
自然と調和する持続可能な暮らしを追い求めて
再訪
12月上旬のこと、以前スッドがお試し宿泊させていただいた、埼玉県・川島町の築100年の古民家をセルフビルド改修した宿「百年民宿・中里家」にて、空き家や古民家を利活用したイベント&ワークショップのあり方を教えていただきに再訪させていただきました。
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プロフィール
今回再訪させていただいたのは、【百年民宿・中里家】家主であり、ツリーハウスルビルダー/パーマカルチャーデザイナー/アーティストとして、木工を中心としたものづくりや、国内外のフェスやイベント会場のデザインから施工までも行う、スッド記事でも、もはやお馴染みのSHUさん(中里修一さん)。

SHUさんはコロナ禍に実家の一画にある築100年の古民家を改修し、現在は「暮らしを手づくりする愉しみ」を体験できる民泊として運営されています。また現在、敷地内の隣にある、かつて養蚕が行われていた建物についても改修計画を立てており、ゆくゆくは複数棟を運営しながらより幅広いイベント&ワークショップを行えるよう検討しているとのこと。

本日は、新潟県・新発田市で、森の多様性や自然と調和し持続可能な暮らしのあり方を追い求める「エコヴィレッジ シェルタープロジェクト」等を幅広く展開される「キッコリータウン」村長のマナブさん(荻原学さん)も駆けつけていただき、お二人から貴重なお話や体験をさせていただけるとのこと!ありがとうございます🙏

自然環境と切り離せない、セルフビルド
今回、スッドがなぜこのような学びの場にお邪魔させていただいたかというと、地域の空き家片付けや改修・保全を行う際には、都市部の家とは違い、どうしても周辺環境(森林や田畑)の保全とセットで考えなくてはいけない背景がありました。(たとえば、周辺に大きな木があり恒常的に落ち葉がある状態では、雨樋に落ち葉が溜まり、屋根の老朽化を早めることになるなど)
また中長期的な空き家等の保全を考えるときに、すべて外注ではなく、ある程度セルフビルドの知識や実践が必要になっていきますが、そうすると自ずと周辺の自然環境との調和や、周辺の資源を活用した家づくりや保全の視点が必要になるので、そうした学びや今後の空き家利活用・展開を考える上でとても必要だなと考えてもいました。そして、なによりも面白い!
人口減少、担い手不足。地域と空き家を取り巻く課題は山積みですが、少しでもそれを紐解き、多様な知見と人々で複合的に向き合っていくことで、従来その地域に連綿と受け継がれてきた豊かな暮らしの軌跡が見えてくるのではとも思います。
新月伐採とグリーンウッドワーク
さて、そのようなことを考えながら中里家に到着したわけですが、今日は「新月伐採とグリーンウッドワーク」というテーマで、お二人の巨匠にいろいろと教えていただきます。お恥ずかしながら、新月伐採もグリーンウッドワークも初めて学んだのですが、もうこの言葉の響きだけで、ワクワクしますね。
・新月伐採(月齢伐採)
新月伐採は、またの名を月齢伐採ともいい、月の満ち欠けに伴い樹木に含まれる水分量も変化し、特に新月のときには水分量が少なくなるとか。主に9月から2月の新月期(満月の翌日から新月の間まで)に伐採し(マナブさん曰く、冬場の下弦の月〜新月までの間の約1週間が良いとのこと)、伐採後は葉枯らし乾燥をします。 この時期に伐採した木は、腐りにくい・カビにくいという特徴を持ち、色つやと香りも良く、丈夫で良質な木材になるので、楽器や建材にも向いているといわれています。(なんとあの法隆寺も新月伐採だとか?)
・グリーンウッドワーク
伐採した木材を乾燥過程挟むことなく、そのまま家具やカトラリー等に加工すること。
お二人が焚き火をしながら、さまざまな道具を用意して待っていてくださいました。ありがとうございます!

いよいよ、中里家敷地内の木を伐採していきます!
今日はこちらの檜の枝を伐採。普段、ノコギリで木を切る機会の無い都市の子どもたちも夢中になって一心に切っていきます。
ちなみにこの隣に立派な銀杏の木があったのですが、そちらはすでにかなりの数の枝を切り落とされていました。紅葉は見るだけなら楽しいけれど、やはり今後改修を進める養蚕棟の屋根にとっては厄介で、落ち葉が雨樋に詰まることで屋根の老朽化が進むからとのことでした。

今回は大ぶりの枝ではなかったこともあり、あっという間に枝の伐採は完了。伐採が終わったら、中里家の人懐こい愛犬・ミルクちゃん(6歳オス)に遊んでもらいます。

伐採が終わったら、それをまず角材になるよう切り落としていきます。先ほど伐採した檜は少し太さが足りなかったので、事前に伐採していただいていた、別の柿の木を使っていきます。ここからは主にウッドワークのプロであるマナブさんが先生となり、斧の使い方を細かく教えていただきながら進めていきます。
ウッドワークをする機会がなかなか無いものの、普段触れる木材といえば一般的に乾燥させた後のものが多い中で、グリーンウッドは伐採したてのしっとりとした肌触りが、なんとも心地良い。

