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人見知りエンジニア、相談することを覚える(前編)

「相談のやり方って、わかる?」


マネージャーのミサキは言った。

「相談のやり方ですか」
「そう」

ミサキと舞山は1on1面談をしていた。

「ええと・・・・・・」
舞山は少し困惑したが目を逸らさずに考えた。

「じゃあ、やってみよう。お客様へ提出するドキュメントの作成を依頼したとしよう。Azure環境の設定値を書いた設計書ね。これ書いてって言われたときにどう動く?」

彼女と舞山はオフィスのオープンスペースにいた。淡いベージュのソファーが置いてあって近くに観葉植物が植えてある。
オフィスから視界が区切られていて落ち着いて話ができると彼は思った。


舞山は少し考えて、つっかえながら話し始める。

「まず・・・・・・Azureに入って、設定を見てエクセルにまとめます」
「なるほど、その後は?」
「えっと、体裁とか整えてミサキさんに出します」
「オッケー」

彼女はスターバックスのドリップコーヒーを一口飲む。

「もう一度付き合って。私がスタバで飲み物買ってきて、って頼んだとするじゃない? そのときはどうする?」

舞山はスターバックスのカップを眺めた。
「スタバですか?」

「うん、いくよ」


「ねえ、スタバで飲み物買ってきてくれない?」
彼女は甘えた声で言った。

「・・・・・・はい。あー、えっと・・・・・・何買ってきましょうか、いつものドリップコーヒーですかね」
「うん、お願い」
「わかりました、ホットでいいでしょうか」
「オッケー。サイズはショートね、あとでお金出すわ」
「わかりました」

「と、こんな感じになるわよね」
「まあ、そうですね」


「ドキュメント作るときとスタバに行くときで、進め方変わってない?」
「うーん、そうですか?」
「スタバは、何買ってきますか?って聞いてくれたよね」

「ミサキさんの飲みたいものがあると思って」
「だよね。ドキュメントは思わなかった?」
「・・・・・・あ、うーん、エクセルで良いと思って」
「うんうん、どうしてそう思ったの?」
「いつもエクセルで書いていたので」
「うん」


「ドキュメントも同じでさ。相手が何を求めているのか、どういう目的なのか。それを明確にすると良いと思うのね」
「・・・・・・そうですね」
彼はすこし肩を落とした。

「何を飲みたいのかは私しかわからないじゃない? だから舞山くんは聞き返してくれたよね、なにが飲みたいですかって」

彼女の言葉に舞山はうなづく。

「ドキュメントも同じで、お客さんに出すといっても体裁はいいから早めにほしいかもしれない」
「なるほど」
「だから相談してほしいの。スタバのときはできてたよ」

「相談ですか」
人ではなくGoogleになら、たびだび相談しているなと彼は思った。


「うん。仕事のときは1人で進めてること多いかもなって思ってたの」
「あー、はい・・・・・・」

周りに相談しようと思っても声をかけられず自分で解決することが多かった。舞山にとって人を頼るのは難しいことなのだ。加えて相談には苦い経験があった。


「あ、それが悪いってわけじゃないよ。ただ、わからないこととか一人で決めないほうがよいことは相談したら仕事進めやすくなると思うの」
「そうですね」

コーヒーがほしいのにフラッペを買って来てしまうようなものだと内心考えた。

「そう。で、最初の話に戻るけど」

彼女は舞山の前に座り直した。


「相談のやり方、知りたい?」

舞山はミサキの目をまっすぐに見た。
「教えてほしいです」


後編に続く

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