スマホもSNSもないころのバンドってどうやってお客さんを集めてたの?って話
バンドの集客について何回かのシリーズにわけて書いてきましたが、本当の本当に今回が最後の番外編コラムです。
ネットやスマホがまだなかった頃のバンドってどうやってお客さんを集めてたの?
について書いてみたい。
これって興味ないですか?
いまや 1人1台スマホを持ってて、ネットへの常時接続はあたりまえ
twitterがあって、Youtubeがあって、メールはもはやすたれて連絡をとりあうメイン手段はLINE
当たり前のようにこんな便利な環境のなかで過ごしてますけど、冷静に考えたらこれってこの20年ぐらいの話
じゃ、20年前ってどうやってライブハウスにお客さんを集めてたの?
どうやってたの?
これを語るには自分はじつは中途半端な世代でして、実際に体験した話と先輩から聞いた話をミックスしたフィクション形式でおとどけしたいと思います。
はじまり、はじまり
そこで、20歳ぐらいの男に声をかけられます。
「お~! A ひさしぶり!バンドがんばってるか?」
どうやら、この男はA君の先輩 (という設定) で、けっこう人気も動員もあるバンドをやっているらしい。
そんな世界線の話です。
― 先輩、おひさしぶりっす!とうとつですが、どうやって先輩のバンドって、いつもお客さんを呼んでるんですか?
先輩 「お!突然だな!どうやって…って、がんばってるだけだぜ?」
― あ、はい…その"がんばりかた"ってやつをを今日は僕に教えてもらえないでしょうか?
先輩 「みんなやってるようなことしか教えられないと思うけど」
― それで大丈夫です!よろしくおねがいします!
手売りチケットは持ち歩け
先輩 「じゃ、次のおまえらのライブっていつよ?」
― はい、二ヶ月後の○月〇日です!
先輩 「で、チケットはいま何枚売れてるの?」
― え?チケットですか…?えっと、0枚です
先輩 「は?0枚? やる気あんの!?」
― すいません…
先輩 「まあ、いいわ。まだ二ヶ月あるし、なんとかなるでしょ…。じゃ、ちょっとチケット貸してみ?」
― え?チケット?持ってないですけど…
先輩 「え?チケット持ち歩いてなくて、どうやって売るの?」
― え?
先輩 「ちょっとやる気なさすぎでしょ…」
― え?いや、うちのバンドはいつも取り置きなんで…
先輩 「取り置き?予約ってこと?なに言ってんの?
チケットを直接お客さんに売るのが基本でしょ!
そもそも、次におまえらがライブするライブハウスで"予約で…"なんて言ったら張り倒されるぞ?」
先輩 「大丈夫か?あのライブハウスのチケットノルマはたしか…¥2500×30枚 だろ?30人ぐらい呼んどかなきゃ話にならんぜ?」
― (え?¥2500×30枚って金額で言うと…¥75,000 !? )
高っ!!
先輩 「高っ!!って、金の話じゃねーだろ!あのライブハウスの夜の部に出てるバンドは、どこも30人ぐらい呼んでるぜ?」
― え、ああ…そうなんですね
先輩 「しっかりしてくれよ。この日は…、3組出演か?」
― え、スリーマン!?少ないんですね…
先輩 「イベントじゃないし、そんなもんでしょ」
― (おお、マジか。3マンぐらいが普通で、30人ぐらいはどのバンドも呼んでるのか…、それが普通!?この時代のバンド、すげーな)
ほとんどナンパ
(先輩、ライブハウスのまわりを見わたして)
先輩 「今日は〇〇が出る日か…、お、ちょうど〇〇のファンの女の子が入り待ちしてるな。ちょっと待ってて。おれ、チケット売りに行ってくるわ」
― え?あの子たち、先輩の知り合いですか?
先輩 「いやいや、ぜんぜん知らないよ。でも〇〇とおれのバンドってファン層がちょっとかぶってるんだよな…」
(そのまま、女の子にチケットを売りにいく先輩)
― いきなり、知らない女の子にチケット売りにいくの?
コミュ力、たけぇー!
(やや、あって)
先輩 「わりい、わりい、待たせたな。無理だったわ…、チケット買ってくれなかった」
― そりゃ、そうでしょ!っていうか、いつもあんな無茶なチケットの売り方してるんですか?
