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とある夜の出来事・・・

昨晩、突如として起こった話。

ずっと梅雨空ばかり見ていた、この数週間。
久しぶりに出会った雲のない夜空に浮かぶ星を眺め、
「明日は晴れるな~」なんて
遠足前夜でもあるまいし、
ましてや、そんな思いを抱く性格でもない僕だが、
なぜだか、昨晩は
センチメンタルな気分にさせられた。

いつものようにタバコを燻らせ、
行先はタバコの煙に決めてもらい、
どこを見るわけでもなく、
ただ、ボ~っと、静かな夜に消えゆく
煙の行く末を見守っている。

いつもなら、
バイクだか、トラックだかしらないが、
「そんな音出す必要あるか?」
と感じる不必要なノイズが、
この長い人生のコンマ数秒を狙い撃つように、
苛立ちというパルスを走らせる。
そんな感覚にさせられてもおかしくない
タイミングなのだが、
「今日は静かだな」と
日々、ニュースなどのマスメディアに
あえて触れないという
作為的情報途絶状態を作っている僕は、
「避難しなきゃなんないとかじゃ
 ないだろうな・・・」
と、一抹の不安さえよぎる
そんな静かな夜だった。

消えかけのタバコを灰皿へと移しながら、
久しぶりの夜空がもう少し傍に居てくれと
訴えかけるかのように、少し冷たい風が吹く。
なら、もう少しと、まんざらでもない僕は、
新しいタバコに火を着ける。

そんな時だった・・・

いつも煙の行く先でよく見かける
少し赤みのかかった星が瞬いたように感じた。
そんな勘違いともいえる感覚と共に
今日は別のパルスが頭を駆け抜ける・・・

もう何年も前・・・
星になった猫の事を思い出した・・・

動物好きな一家で育ち、
犬も猫も、ウサギも文鳥も、そしてリスも。
そんな多種多様な僕らより短命な生き物たちと
出会い、そして別れを幾度となく経験してきた。
思い出したのは、
「もう、僕はこれ以上は耐えれないと思う・・・」
星になった時に、そう感じた猫の事だった。

話を少しずらす・・・

僕は写真が苦手である。
建物や風景の写真は撮れるのだが
人や動物の写真が苦手である。
ましてや、自分が写るのは、もってのほか。

そんな僕は、
今まで時間を共にした友や家族や
短命な生き物達の写真を、そして自分の写った写真を、
総合計しても両手で足りるくらいしか持っていない。

なぜかというと、
僕は写真を撮るという行為を記録としてではなく、
アートとして捉えている節が強いからだと思う。
とにかくパシャパシャができない。
欲しいシーンを欲しいアングルで構図で・・・
「ここっ!!」と、狙い撃ちたい。
動物となると動的過ぎて
そんな感覚になった次の瞬間には
もう、そのシーンはない。
だから、写真家さんやプロの方は
連写等で撮って、動を静へと変換するのだろう。

それに加え、
もちろん造詣のある方や、プロの方は
それができるのだろうが、
僕は肉眼で「これだ!!」と思った瞬間や構図を
写真で表現する事ができない。
技術もさることながら、僕はメガネなしでは、
まともに世界を捉える事さえできない。
そのレンズonレンズ+技術不足が相まって、
見直した写真は、僕の欲しかったあの
ビルの隙間から覗く空とは、ズレが生じている。

そういえば、
「二度と戻らない瞬間だからこそ、
 写真という付箋に頼らず、しっかりと刻んでいたいから」
と、カッコついてんだか、いないんだかな、
写真に写りたくない言い訳をどこかでしたような気がする。

そんな、訳のわからんこだわりと、
レンズと世界の狭間に潜む、側溝程度の小さなギャップが
僕を写真から遠のけている。

話を昨晩に戻そう・・・

そんな僕故、その猫との写真は持っていない。

無常なもので、鮮明だった記憶も
時と共に色褪せていく・・・
そんな無常にも色褪せ、朧げとなった
記憶達を寄せ集め、デフラグするものの、
まるで僕とレンズの関係のように
そこには、時という埋める事のできない
ギャップが横たわる・・・

