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皆を感動させたい文章は、誰も感動させられない|THE ANSWER編集長のメディア論②
THE ANSWER編集部のnote担当のヨコタです。
今回は前回に引き続き、編集長Kさんにインタビュー! 第2回のテーマは「原稿」です。どうやったら人を惹きつけられる? 幅広い読者に読んでもらうためには? 良い原稿とはどんなものなのかを追求していきます。
■編集長Kさんプロフィール
1985年、東京都生まれ。プロ野球では荻野貴司、宮西尚生ら、いぶし銀の役者が揃う世代。大学時代は東京六大学野球をはじめ、駅伝、ラグビー、アメフトなど学生スポーツ観戦に明け暮れる。出版社で女性ファッション誌の編集者、スポーツ新聞社で野球の番記者を経て、2017年からTHE ANSWERを運営するCreative2にジョイン。お笑いコンビ・ナイツの漫才、さらば青春の光のYouTubeをこよなく愛している。30代にして痛風持ち。
note担当ヨコタ:
「見出しについてお聞きした前回に続き、今回は原稿についてお聞きします。読みたくなる原稿の原則ってありますか?」
編集長K:
「個人的には、読んで映像が浮かぶ文章を大切にしているし、求められることだと思います。だって、テキストって凄く不自由な表現方法と思わない? 例えば、同じメディアでも、テレビは映像で視覚に訴えることができるし、ラジオも少し効力は下がるけど、音声で感情を込めて伝えることができる。でも、テキストは文字のみで最も限定的。情報伝達で最も効果的であり、テキスト表現の弱点であるのが視覚にある。だから、視覚化された文章表現というのは大切にしています」
note担当ヨコタ:
「普段から『五感で読ませる文章を書け』とおっしゃっていますが、なかでも『視覚』が重要なファクターということですね」
編集長K:
「Webは文字数に制限がないからこそ、短く伝える技術も必要です。長い文章で読者を惹きつけるのは、一流と言われる物書きでも難しいこと。せっかく取材をしたし、良い話を聞いたのだから、あれやこれやと情報を詰め込みたくなるけど、結果的に読者からは散漫な印象になってしまう。
取材した内容から不必要な情報をそぎ落とし、取材と執筆は『何を書くか』より『何を書かないか』を見極める作業でもあります。あとはWebの世界に限らずだけど、声に出して美しい日本語か、書き手自身が楽しいと思っているかどうか、愛情や情熱がどれだけこもっているかも大事ですね」
note担当ヨコタ:
「たしかに、書き手が面白いと思っていないものを読者が面白いと思うわけないですよね。実際に執筆する際に意識していることはありますか?」
編集長K:
「『読者はこの記事を面白いと思って読まない』という前提に立って書くことです。個人的な執筆スタイルですが、『自分は天才だと思って書いて、自分は凡才だと思って読み返す』をしていますね。書いているときは筆を躍らせ、愛情をこめるけど、読み返すときに『お前の文章なんて全然つまんないぞ。こんなの誰が読むんだ、全然伝わらないぞ』と一文一文に自分でツッコミを入れていく。
私が好きな編集者の竹村俊助さんが発信されていてすごく共感するのですが、1人で作家と編集者の2役をこなすイメージです。批判的な精神をもって読むことで、文章の精度が高まっていく。そして、より大切なのは、ツッコミを入れる人はどんな読者かという想定です。届けたい読者像が定まっていないと、このツッコミは生まれない。『こんな読者なら、絶対こうツッコんでくるよね』と」
note担当ヨコタ:
「届けたい読者を想像しながら書くというのが大切なんですね」
編集長K:
「それも、ただ漫然と想像するのではなく、基本的に『誰か』は1人に設定し、その1人をどれだけ解像度を高く描いているかが重要です。特定の1人に深く刺さるものは結果的にじわじわと横に広がっていくけど、最初から広く届けようとすると、浅くて、結果的に誰の心にも届かないものになってしまうんです」
note担当ヨコタ:
「なるほど。心理的なものがあるんでしょうか?」
編集長K:
