リスナーが聞きたい音楽を選べる時代 / 対談 with 今井了介 # 2
平良 真人( @TylerMasato ) の対談シリーズ。
引き続き音楽プロデューサー今井了介さん( @ryosukeimai )にお話を伺います。
今井了介(いまいりょうすけ)
音楽プロデューサー・作曲家。
1999年 DOUBLEの「 Shake 」のヒット以降、安室奈美恵「 Hero 」、
TEE / Che'Nelle「 ベイビー・アイラブユー 」など多くのアーティストの楽曲・プロデュースを手がける。
2019年には楽曲「 Hero 」でJASRAC賞金賞を受賞。
またW杯ラグビーNHK公式テーマソング Little Glee Monster「 ECHO 」の作詞・作曲・Prod.も手掛けた。
前回は今井さんの音楽をつくる上での拘りや楽曲作りの考え方をお伺いしました。( # 1 ) 今回は時代の変化に伴う音楽業界の変化や音楽の聴かれ方の変化を深掘りします。
日本で好まれる楽曲とグローバルで好まれる楽曲
平良真人( 以下、平良 ):日本向けの楽曲とグローバルに向けた楽曲とそれぞれどんなことを意識して作られているのですか?
今井了介氏( 以下、今井氏):
日本や中国はメロディオリエンテッドな情緒があるものを非常に好む傾向が強いですよね。比べて、アメリカなど英語圏と韓国もそうかもしれないのですが、リズムと言葉の境目が比較的少ないタイプの曲が好まれる傾向にあります。言語はリズムや音としての気持ち良さを優先される。ライミングみたいな表現手法が大事にされています。
なので、日本のプロジェクトに参加する時と海外展開を視野に曲を作るときでは構造の違いを理解して取り組んでいます。
iTunes 以降、変化した曲の聴かれ方
平良:ネットやSNSの広がりによって音楽業界も変化しつつあると思うのですが、やはり業界の変化を感じますか?
今井氏:
iTunes 以降、曲のファンはできてもアーティストのファンにならないことが増えたんですよね。アルバムで聴かないので、アーティストの全体像がつかめず知る機会もない。好きな曲を聴けているから知ろうともしないしライブに行ったりもしない。今は売れた曲があってもソロでツアーができない人が本当にいっぱいいるなと思います。
一方で、ヒット曲をリアルタイムですぐ聞くことができる時代になったこともあり、YouTube や TikTok で好きな曲や流行っている曲を自分のコンテンツに素早く取り入れることができるようにはなったり、人気コンテンツを共有できるプラットフォームが増えたことで、昔の曲が何かのきっかけで再度ヒットするみたいなことも起きていますよね。
例えば『 ジョジョの奇妙な冒険 』のエンディングテーマになった YES の「 ROUNDABOUT 」が突然若者の間で流行ったり、思わぬ所から昔の曲が聴かれていたりと音楽の聴き方や使われ方が変わってきたなとは感じますね。
平良:僕の感覚では最近は新しい音楽が生まれづらくなっているのかなと思うのですが…
今井氏:
確かに単曲に集中する文化ができて似たようなタイプの曲が聴かれる傾向があるので、新しいものが出来づらくなってしまった所はありますね。でも、1 曲 1 曲が長く愛される状態になったことは音楽家にとっては良いことなんじゃないかなと僕は思っています。
今井氏:
音楽の歴史を振り返ると、もともとは生で聴くしかなかった音楽をレコードに収録し配布できるようになったことで、多くの人が音楽に触れる機会が増えたと同時に音楽を売る為の広告戦略が生まれました。
この広告戦略の基本は発売初週でどれだけ売れたか合戦なわけです。2 週目がどうなるかは置いておいて、1 週目の売り上げを作るために露出を増やしたりタイアップを取りに行ったりと最大の努力をします。そこにはリスナー目線はほとんど無く売る側の人たちの思いしか詰まっていない。だから 50 万枚出荷して 30 万枚返品もあり得る世界なんですよね。
作曲家としてはフィジカルは出荷された時点で印税が入るのでクリティカルな問題ではないんですけど、作ったものが結局売れずに戻って来るのは悲しい。
それに比べたらサブスクリプションには発売日は関係なく、発売の 1 年後にいつの間にか流行ったり、「 ROUNDABOUT 」みたいなケースもあるわけで、民意が強力に反映されている聴かれ方なのかなって思いますね
平良:なるほど。制作側に作られたブームではなく、リスナーが本当に聴きたい曲が選ばれている状態なわけですね。
今井氏:
本来の姿に戻っている気がしますね。在りし日のモーツァルトやベートーヴェンみたいにみんなが聴きたいから聴く。
今はレコード会社じゃなくても、お金に余裕のある人が応援したいアーティストをスポンサードする、ファンがお金を出し合うとか、クラウドファンディングや fanicon みたいなファンコミュニティもあって、これは本来の姿に戻ってきたのかなと思っていますね。人気ある人のところに注目や再生数が集まる健全な状態になっているなと。
ただ健全じゃないのは、分配率があまりに音楽家に少ない所ですかね。
平良:プラットフォーム側のほうが多いってことですよね?