先輩 「う~ん…、いきなり真昼間から声をかけて売ることは少ないけど…、似たようなことはやってるかな」
― あ、やってるんですね。ほとんどナンパじゃないですか?
先輩 「ナンパ?たしかに(笑)あの子たち可愛かったしな!」
― ちなみに真昼間じゃないときは、いつ、どういうふうに声をかけて売るんですか?
先輩 「ああ、おれがよくやる手は」
― はい
先輩 「客がいっぱい来てそうなイベントに遊びに行くんだよ!」
― はい (あ、その辺りはぼくの時代とおんなじなんだな…、ビラ撒きとかするのかな?)
先輩 「で、客席の最前列で、酒のんでとにかくはしゃぎまくるのね」
― 最前列!?バンドマンなのに??お客さんと一緒に?
先輩 「おう!余裕っしょ!で、客席で酒のんでいちばんライブを盛り上げるのね!そんなふうに騒いでたら、横のファンの女の子と仲良くなるじゃん?」
― え?なるんですか?
先輩 「なるっしょ!!で、そのまんま"おれもバンドやってるんだよ!こんど、ここでライブするから遊びに来てよ!"って声かけて」
― おお!すげ!コミュ力お化け!!
先輩 「コミュリョク?…で、そのままチケットを買ってもらうのね。まぁ、おれ以外にもそういうやり方して、チケット売ってるやつも多いぜ」
― うわ…、ぼく、コミュ障なんで、絶対に無理です…
先輩 「コミュショウ?さっきから何の話してんの?」
― (あ、この時代にはまだコミュ障って言葉がないのか…) あ…えっと、人見知りだから無理っす!
先輩 「おまえ!ステージに上がる人間が人見知りとか言ってんじゃねーよ!」
― (ああ、たしかに)そうですね。でも、ほとんどナンパですね
先輩 「たしかにナンパの上手いメンバーがいるバンドは、動員もってるバンドも多いね。でも、ヤンキーの先輩にパー券さばかされるのに比べたら、自分のライブのチケットだし、ぜんぜん余裕じゃね?」
― (ヤンキーがパー券?なんの話をしてるかわからん…) そ、そ、そうっすね!
DM作戦
― いやあ…僕には無理っすわ
先輩 「仕方ないな…、じゃ、とりあえず DM 送るか?」
― お!DM!やっとわかる単語きた!!
…って、あれ?この時代ってtwitterありましたっけ?
先輩 「時代?ツイッター?ん?なに言ってるの?」
― あ、いや!なんでもないです
先輩 「おまえのバンドにもアンケートの住所リストあるだろ?ハガキ書くの手伝ってやるから郵便局でハガキ買ってこいよ!」
― …アンケート?ハガキ?言葉のとおりダイレクトメールをハガキで送るってことですか!?
先輩 「ハガキ以外のDMってなにがあんの?ふだんのライブでアンケートとってるでしょ?」
― え?…ええと…
先輩 「は?おまえのバンドはお客さんにアンケートも書いてもらってないの!?やる気なさすぎだろ…」
― いや、アンケートなんか書いてもらっても参考にならないし
先輩 「いやいや!もちろん書いてる内容も参考にはするけどさ…、
お客さんに住所と電話番号を書いてもらわないと、はじまらないじゃん!?」
― え?そんなの書いてくれるんですか?(そうか、個人情報保護とかまだこの時代はうるさくないのか…)
先輩 「
①アンケートに連絡先を書いてもらう
②連絡先のリストをつくる
③お知らせのハガキを送る/電話をかけて誘う
基本でしょ!?」
― え?携帯電話ってあるんですか?
先輩 「携帯電話?なに、空想科学漫画みたいな話をしてるんだよ!家の電話にかけるんだよ!あたりまえだろ!」
― イエデン!!?? 家族の人がでない時間帯とかあるんですか?
先輩 「え?そりゃ家族も出るよ。一人暮らしの人になら留守番電話にライブ情報を吹き込んだり…もみんなやってるよ?」
― おおおお、すげー!この時代のバンドマン、コミュ力お化け…!!
