【考察記事】デュエマの3色カードがインフレしたわけ
[10500文字ありますので、お時間に余裕のある時におつきあいください]
はじめに
革命編以降何かとインフレが取り沙汰されるデュエルマスターズですが、革命以前にも何度も大幅なインフレーションを起こしています。
中でも代表的なのは、サイキッククリーチャーが初登場した『覚醒編』でしょう。このシーズンからコスト5でWブレイカーを場に出すのが普通になったわけですから、単純にこれまでのデュエマより1ターン展開が早くなったといっても誤りではないでしょう。
それ以前の衝撃的なインフレといえばサムライとナイトの登場した「戦極編」。
このシーズンでは単純にクリーチャーのカードパワーの水準が上がる、全体的なインフレーションが起こりました。
雰囲気的には、最近の『十王篇』でのインフレに近いと思います。
そのインフレが分かる例として、《霊騎 デュナス》があります。
これまでの自然文明・3コスト・バニラ(能力なし)のクリーチャーのパワーは3000だったのですが、このデュナスは4000になっています。
《炎のたてがみ》や《フォレスト・ホーネット》をみても分かるように、低コスト帯では1コストにつきパワー1000の法則があったのですが、《霊騎 デュナス》はそのルールから逸脱しています。
なお、この法則は2〜5コスト帯にのみ当てはまります。
6コスト以上では、攻撃時のパワーが6000ならWブレイカーがコスト論にかかわらず付与されることや、重量級は1コストにつきより多くのパワーが得られる法則があります。
《霊騎 デュナス》が特別というわけではなく、おそらくクリーチャー全体の性能が1コスト分ずつ上昇したのでしょう。
この1コスト分インフレした『戦極編』の以前にインフレと言われたシーズンには、かの有名な『聖拳編』があります。
『聖拳編』はご存知の方も多いかと思いますが、デュエマ史上屈指の壊れカード《無双龍機 ボルバルザーク》を輩出したエキスパンションです。
そしてデュエマ史上初の多色(レインボー)カードを封入したセットでもあります。
そしてこの『聖拳編』でのインフレーションには、
◆開発が意図してインフレさせた ということのほかに、
◆多色カードのコスト換算 の問題がありました。
前者については『聖拳編』に収録されている多色呪文サイクル…「エターナル呪文」サイクルがあります。
『聖拳編』というタイトルには「エターナル・アームズ」というルビがふられているのですが、これは日本語にすれば「永遠の武器」といった意味になります。
このタイトルからも分かる通り、デュエマ開発はデュエマ史上でずっと使われるくらい強い呪文を作ろうとしたらしいのですが、現在聖拳編のエターナル呪文サイクルは《魂と記憶の盾》を除いて全て殿堂しています。その《魂の記憶の盾》も長らく殿堂入りしていました。
ずっと使われるどころか、それを通り越して禁止兵器になってしまっているのは「ずっと使われるカード」というコンセプトが失敗していたということでしょうか(笑)
とはいえ(殿堂のために)1枚だけ使える激強呪文というのは、「正に切り札!」という感じがして個人的には好きでした。
本題となるのは後者のコスト換算の問題です。
これらのカードを見てほしいのですが、色が一色増えるごとにパワーが1000ずつ上昇しています。
これらはいずれも戦極編以前のカードです。
先程《霊騎 デュナス》を例に、『戦極編』以前はコストにつきパワーが1000上がる法則があることを紹介しました。
これを踏まえて考えるならば、デュエマの多色カードは追加の色一色につき1コスト分の性能を得ている可能性が高いと言えるのではないでしょうか?