今井氏:
プラットフォーム側が生み出した仕組みだからどうしてもプラットフォーム側の収益が優先されたモデルになっていることは確かで、Spotify で何億回再生されても音楽家には微々たる金額しか入らないみたいな状態になっている。それが音楽を作って生きている人達の気持ちを削いでる所はあると思います。
正しい形で聴かれているけど分配の方法が歪な状態ですよね。
そこに対して海外では著作権団体や音楽出版社など作曲家側が新しいシェアの座組を作る動きをしていたりしますけど、日本はまだCDが売れていたりもして全体的に遅れてはいますね。
平良:うっかりCD売れていますもんね(笑)。
今井氏:
うっかり売れちゃっている(笑)。世界的に見ても稀に見る市場なので、サブスクが海外と同じように一般化するにはあと 2、3 年かかるような気がしてはいますね。
今、音楽業界は斜陽産業と言われていたりして、CDが売れなくなることによってCDショップが無くなり、レコード会社の仕事が減ってしまったりと確かに影響は出ていると思いますけど、僕らみたいな作曲家が地道に仕事をしている分には使用料は変わらないんですよね。要するに、変わらず聴かれているし使われている。聴かれ方が変わっただけですよね。
音楽と広告の関わり
平良:
一方でフェイクニュースが出たり、みんなが良いものが良いという仕組みを利用してバズらせようとする人も増えるわけですよね。
今井氏:
確かに知識や検証の浅さ故にカバー曲をオリジナルだと思っちゃう人も出てくるわけですけど、それも含めてのヒットなのかなとも思ったり。
これは凄く難しくて、フェイクニュース的な無理やりバズらせることって、結局はレコード業界が今でやってきた本当に流行っているか分からない曲にひたすらお金を掛けてタイアップ取ったりラジオに流すことと何が違うのかな?と思ったりもしますね。
平良:なるほど。プレイヤーが違うだけってことですね(笑)。
今井氏:
プレイヤーの違いもありますし、今までは情報が閉ざされていたから目には見えないところで巧みに操作されていたと思うんですけど、今は本気で調べようと思ったら調べられる時代なので、昔よりは良いんじゃないかなって思うんですよね。
平良:昔は調べようと思っても、調べられなかったから知る余地もなかったわけですよね。
今井氏:
昔はラジオ局にレコード会社がいくら使っていたかなんて一般人が知ることは絶対になかったですからね。
例えばテレビ番組のエンディングテーマに起用してもらう為に何が起きているかと言うと、週 1 の番組で月に 4 回エンディングで数秒使ってもらうために 2 〜 300 万円の制作協力金を支払い、更にテレビ局に曲の権利(出版)の30 〜 50 % を未来永劫ずっと取られていくんです。
でもそんなことは番組を見ている人は知らないから、お金をかけてでも流行っているような状態を事前に作り上げておくことで、みんなが聴いてくれて結果としてブームを作り出せるわけです。この作りは特に日本においては未だ有効なんだと思いますね。
平良:
そうすると民意がより反映されるようなマーケティングの指標がまだ確立されていないだけとも考えられるんですかね?
今井氏:
そうですね。とはいえ今よりさらにもっと個人の情報がアナライズされて、もっとパーソナライズされた的確な広告がどんどん届くようになったりと知らぬ間に操作されてしまっているような状態にはなるんでしょうね。そこは無くならないのかなと思っています。
ただ一概に広告や宣伝が悪いとは言えなくて、フェイクの情報はもちろん良くないですけど、刺さる人に的確に情報を届けていけることは聴いてもらうための近道でもあり有難いテクノロジーだと思います。どんなに良いものを作っても聴かれなかったら結局の所はブームも生まれないと思うので。その辺りは伝える側の良心と IT リテラシーが問われますよね。
( つづく )
< 過去の記事 >
音楽をつくるということ 今井了介氏 対談 # 1
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