【Colabo①】取り急ぎ、東京都による監査結果報告書を読んでみた
ネット(特にTwitter)界隈を騒がせている"一般社団法人Colabo"の事件ですが、本日(2023年1月4日))東京都監査委員による監査結果が公開されましたので、ひとまず一通り目を読んでみました。
あくまで当該記事は当監査結果の概要を紹介する内容に留まりますので、あらかじめご了承ください。
そもそも何が問題だったのか
既にご存じの方も多いので詳細は割愛しますが、”暇空茜”なるネットユーザーが東京都への開示請求などによりColaboに関連する文書を入手したところ、Colaboの活動報告に「不正会計の疑い」があるとTwitterアカウント及び自身のYouTubeチャンネル等で主張し、これが蜂の巣をつついたようにネット世界を巻き込んだ大騒動となったことがきっかけでした。
Colaboは東京都より、家庭の事情などにより自宅にいられなくなった10~20代の女性を主な対象として、彼女たちを保護し安全な場所を提供したり自立支援の機会を与えたりする「東京都若年女性等支援事業(以下、支援事業)」を受託・運用していたのですが、当該事業に係る都への報告書やColaboが独自に公開している年次報告等と比較したところ、「不正会計」の疑いがあるというものでした。
その「不正会計」はまとめると、以下の通りです。
ホテル代が活動報告×単価と実績の数値とが乖離しており、差額を不正受給している
タイヤ代・ガソリン代・会議費について社会通念を超える金額が計上されており、実際よりも過大報告している
通信運搬費の金額が報告書に説明されている主要な金額の内訳の合計を下回っている
法定福利費の金額が整合しておらず過大計上されている
医療費が二重に支払われている
人件費が四半期ごとの金額と年間の合計額とで整合しない
相談人数・長期保護人数が整合していない
以上の「不正会計」の疑義があるので、都に対し支援事業及び当該事業を受託しているColaboに対する監査を請求するものでした。
監査の結果
暇空氏の主張について
結果から言えば、前述の7項目はほぼ(全くではない)「問題なし」という内容でした。
全27ページの分量のうち、暇空氏による請求内容(法人名以外原文通り、全5ページ)や支援事業の概要に比べると、上記7項目の検討は3ページ程度で表現の使いまわしも多く、意外なぐらいにあっさりした印象を受けます。
内容の8割は、概ね以下に集約されます。
経費が実際に発生していることが確認された(水増しではない)
差異は支援事業以外にColaboが独自に行っている事業によるもの(そもそも一致しなくて当然)
察するに、暇空氏が「不正会計」と疑ったものの多くは、Colabo側で保管している帳簿や証憑(領収書・請求書・契約書などの資料全般)や担当職員へのヒアリングで説明がつくもので、不正の余地が無かったのでしょう。
Colaboの会計は特殊?
ここで、Colaboが採用している会計ルールについても簡単に触れておきます。
一般社団法人であるColaboには「公益法人会計基準」が適用され、株式会社や個人事業主と違って独自のルールがあります。
解説するだけで記事一つ分書けてしまうので詳細は割愛しますが、その大きな独自のルールの一つに、事業ごとに会計の区分を分けるというものがあります。
これは何かというと、法人が内容や目的の異なる事業を営んでいる場合、各事業ごとに「会計」を分けなければならないというものです。
例えばある法人がA・Bという2つの事業を行っている場合では、それぞれの経費をA会計・B会計ごとに分けなければならず、A事業に要した経費をB事業に計上することはできません。
(Colaboが外部に公表している年次報告書には明記されていませんが、特に指摘が見られないところ会計ソフト等においては概ね適切に区分されていることが窺えます)
Colaboに話を戻しますと、Colaboは都から受託した支援事業以外にも以前から独自に続けてきた事業もあるわけで、支援事業の経費はいわばColaboの経費の一部に過ぎません。
Colabo側の会計区分がいい加減でない限り、会計ソフトや帳簿などを見れば整合性は確認できたものと考えられます。
不正受給どころかそもそも赤字だった?
