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定常経済 と SDGs | 戦争をなくすために

定常経済とは何か?

経済成長を前提としない新しい経済モデル

私たちの社会では、経済成長が当たり前のものとされてきた。GDPの拡大は、豊かさの指標とされ、国の発展の目標として掲げられてきた。しかし、環境問題の深刻化や資源の枯渇、社会的格差の拡大など、成長経済がもたらす負の側面も明らかになっている。こうした課題に対する解決策のひとつとして、「定常経済(Steady-State Economy)」が注目されている。

定常経済の定義

定常経済とは、「経済の規模を拡大せず、一定の範囲内で持続可能な形で維持する経済モデル」である。これは経済活動そのものを停止するのではなく、成長し続けるのではなく、適切な範囲で維持しながら発展を目指すものである。経済学者ハーマン・デイリーによると、定常経済は「人口と資本ストックを一定に保ちつつ、可能な限り低いレベルのスループット(資源消費と廃棄物排出)で維持される経済」と定義されている。

ハーマン・デイリーの理論

ハーマン・デイリーは、生態経済学の分野を切り開き、持続可能な経済の枠組みとして定常経済を提唱した。彼の理論の根底には、地球の有限性と経済活動の物理的制約に関する認識がある。

1. 経済は生態系のサブセットである

デイリーは、経済活動が独立したシステムではなく、自然の中に組み込まれた一部であると考えた。従来の経済学では、資源の利用や環境負荷を考慮せずに成長が前提とされてきた。しかし、地球の生態系には物理的な限界があり、経済成長が環境破壊をもたらすことを警鐘として鳴らした。

2. 定常経済の基本原則

デイリーは、定常経済を実現するために、以下の3つの原則を掲げている。

  • 持続可能な規模の維持:経済活動を生態系の扶養力(キャリングキャパシティ)の範囲内に収める。

  • 公正な分配の実現:富と資源が公平に分配される仕組みを作る。

  • 効率的な資源利用:再生可能資源の利用を促進し、浪費を減らす。

3. 経済成長の限界と「不経済な成長」

デイリーは、「成長が必ずしも経済的な利益をもたらすとは限らない」と指摘し、一定の成長を超えると「不経済な成長(Uneconomic Growth)」が発生すると論じた。これは、成長によって得られる利益よりも、環境破壊や社会的不均衡といったコストが大きくなる状態を指す。例えば、都市化の進展による交通渋滞や健康被害、森林破壊などは、経済活動の拡大がもたらす負の影響の例である。

定常経済の基本要素

定常経済の基本要素は、以下の3つに集約される。

  1. 人口と資本ストックの安定

    • 定常経済では、人口やインフラ、耐久消費財などの資本ストックの規模を一定に保つ。

    • 経済成長に伴う過剰な人口増加や都市拡張を抑え、持続可能な範囲で生活を維持することが目標となる。

  2. スループットの最小化

    • スループットとは、経済活動を維持するために必要な資源の流れ(採取・生産・消費・廃棄)を指す。

    • できるだけ少ない資源で生活の質を維持することが求められる。

    • 資源効率を高め、リサイクルや循環型経済を推進することが重要である。

  3. 質の向上による進歩

    • 経済成長とは異なり、定常経済では物理的な「量」の拡大ではなく、「質」の向上を重視する。

    • 例えば、技術革新によってエネルギー効率を高めたり、製品の耐久性を向上させることが重要である。

成長経済との違い

定常経済のメリットと課題

メリット

  • 環境負荷の低減:過剰な資源採掘や廃棄物排出を抑えることができる。

  • 持続可能な社会の実現:将来世代が必要な資源を確保できる。

  • 生活の質の向上:消費の拡大ではなく、持続可能な生活スタイルを重視する。

課題

  • 経済システムの転換が必要:現在の成長前提の経済モデルからの移行が難しい。

  • 雇用の維持:経済成長を前提としないため、新たな雇用の創出が求められる。

  • 政策と社会意識の変革:成長を求める価値観の転換が必要である。

定常経済は、これまでの成長経済とは異なる視点を提供し、持続可能な社会の実現に向けた重要なモデルとなる。経済の拡大を目的とせず、限られた資源の中で質の向上を図ることが、これからの社会に求められる新たな経済のあり方といえる。


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