となったため、メイン金融機関より経営改善計画書策定支援を依頼された。
<現状の課題> 経営課題の抽出
①EC売り上げが増加することによる売上債権回転期間の悪化(35日→60日)
②広告宣伝費、EC支払手数料の増加による営業利益の低下
③発送業務の負担増加による人件費の上昇
④コロナ融資の返済開始に伴い返済額の上昇(月70万円→150万円)
⑤EC事業が予想以上に伸びたため、12月のお歳暮需要に合わせたオペレーションの構築が出来ていなかった。
<経営改善施策>
3年前に後継予定者である現代表の長男がEC事業をスタートし、旧態依然とした卸業からの脱却を図ろうと模索している最中の相談であった。エフアンドエムでは、現代表者、後継予定者と下記内容をアクションプランとして策定した。
①運送費用の単価交渉
②小売価格の値上げ(和牛・特選牛を中心)
③自社プライベートブランドの開発(食肉と合わせたポン酢・タレ)
④事業再構築補助金を活用した設備投資による出荷社業の軽減(人件費抑制+生産量の増加)
⑤コロナ融資の返済額抑制と手元運転資金の増加分をメイン金融機関へ打診
経営改善計画を策定するにあたっては、次期後継予定者が中心となり策定した。本件は、売上増加に伴う、生産・出荷体制の再構築が優先課題であったため、補助金の活用によりスライサーと業務用真空包装機を導入した。
<金融支援>
①増加運転資金分をプロパー融資にて実行(手形貸付10M・長期運転資金10M)②経営改善サポート保証を活用し、長期借入金の返済期間を延長(月次返済額の抑制)
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