人見知りエンジニア、飲み会を断る
彼は飲み会に行かないエンジニアだった。
忘年会でも新人歓迎会でも、アンケートが回ってくると悩まず欠席を選択する。
新人歓迎会が行われる5月。
「期待してるよ、島田の一発芸!」
「うわ〜、無茶ぶりじゃないですか!」
「2年目は盛り上げるのが役目でしょ!」
オフィスの中ではしゃぐ人たちがいた。
「舞山くんってさ、飲み会来ないの?」
当日の朝に、幹事の先輩が話しかけた。
「ええ、まあ」
「役員の人とか本部長とかもいるし、来たほうがいいよ。ほら島田くんは来るし。同期でしょ?」
「・・・・・・考えときます」
舞山は定時になると、かばんを持って会社を出た。こういうときは思い切りが大切だ。ぐずぐずすれば飲み会の流れに巻き込まれる。堂々と帰る。飲み会のことなど知らないように振る舞う。
帰りがけ、彼は東京駅の丸善に寄って3階の技術書棚へ行く。背表紙を追いかけてスマホにメモする。LinuxもJavaもGitもわからない。2年目でこれじゃだめだ。
帰宅すると残り物を食べ、技術書を1時間読む。彼の習慣だ。
技術者として実力をつけ、社内で認められる。彼の希望だ。
そうすれば、飲み会を欠席したとき心に残る、罪悪感のような気持ちが薄れる。先輩や上司とも仲良く話せる島田への劣等感も消える。
彼はそう考え、行動していた。
4年後に彼はOJTで1人の後輩を指導することになった。
「あの、Gitの使い方で質問があって・・・・・・」
「うん、なになに?」
「プッシュしたときにエラーになっちゃって」
「あ、これは社内プロキシのせいだな。ちょっと待って・・・・・・このコマンド打ってみて」
「ありがとうございます、うまくいきました!」
「ところで、舞山さんって今日の飲み会行きますか?」
「あー、ごめん。新人歓迎会だよね、行かないわ」
「あ、そうなんですね」
「飲み会行かないんだよね、私」
後輩は内心で舞山の行動に感心した。
彼もまた飲み会が嫌いだったのだ。
「舞山さんのように、私も飲み会に行かないようにしよう」
舞山は飲み会に行かない。
それでも重要なプロジェクトや後輩の指導を任される。
「飲み会に行かなくて大丈夫なんでしょうか」と後輩に相談されることもある。
「大丈夫だよ。まあエンジニアだからね、私たちは。しっかり技術の勉強して。チームメンバーとコミュニケーションして。それで成果出せば良いんじゃないかな」
彼の言葉が広がり、無理に飲み会へ参加する人は減っている。
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