「例えば、全校集会の校長先生の話はなぜ響かないと思う? 校長先生は全校生徒に対して話しかけると、1人1人にとってはどこか他人事のメッセージになってしまう。でも『何年何組の○○君、どうですか?』と突然1人に話しかけると、ざわざわした空気が一瞬で静まることってあったよね?」
note担当ヨコタ:
「まさに! 次は自分が当てられるんじゃないかとドキッとします……」
編集長K:
「この現象が集団心理学的にどう定義されるか分からないけど、他人へのメッセージは自分に置き換えて考えるのかもしれない。だから、まずは誰か1人にメッセージを届けるようとすることが大衆に繋がっていく。最終的に世の中に響くコンテンツは、誰か1人を深く刺すものから始まる、というのが個人的な仮説です」
note担当ヨコタ:
「実際にそれが生きた記事はありますか?」
編集長K:
「サッカーの久保竜彦さんの日本代表観戦・解説シリーズですね」
note担当ヨコタ:
「このシリーズは私も大好きでした!」
編集長K:
「実は私、学生時代にマリノスファンで久保さんを日産スタジアムのゴール裏2階席で応援していたんです。で、私がこの記事に書くにあたって想定した読者は『あの時代のゴール裏でトリコロールを着て飛び跳ねていたマリサポ』です。極端な話、頭の中の“彼”が喜んでくれたら、それ以外に届かなくてもいい。
だから、酒を飲んで、方言丸出しで、プレーもキャラも規格外だった現役時代の久保さんという人間をまるごとそのまま書いたら、あの時代のマリサポはもちろん、今のサッカーファンにも広がって、『久保竜彦』の名前がSNSでトレンド入りしてしまった。書いていた私も想像以上の反響で、うれしかったです」
note担当ヨコタ:
「始めから広い層に届けようとしてしまっていました……。私は久保さんの現役時代は知らないのに不思議と面白いと思ったのですが、その背景には明確な理屈があったのですね。では、届けたい読者はさまざまだと思いますが、より深く刺さるように心がけていることはありますか?」
編集長K:
「“自分は接点がないけど、世の中で需要があるもの”に興味・関心を持つことです。スポーツは熱狂的で、マニアックな層が多く、ともすればメディア側の私たちも、その熱量に染まりがち。でも、一方でスポーツも可処分時間を消費する1つのカテゴリーにしか過ぎないという事実もあるわけです。さらに、スポーツに関して『大谷選手がホームランを打てばニュースを見る』という人もいれば、『スポーツなんて汗臭くてルールも面倒くさくて見たくない』という人もなかにはいる。
そんなふうに綺麗事なしに人間を細分化しながら、世の中を見渡すと、テレビ、YouTube、Netflix、SNSなど、さまざまな媒体があふれ、いろんなコンテンツに需要が生まれている。そこで『これってどの層に需要が? なんで人気なの?』と首を突っ込んでいくと、いろんな人間を知れる。例えば、私には縁遠いタワマン文学というジャンルに興味があるし、港区女子の生態も面白い。最近、仕事のリサーチのためにインストールしているTikTokに時間が溶けているんだけど…(笑)」
note担当ヨコタ:
「編集長もTikTok見ているんですね(笑)」
編集長K:
「でも、TikTokのゲーム配信者が投げ銭をもらう仕掛けと10~20代のユーザーの関係性は見ていて新鮮で、メディアと読者に置き換えたらヒントにもなる。結局、人間を知らないとメディアの仕事は突き詰められない。届けようと思えば誰にでも届けられるWebの世界だからこそ、それがより重要です。
僕らの仕事はPVが数字として常に可視化されているけど、それを単なる数値の文字列として漫然と消費するのか、その一人一人の顔を想像して分析につなげられるかでWebニュース編集者としての成果も成長も、何倍にも変わってくる。これは新聞記者をしていた頃にはなかった仕事の奥深い部分です」
note担当ヨコタ:
「Webの世界って無機質なイメージを持たれるかもしれませんが、Webの世界こそ人間に対する興味・関心が成果に表れるんですね。勉強になりました!」
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