マナブ先生がやってみせると動きに無駄がなく、しかも私たちにもできそうにも見え、あっという間に断面が木材では無いかのようななめらかな質感になっていくのですが・・全く同じようにはできません。笑

素人たちが苦戦している間、マナブさんは昔ながらの電気がない時代の技術を復刻した「足踏みろくろ」(なんと自作)を使って、これもまた信じられないほどなめらかな面を持つ木工の器を作られています。こちらは日本の地域で昔、使われていたものだとか。

子どもたちは事前に用意していただいた、木材とカンナでお箸を作っていきます。これは比較的簡単で、楽しみながらどんどん作っていくことができます。

それぞれが集い、それぞれに暮らしをつくる作業に没頭しているさまは圧巻で、昔の日本の地域にはこんな風景が溢れていたんだろうなぁとうれしくも懐かしいような気持ちでした。また森の中で鳴く鳥たちの声に加えて、トントントン・・と木工を行う音が静かに響き、なんともいえず良い時間です。

火を囲む豊かさ
さて、あっという間に2時間ほどが過ぎ、お腹も空いてきたところで、焚き火でバーベキューの昼食を取ります。敷地内で採れる木材で火を起こし、その火力を使って食事を取る。なんと贅沢なことだろう。近年、一流レストランでの火力も焚き火や熾火になっていることも、偶然ではないと感じます。
最近では、昔と比べると自然と触れ合えるキャンプ場やグランピングなども増えており、自然の楽しみ方の選択肢は増えているように思います。
一方で、自然環境の中で過ごしながらも、使い捨て容器が多かったり、周辺環境に馴染んでいなかったり、どこか遠くから運んできた木材や食材で過ごすなど、環境にとって良くないのではないかと感じることも多々。
今の時代、衣食住すべてほぼ地産地消ということの方が難しいかと思うのですが、それでもその土地で取れた木材で火を起こして暖をとる、木工をする。ということの喜びと豊かさを感じずにはいられません。

不思議なもので、人は火を囲むと初対面でも、特に話すことがなくても、自然と仲良くなれてしまいます。おそらく太古の昔からこうやって火を眺め、囲い、語り合いながら暮らしてきたからでもあるのかなと。また焚き火には、集中とリラックスを一度に得られるとても良い効果があるといいます。チームビルディングにも良いとか。焚き火前後の準備や片付けも相まって、焚き火を眺めていれば無言もまた素敵な時間で、火を囲む人たちの距離感を良い形で縮めてくれるからかもしれません。

暮らしを手づくりする愉しみ
昼食が終わったら、また各々の作業へ戻り、集中した時間を過ごします。
作業が進むにつれて、それぞれの足元に落ちる木屑の量から、その作業時間の長さがわかります。
森の中、鳥たちの声、トントントン・・心地よい音と時間が続きます。


おおよそまた3〜4時間ほど作業した頃、マナブ先生の美しいスプーンが完成しました。数時間前にはひとつの角材だったとは思えないほど。マナブさんは木工の器づくりと並行しながらの作業で、見事にスプーンを完成。柄の部分にはきれいなあしらいまで入っており、なんとも見事です・・!


初めてグリーンウッドワークに挑戦した私たちは、ひとつの角材から完璧なスプーンを彫り上げるまでには至りませんでしたが、二人の先生方に、自然のお話から新月伐採、グリーンウッドワーク、そしてひとつひとつの作業の意味などをお聞きしながら過ごすことができて、とても楽しく豊かな時間でした。


作業の合間、シュウさんとも大隅半島の空き家やこれからの改修・保全のあり方などもお話しすることができ、とても充実した時間でした。
セルフビルドや空き家改修・保全と切っても切れないウッドワーク。
大隅半島やスッドの活動でも、「つらい・大変」な空き家改修・保全のイメージだけではなく、より「楽しく豊かな」時間を過ごせるものとして、より多様な知見や人々を巻き込みながら継続していきたい。ウッドワークはそのきっかけのひとつになるのではないか。と改めて感じました。
また現在、スッドが計画している年明けに開催する「セルフビルドスクール」にも、シュウさんが飛び入りで参加していただけるとか!?今後とも地域を超えて、空き家やセルフビルドを軸に連携していけたらとてもうれしく思います。
シュウさん、マナブさん、ありがとうございました!!


<【百年民宿・中里家】(埼玉県川島町)>
住所:埼玉県比企郡川島町出丸中郷1402
公式サイト:https://nakazatoke.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/nakazato_ke/
SHUさんWORKS:https://sense-of-wonder.co.jp/
ご予約はBooking.comより
<エコヴィレッジ シェルタープロジェクト>
住所:新潟県新発田市月岡408
公式サイト:https://shelter.tiny.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/shelterproject/
(編集・執筆 THEDDO./スッド ふくどめ)