久しぶりにハッキリと星の見える夜空に
僕だけが取り残されたように
朧げで曇った世界に取り残されていた・・・

そんな時・・・
今度は、あの赤みかかった星のすぐ近くで
至って普通な別の星が少し強く瞬いた・・・

「そうだ!!」

瞬きと閃きが、夜空で交差する。
朧げで曇った世界と、ひどく晴れ渡った夜空が
乳化して一つになる。

矢継ぎ早にパソコンを立ち上げ、
いつも画像生成で使っている
PixAIさんのブラウザを立ち上げる。

「いけるか・・・」

ちょうど直近のログインがこの瞬間だった。
デイリー配布の10000ポイントが加算され、
使っていなかったポイントと合わせ、
約20000ポイント・・・

見敵必殺とはいかない事はわかっている・・・
弾倉に込められた弾丸は・・・
モデル選定やプロンプト調整の為に、一旦、画質を下げ、
サンプリングメソッドを変更して消費を抑えたとして、
ざっと見積もって、15発・・・

「いけるかじゃない、やるんだ・・・」

もちろん、今晩やる必要は何処にもない。
明日になれば、またポイントが支給され、
約30000ポイント、約23発でのスタートとなる。

理屈ではわかってる・・・
しかし、この瞬間は明日には来ない・・・
この気持ちは、明日にはもう色褪せ始める・・・

僕はAI画像生成と出会い、少し変わった。
思いと時間の・・・
世界と僕の・・・
そんなギャップが徐々に狭まり、埋まり始めていた。

こんな感じの人をこんな風にこんな場所で・・・
こんな感じのアングルで、これぐらい寄って・・・
それが、たとえ嘘と虚像の世界だったとしても・・・

とりあえずクオリティ系のプロンプトは
過去に生成した画像そのままで。
ネガティブプロンプトも、
今回の生成とは対極にあるようなものの為に
組み上げられたプロンプト故、全く意味を成さない。
なので、ここは弾数も限られているが、
敢えて、不用意な事はせず、
各モデルで設定されたデフォルトで。

次は詳細。
大体の自分の雰囲気と猫の毛色等を英語にする為、
ChatGPTにメッセージを送る。
「キジトラの猫の英語は・・・
 へぇ~、tabby catっていうのか」
「黒いダブルのライダースジャケットの英語は?」
などなど、ひたすらChatGPTに問いかける。

とりあえず、欲しいニュアンスは伝えれたはず。
そして、ここからが勝負所・・・
モデルを決め、ボルトを引き、
トリガーに指を添える・・・

一発目・・・
もちろん、外れる・・・
まず、モデルの選定を誤った。
よく使っているリアルとアニメの間な雰囲気の
ものなのだが、リアルな風味がなにか違う・・・
それに猫の雰囲気や、僕の風貌が
欲しいものとは違う・・・

モデルはもちろんの事、
雰囲気や風貌のプロンプトにテコ入れをする。

二発目・・・
思ったより、近い。
モデルの選定はどうやら当たったようだ。
だが、僕らの感じが違う。
「革ジャン、シングルだし、
 なんで半袖なんだ・・・まぁ、カッコいいけど」
「色指定してないからかな~・・・
 キジトラだけどチャトランカラーじゃないんだよな」

そして、「なんとかいけそうだな」と
3発目、4発目と
精度が上がったり、下がったりしながら、
限りある弾丸を慎重かつ大胆に打ち出していく。

だが、8発目を打ち切った際に、異変に気付く。
「マズい・・・概算、ミスったか・・・」
15発と計算していたが、このまま行くと、
後5発しか弾薬がない事に気付く。
「なぜだ!?」
状況を整理している場合でもないのだが、
この非常事態を招いた原因を
落ち着くためにも、究明しておきたかった。