先輩 「うちのバンドは月に1回はハガキでライブ情報のDMを送ってるから、ハガキ代もバカにならないけどね…(笑)」
続 DM作戦
先輩 「うちはやってないけど、○○ってバンドは…」
― はい
先輩 「ライブでアンケートとるじゃん?」
― はい
先輩 「ライブが終わったら打ち上げもやらずに、その日のうちにファミレスでミーティングするらしいのね」
― おお、真面目ですね!
先輩 「で、そのファミレスで、みんなでハガキを書く」
― ほう!なんのハガキですか?
先輩 「その日にライブを見てくれて、アンケートを書いてもらった人にお礼のハガキ」
― へー!
先輩 「 "今日はライブを見てくれてありがとうございました" って、日付がかわる前にハガキを出しちゃうって言ってた」
― ほー!!
先輩 「そしたら、ライブ見た次の日には、そのバンドから家にハガキが届くでしょ?鉄は熱いうちに打て!ってことみたいよ」
― ああ、たしかにお客さんからしたら、ちょっと嬉しいサプライズみたいになりますね
先輩 「だからライブの物販に、毎回 ハガキを持っていってるって言ってた」
― うわ、金もかかるし、何よりマメですね…
先輩 「まぁ、マメなヤツが勝つんだろうね」
ダイヤルQ2
― 先輩…、ぼく、どのやり方もできる自信ないです…
先輩 「え?なに言ってんの?」
― いやあ、イベントでいっぱいいるお客さんをかっさらっていく…みたいな方法ないですかね?
先輩 「もちろん、たくさんバンドが出て、客もたくさん入るイベントもあるけどさ…」
― なんか他の方法ないですかね?
先輩 「う~ん…、じゃダイヤルQ2 にとりあえずメッセージだけ吹き込んどくか?」
― ダイヤルキューツー…?
先輩 「え?知らないの?…、伝言サービスみたいなもんだよ。お客さんが、ほら、この番号に電話をかけるでしょ?」
― はい
先輩 「そうしたら、おまえがあらかじめ吹き込んでおいたメッセージ…この場合だったら、次のライブ予定とか宣伝メッセージを聞けるんだよ」
― あ、なるほど!(震災のときによく家族の連絡用につかうやつか!災害の時の伝言ダイヤルみたいなもんか!)
先輩 「でも、そもそもファンがいないと、誰もこの番号に電話してくれないしな…」
― たしかに…。
先輩 「じゃ、とりえずライブスケジュールとQ2の番号をのせたビラを作って、ライブハウスで配りまくれ!」
― あ!"あと撒き"ってやつですね!それはよくやってたのでできるかもです!
先輩 「あとはポスターを作ってはりまくるか?」
― はい
このあと無事にA君は現代に帰れて、元気にバンドをやっているらしいです。
A君がタイムスリップした時代が、はたして80年代後半だったのか90年代だったのか時代設定はあやふやですが、この時の経験をいかしてそれなりにバンドもがんばっているようです。
これ、かなり偏った話を書いてると思います。
かなり昔に、ぼくが先輩2~3人から聞いた話を適当にミックスして書いてます。
ナンパ…のくだりは、たぶんその先輩がやってただけで、みんながやってたわけではないと思いますが(笑)
でも、僕が20歳ぐらいの頃にやたら動員のあるバンドがいて「どうやって客を集めてるの?」って聞いたら、「ひっかけ橋でナンパしてる」って言ってました(笑)
50~60人は毎回よんでたもんな…。すごかった。
ちなみにそいつは、バンドやめた後はホストになったらしいです。
コミュ力お化け…。
さてさて
時代もかわれば、文化も変わる。
昔の話が、いまなんの参考になるかはわかりません。
ふりかえってみたのは
まだ ライブハウスvs一般社会 みたいな対立軸もきっとあった頃なので、若い子が背伸びするためにライブハウスに遊びに来る文化がギリギリ残ってたであろう時代
娯楽もまだ少なくて、実際に足を運ばないと人と人がつながれない時代
情報が少ないからこそ、情報をお客さんが自分からとりにいっていたであろう時代
今とあの頃とどっちが幸せだったのか?
どっちが集客しやすかったのか?
それはわかりませんが、こんな時代もあったらしいです。
ふまえて、いまバンドをやってるぼくらには、どういうやり方があるのか考えてみても面白いかもです。
そんなコラムでした。
長文を読んでもらってありがとうございました。
投げ銭、応援はいつだって受付中でございます。