そもそも論として、支援事業の仕組についても解説しておきます。
支援事業については都よりあらかじめ予算が決められており、事業の運営のための資金として都より同額が「概算払」として支払われます。
受託したColaboはこの資金の範囲内で事業を行い、資金が余った分は都に返還し、足りない分は自身で負担しなければなりません。
事業年度終了後は、「精算書」という名目で実際に使った金額を都に報告します。一般企業の税務申告と同様、領収書等の添付は不要ですが保管が義務付けられています。
令和3年度の支援事業の予算額(=概算払い額)は2千6百万円であり、実際の経費の合計額も全く同額としてColaboから報告されています。
前述の通り、この2千6百万円が故意に実際の金額よりも膨らましたものであれば、差額は不正受給という理屈になります。
しかしこれについても、監査結果報告書においては「委託内容を履行していないといった特段の事情は認められない」と結論付けており、少なくとも重大な不正行為があったとは読み取れません。
監査結果報告書には、以下のような表が記載されています。これは、Colaboの帳簿を基に実際に発生した支援事業の経費を集計したものです。
お分かりの通り、実際には26,000-29,057=△3,057千円の赤字となっていたことになります。
都への報告は精算書すなわち「あらかじめ支払われた予算の使い道」という名目であるため、精算書の数値は必ずしも実績とイコールではなかったのです。
費用を水増しして私腹を肥やす以前に、足が出てしまって差額は自腹を切らざるを得なかったのが実態であり、監査結果報告書においても「都に損害をもたらす」という関係にはないため、「請求人(暇空氏)の主張には理由がない」と小括しています。
Colaboも無謬だったわけではない
しかしながら、Colabo側に全く問題が無かったかというと、そうでもありません。
当記事前半部の暇空氏による「不正会計」のうち、3.(通信運搬費)、4.(法定福利費)及び6.(人件費)に関連するほか、「不正」とまではいかないもの経費の計上に当たっての問題点が複数指摘されています。
以下、解説していきます。
通信運搬費の金額誤記
精算書上は216千円と記載している一方で、その内訳の説明として「携帯電話代240,000円及びインターネット代360,000円」と書かれており、これは勘定科目を誤って計上したことによるものとのことです。
Colabo側で概算払いを受ける前に事業の年度予算を提出しており、合計が同じだからいいやと、精算書にも実際に計上した科目を確認せず予算の金額を丸写ししてしまったことが原因のようです。
人件費の会計区分誤り
人件費に含まれる税理士・社労士の顧問料(人件費とすることそのものは誤りではない)は、必ずしも支援事業に直接関連するものではないので全額を計上するのは適切ではないと指摘しています。
これは前述したとおり、各会計ごとに経費を分けて計上しなければならないことを指すのですが、税理士報酬などのように全体あるいは複数の事業に跨って発生する費用に関しては、一定の基準(例えば従業員数・利用者数・床面積など)で各会計ごとに按分することが原則となっています。
この点、Colabo においては按分のルールが十分に整備されていなかったり、按分すべき費用が按分されずに全額を特定の事業に計上されたりしていたとのことです。
給与に源泉所得税等が反映されていない
これは経費を水増しするのでなく逆に過少計上となるので都から見て実害はなく、報告書上も前項の人件費について簡単に付記する程度の扱いだったのですが、個人的に驚いたので紹介します。
給与や賞与からは、源泉所得税、住民税、社会保険料の本人負担分などが差し引かれた残額が従業員に支払われることは、皆さんもご存じだと思われます。
本来であればこれらを差し引く前の総額を給与等の科目で計上し、差し引く金額は預り金などの勘定を用いて処理するのが原則的な会計処理の方法です。
もしかしたら職員や顧問税理士の入れ替わりなどで上手くフォローできなかったのかも知れませんし、既に改善されている可能性もありますが、経理業務としては基本中の基本なので、Colabo内部の経理体制がちょっと心配です。
領収書として疑義がある領収書?
「本事業の特性上やむを得ない事由があることは理解できる」と断りを入れていることと、件数や金額が明記されていないので影響は全く不明なのですが、世間一般のルールに照らして領収書とは言い難い資料が含められているようです。
おそらく、DVシェルターに関する経費などプライバシー漏洩が絡んだり、単純に課税されるのを嫌ったりする等の理由から、住所氏名を記載した領収書の入手が困難なケースが推測されます。
例えば法人税の実務であれば「経費証明書」のような書面を職員に記載させる方法もあるのですが、こちらで代用することも厳しいのでしょうか…
活動記録が不十分
アウトリーチ活動(繁華街などで保護の必要な女性等に声をかけたりする活動)などにおいて、活動の実施回数や声をかけた人数・参加者数の記載にとどまっているため、実施頻度やより具体的な活動実態が把握しにくい点が指摘されています。
給食費・宿泊支援費が過大?