「あの時か!!」
実は5発目の時、どのモデルでいくかは
決定していたのだが、いつもの実験心で
モデルを変えてみてしまったのである。
それも2回!!
「こりゃ、ダメだなw」と
変える際に選択していたサンプリングレートが
デフォルトにリセットされ、
コストが上がってしまう。
その際に生じた不必要なポイントが
累積で2発の無駄な消費へと繋がったのである。
挙句、少し安堵していたのもあり、
生成は一種のガチャ要素がある為、
生成が終わっていれば、モデル変えて再生成と
タバコを吸うため、ベランダとPC前を
行ったり来たりしていたのであった。

状況を鑑みれば、
「じゃあ、明日に・・・」
なんて思うのかもしれないが、
生粋の天邪鬼が目を覚まし、闘争心に火が灯る。
「後5発!?やってやろうじゃね~の!!」

誰かにお願いされた訳でも、
締め切り迫る訳でもない。
そう。
元より、追い詰める必要なんて何処にもない。

でも、なぜだろう・・・
こんなに熱量を持っているのは・・・
なぜだろう・・・
よくわからない使命感に駆られるのは・・・

それは、きっと想いなんだと思う。
いつもは適当にいい感じの女の子が
生成されたらいいや程度の軽い気持ちでやっているが、
今回は、違う!!
同じ気持ちでやれる訳がない!!

「もう、迷わね~!!」

モデルは当初、これでと決めたものに戻し、
プロンプトを、もう一度、綿密に確認、修正する。

残り4・・・

「また、これかよ・・・」
これがディープラーニング機能なのか、
モデルを変えたとしても、なぜか前の残影が残って、
反映されてしまう。
ただ、猫と僕、背景の感じは欲しい絵に
確実になってきている。

残り3・・・

まだ、薄っすらと残影が漂い薫る・・・

「後、2発・・・」
もうとっくにルビコンは超えている。
だが、もう頭のどこを探しても
戻るや止まるという言葉はない。

残り1・・・

・・・

・・・・・

「ハハッ!!」

もう言葉にもならなかった。
そこには、クオリティは最高とは言えないし、
あの子そっくりとも言えない。
僕に関しては、美化されすぎ。
そんな風な構図になった事も、きっとなかった。
でも、なぜだろう・・・
こんなにも涙が溢れてくるのは・・・

家に帰ると玄関までやってきて
「ニャッ」と猫にしては短い鳴き声で
挨拶をしてくれた。

また違う日は、
帰っても玄関への迎えはなく
「やべっ、ベランダ開けっ放しだったんじゃ!?」
心配になって部屋に入ると、
ベランダは開いていないが姿がない。
「どっか、挟まってるとかないよな・・・」
名前を呼びながら、
家中のありとあらゆる隙間を見てまわる。
すると、そんな心配もよそに、
ホックホクに温まった体でシレっとした顔をして
僕のベッドから顔を出してきたり。

「なんでしょうか?」
そんな顔で、悪びれる事もなく
キッチンの解凍中の鶏肉を狙ってみたり。

そんないろんな思い出が、
心と頭の中で交錯し、乱反射し跳ね回る。

そんな思い出に浸りつくし、涙も止み始めた頃。
温かくなった心と共に、
もう少し、思いに浸たろうとベランダで
タバコを燻らせる。

いつものように行先はタバコの煙に決めてもらい、
どこを見るわけでもなく、
ただ、ボ~っと、静かな夜に消えゆく
煙の行く末を見守っている。



そんな煙の行く末にあったはずの星は




なぜか、もう、そこにはなかった。



僕は本当の君との写真は1枚たりとも持っていない。
君も僕も似ても似つかない。
でも、君と僕は、これが出来上がった瞬間に確かに時を共にした。

だから、これは君と僕との初めての写真。

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