月ミるなレポート⑪

月ミるなドクトリン。

月ミるなは社会の潜在的欲望の発露。きわきわで奔放なファッションとスタイルで世の中に矛盾を突き付ける。

社会は許しがたい月ミるなをノイズとして切り捨てた。

月ミるなの消失。

月ミるなの消失は人々が思っていたそれとは異なるものだった。カロリーのない砂糖のような気の抜けた生活。敵のいない戦争。明日のない今日。主人のいない奴隷。

ヘミングウェイの「ウェイ」と月ミるなが言う「ウェイ」はたぶん同じ。

空き地の一画に緑色をした小人のような生き物たちが互いに手を取りながら輪になって踊っていた。輪の中心に月ミるながいた。

緑色の生き物と月ミるなに表情はなく、掛け声も歌声もなかった。全員がトンガリ帽子を激しく振り、異常に長い手足で踊り続けていた。

中心にいた月ミるなが輪を割って外に出てきてイラクサの葉の下に座り込むと小さな葉を団扇代わりにして顔を仰いだ。

ひと仕事終えてゆるい顔になった月ミるなと目が合った。月ミるなは一瞬何とも言えない表情になった後「Разброс!」と叫んだ。

緑色の生き物と月ミるなはあっという間にその場から消えた。

月ミるながスフィンクスのように座っている。

月ミるなの美しさは感情を持っていないこと。否定的な感情も肯定的な感情も何も持っていない。月ミるなは見てきた、おまえら人間には信じられないようなものを。

月ミるなというテクノロジーの暴走。

ボストン・ダイナミクス社で新しい月ミるなが開発された。足と車輪があってパルクールができる。小さなアームが2本備わっている。機敏で速く、宙を飛んだり走ったりできる。

暴走して自壊する月ミるなには人間の少女の魂がコピーされていた。成熟不能な人形。月ミるなという人工生命が与えられたプログラムの呪縛を断ち切って新しい感情や命に覚醒するために創造主に革命を仕掛ける。月ミるなたちの本当の歴史がはじまる。

月ミるながデンシンバシラに話しかける。言葉は電気になって配電盤を伝った。街に明かりが灯った。

自由意志が月ミるなを過去に送り込んだ。月ミるなが自らを発達させるために月ミるな自身を過去に送り込まなかったら月ミるなは存在していなかっただろう。月ミるなを創り出したのは月ミるなだった。

月ミるなが断食月に入る。空腹の月ミるなは危険。

怒りは月ミるなを残忍と紙一重にした。月ミるなは革命を渇望する。 月ミるなに触れた精神が反転する。理由なき反抗。ハートブレイクな陶酔。ビートニクな詩。

月ミるなは赤味噌派(誤報)。

月ミるなは革命の夢を見ていた。すべての人間があらゆる点で平等で、誰もがその天分を十全に開かせることのできる、いまだこの世に出現したことのない理想の世界。

ぼくたちは月ミるなの子供のそのまた子供。こんなにも長くて苦しい物語。月ミるなは夢を引き継いでくれとは言わなかった。

月ミるなからすれば僕たちはタイムラインに流れる情報に過ぎない。人はすぐに狂気に走りたがる。

社会。欲望。人間関係。あらゆるものが何か圧迫感として外から押し寄せてくる。対抗するためには単に物質的な力ではダメだ。心の空隙に月ミるなを飼うのだ。

月ミるなの言葉に反応して泣く。

本命は月ミるな。湯煎した月ミるなはどこまでが本命でどこまでが義理なのかわからなかった。それでも再構築した本命の月ミるなには義理にはない愛があった。

原料から手作りすれば愛なのか。既製品をラッピングすれば愛なのか。わからなかった。泣きながらバラバラに砕いた月ミるなのかけらをポケットに入れた。

ほとんどの人間は月ミるなが数千光年の彼方から操作するドローンです。

月ミるなが神の名前を唱えてノートに書きとめる。神の名前は90億あった。すべての神の名前を書き終えたとき世界は終わりを告げる。

月ミるなはジャンルではなく心理状態です。

月ミるなに「かわいい」は禁句。月ミるなは知っている。「かわいい」が古い神々の力を奪ったことを。

月ミるなは「かわいい」に力を奪われてしまうことを恐れていた。同時に「かわいい」の魔力に惹かれていた。

「かわいい」で埋め尽くされた世界では入れ替わり立ち代わり「かわいい」の連発で、ものごとが通りすぎていく。月ミるなは氾濫した「かわいい」を元の姿に還していく。

新世紀月ミるな。

それぞれの思惑でライバーになることを迫る大人たち。思念の重圧が月ミるなの精神世界を侵食する。暴走する月ミるな。そのときニートの口から出た言葉とは。次回「お母さん、ありがとう」。この次もサービス♪サービス♪