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映画「愛なのに」河合優実 変幻自在の演技リズム感
「不適切にもほどがある!」を見るまで、河合優実のこと全然知りませんでした(2021年から2023年8月まで香港にいたせいで、その間の日本の映画・ドラマは全く見てなかったというのが言い訳)。
で、すっごく「よい」と思ったのです。そして、「ふてほど」終了後、U-NEXTで「由宇子の天秤」「少女は卒業しない」「PLAN75」「愛なのに」を見ました。
いやいや、すんごいですね。「後ろ姿の雰囲気で演技ができる」ってもちろん演出の妙もあるんでしょうけど、すごいですね。「少女は卒業しない」でのいくつかの後ろ姿も印象的でしたが、なぜか「由宇子の天秤」でのカンニングが見つかった後のビルの踊り場のようなところで外を眺めているシーンでの後ろ姿がとても印象的でした。
というのもあんですけど、わたしがいっちゃん気に入ったのは、映画「愛なのに」冒頭の瀬戸康史演じる多田の古本屋での河合優実演じる女子高生・矢野岬が古本を万引きするシーンです。(岬は、多田のことが好きで、自分の名前を多田に覚えてもらいたくて万引きした。)
万引きして、(名前を憶えてもらうためには当然)多田につかまって店に戻った後のやりとり。まず、岬(河合)が(なんのためかイマイチわからないけど、たぶん多田に言われて)メモに名前と連絡先を書いているところで、多田が「もうしないでね・・・」とメモを覗き込みながら「・・・矢野岬さん」と岬の名前を呼んだ瞬間、「はい」と小声で返事をしながら名前を呼ばれたことを喜ぶ微妙な表情の変化。岬が万引きした本を手に取りながら「でも、なんでこの本なの」という多田の問いかけに、「多田さんが読んでたから」と机の上の本を指でトントンと叩く時の、わずかにためらいながらも(待ってました)的な手の差し出し方。
その後、多田のことが好きで名前を憶えてもらいたくて万引きしたことを告白し、唐突に「私と結婚してください」とプロポーズ。この素っ頓狂なプロポーズに対して、「えっと・・・」と困惑し「・・・もうすぐ31なんだよね」という多田に対して、「結婚できますね、全然」という頓珍漢な返事をする時の絶妙な間。「いやそうじゃなくて」と返す多田に、こんどは間髪入れず「ハイ」と返事。
どうしたものかと困惑する多田が、岬の「また来ます。また求婚します」というセリフに「求婚って・・・」と苦笑いしたところをすかさず捉えて「え、なんですか。なんで笑うんですか」と多田に詰め寄るときには、今度はわずかに怒りを含んだ表情に。どうあっても引く雰囲気のない岬に多田が困ってとりあえず場を取り繕うために、「この本あげる」と岬が万引きした本を渡した後の、本を抱きしめながら、多田を「好きで好きでたまらない」という感情を体中から発散させながら多田を見つめるその表情。
いや、とにかく、演技のリズム感が最高(「リズム感」っていうのが適当なのかどうか、他に表現を思いつかない)。セリフの言い方やタイミングというだけでなく、ほんとうにわずかな変化で微妙な感情の揺らぎを表現する表情、特に目の表情の動かし方、身のこなし方も含めた演技全体のリズム感が最高です。
ここまで書いてきて、ふと、他の作品も気になって、河合優実の出てる場面ばっかり見返してみました。「由宇子の天秤」の萌役、「少女は卒業しない」でのまなみ役、そして「不適切にもほどがある!」の純子役。リズム感が、どれも全く違います。人間って、表情の動かし方や身のこなし方など、どうやっても、その人独自のリズム感があって、役の性格などに応じて演技のニュアンス(セリフの読み方とか表情とか雰囲気とか)を違えることはできても、このリズム感まで変化させるのは結構難しいんじゃないかなぁと思うんですが、河合優実は、緩急自在に自らのリズム感を操り役に応じた絶妙のリズム感を作り出せる才能の持ち主なように思います。この辺は、もともと演劇ではなくダンスをやっていたということの効果なんですかね。ホント、ついつい引き込まれて見入っちゃいます。
ま、わたしは演劇な演技の詳しいことは全然知らないので、ただのおっさんの戯言みたいなもんですが。
「あんのこと」の河合優実を観るのが楽しみです。