これは暇空氏が強調していた箇所の一つですが、業務に照らして不相応に高額なのではと疑問を呈しています。もっとも、暇空氏に比べ報告書の記載は随分あっさりしているようにも見えるので、どこまで問題視しているのかは温度差がありそうです。
今後都やColaboが対応すべきこと
「勧告」の対象は誰?
報告書がそれなりの分量であるため混乱しやすいのですが、主語や対象をはっきりさせないと誤読するおそれがあります。
当事者だけでも以下の通りになります。
監査対象局(東京都福祉保健局)
請求人(暇空氏)
一般社団法人Colabo(報告書上は「法人A」)
監査委員
特に、1.と3.が支援業務の委任契約を結んでいる関係で、どうしても両者が混同しやすく、それが今回の情報の錯綜を助長している一因にもなっています。
報告書では末尾の「結論」の章において「勧告」を行っていますが、その主語は全て監査対象局(東京都福祉保健局)となっています。
ただ、福祉保健局も報告書で指摘された事項をフォローするために、Colabo側にも一定の宿題を出さなくてはいけないのも事実です。
2月28日までの宿題
監査委員は令和は5年2月28を期限として、福祉保健局に以下の「宿題」を課しました。
支援事業に必要な経費の実績額を再調査・特定し、客観的に検証可能なものとする。
1.の調査の結果不適切なものや委託料の過払いが認められたら、過年度分についても精査し返還請求等の措置をとる。
当然ですが、過年度の経費でも前章で指摘されたような事項が不適切とみなされたのであれば、Colaboも遡って返還しなければならなくなるはずです。
その措置が重いか軽いかまでは、報告書だけでは読み取れません。
ただ、暇空氏が声高にアピールした「不正会計」の大半がことごとく「妥当でない」と切り捨てられたところ、返還義務が生じたとしても金額としては限定的なものに収まる可能性が高いのではないかと個人的に考えます。
一例として挙げられた「一回当たりの支出が比較的高額なレストランでの食事代」にしても、Colabo側もその正当性について主張しており(リンク先9.参照)、否認されても総額で大きな金額ともなりにくいでしょう。
当該対価が相応かどうかは、ここでは論じませんが、法人税の交際費の実務のように、会計帳簿などに人数あるいは会議の記録などを作る方法も用い得たでしょう。
上記の宿題以外に改善すべき提案事項が列記されていますが、こちらは割愛します。
総括
以上の通り、監査結果報告書を要約してみました。
既に知られている通り、当報告書は1月4日に公開される前の2022年末に請求者である暇空氏に提示されて、暇空氏も自身のnote記事で部分的に公開していました。
当該記事が有料であったこともあったためか、監査結果に関する情報も断片的に広まり憶測が憶測を生む状況も生じたものです。
ただ、具体的な指摘事項である通信運搬費や人件費などの形式的な会計ミスを除き、Colabo側の主張を概ね裏付ける印象でした。
気になるのは過大とみなされる(返還が求められる)経費がどの程度の範囲なのかという点です。
これに関しては検討の期間が2ヶ月と短いこともあり、明らかに社会通念を逸脱したものでないかぎり、都側も踏み込んだ判断はしづらいのではないでしょうか。
もう一つ、暇空氏によるColaboに対する名誉毀損を巡る裁判も控えています。
裁判の推移によっては、都の判断と裁判所の事実認定とで差異が生じることだってあるかも知れません。
都としては、どこまで白黒つけることが出来るでしょうか?
今回の騒動全般に関しては会計士・税理士の立場からいろいろ掘り下げてみたい点が多々ありますが、普段の多忙さにかまけて手がなかなか回りませんでした。
なんとか機会を確保して、考察してみたいと思います。
追記
訂正について(2023/1/7)
掲載当初はColaboが適用している会計基準として「公益社団法人等会計基準」と記載していましたが、正しくは「公益法人会計基準」の誤りでした。
これは私の思い違いによるもので、会計基準そのものが異なるわけではありませんし、記事内容に影響するものではありません。
お詫び申し上げます。
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