2色なら+1コスト分の性能、3色なら+2コスト分の性能になる…
◆この法則が確かなものであり、なおかつ
◆幾度とないインフレを繰り返した後の現代デュエマにおいてもこの法則が生きている
今回の記事では、上のように仮定した上でなぜデュエマの3色3マナカードがインフレしたのかを探って行こうと思います。
また、2〜5コストにおいてコストにつきパワーが1000上がるという法則については、エピソード前後で完全に崩壊しています。
さらにはエピソード前後で例外的に、《激竜王》、《死海竜》、《虚空の力 レールガン》といったスーパーバニラクリーチャーが登場しています。
さて、考察を始めていく前に、2点押さえておきたいことがあります。
一つは「デュエマにおけるインフレは何種類もあること」、もう一つは「デドダムと3色3マナカードのインフレに関係があるのか」ということです。
デュエマにおけるインフレには何種類もある。
タイプ①:多色が登場したことによるインフレ
冒頭で触れた2色なら+1コスト分…というやつですね。
聖拳編で2色、極神編で3色のカードが登場した際、単色よりも明らかにコストパフォーマンスが良いカードが登場しました。また、エピソード2で無色が登場した際にも、高コスト帯の無色カードはこれまでの高コストカードよりスペックが高く、マナに置いた際色が出ない関係でコストに対する性能が高く設定されているのではないかと考えられました。
タイプ②:進化登場によるインフレ
デュエルマスターズ第2弾登場によって「進化クリーチャー」が登場し、クリーチャーのパワーライン、ゲームの展開が大きく変化しました。黎明期に要素が出揃っただけと見ることもできますが、ここでの変化が長い期間尾を引くことになります。
タイプ③:特定の能力に対応するパワーやコストを過少に設定したことによるインフレ
デュエマでは、コストに対応するクリーチャーのパワーの最大値が決まっていて、そこから能力を加えるたびに妥当な点数パワーが減点されていくという形で、クリーチャーカードがデザインされていると言われています。これを「コスト論」と呼ぶプレイヤーが多いです。例えば、「スピードアタッカー」を持たせるならパワーが–2000、「パワーアタッカー+2000」を持たせるならパワーが–1000されると言った具合です。
具体的な例を上げると「ドロー」と「侵略」、「革命チェンジ」です。
これは有名な話ですが、初期のデュエマはドローを過少評価している節がありました。事実、第4弾『闇騎士団の逆襲』に収録された《アストラル・リーフ》は環境で大暴れしてしまいます。
※もしかすると、《アストラル・リーフ》のデザインにおいてドロー効果を軽く見積もった訳ではないのかも知れません。実は《アストラル・リーフ》には元ネタがあります。それは、mtgのぶっ壊れ呪文《アンセストラル・リコール》、1マナで3枚ドローできます。《アストラル・リーフ》と《アンセストラル・リコール》は、「ア」「ス」「ト」「ラ」「ル」「リ」「ー」の7音を共有しており、所謂もじりであることは自明です。《アストラル・リーフ》の「アストラル」は今や命名法則化していますが、そもそも《アストラル・リーフ》は初の進化サイバー・ウイルスで、この時点で進化サイバー・ウイルスの命名法則は存在していなかった可能性が高いです。実際、《アストラル・リーフ》という名前は、【英形容詞(または名詞)+英名詞】という非進化サイバー・ウイルスの命名法則を踏襲しています。なので、無理矢理元ネタ踏襲で3ドロー出したら失敗だったという可能性も否めないのです。
「侵略」「革命チェンジ」は運営・開発が意図的にインフレを起こすために、あえて釣り合いの取れない量のパワーと紐づけられた能力です。大雑把な計算ですが、おそらく「侵略」も「革命チェンジ」もパワー1000〜2000相当だったと思われます(つまり、パワーを−2000すればこれらの能力をクリーチャーにつけられた)。
※《エヴォル・ドギラゴン》と《轟く侵略 レッドゾーン》の比較などから
これは、カード全般のパワーを露骨に上げるとプレイヤーのインフレへの不満が大きくなってしまうので、異様にコスト論上優遇されたキーワード能力を作って、インフレを誤魔化したかった狙いがあるためだと思われます。
タイプ④:コストあたりのパワーや性能が上がる、全般的なインフレ
1コストあたりのカードの性能が上がる、つまり全般的にカードの性能が向上するインフレです。
端的に言えば、かつて1コスト=パワー1000前後という設定だったのが、1コストあたりパワー2000くらいになってしまったということです。
※一応補足しておくと、デュエルマスターには黎明期からコストの帯域毎にパワーの基値が存在しています。例えば、コスト1なら–500、2〜5なら0、6〜なら+1000〜3000という決まりがありました。(コスト6以降のパワーの基値、コストあたりの適正パワーはエキスパンションを経る毎に大きくインフレして行きました)例えば、2コストでバニラを作ろうと思えばパワー2000になりますが、1コストのクリーチャーを作るとパワー500か、–500点のパワーの帳尻を合わせるために何らかのデメリットを持ったパワー1000になってしまいます。
十王篇や戦極編でのインフレがこれに当たると思います。また、「革命チェンジ」の影に隠れて革命ファイナル期にも、コストあたりの性能の見直しが行われていました。
こうしたインフレが起こる理由としては、
◆カードのデザイン領域の回復
◆歪になったゲーム性の回復
◆購買意欲の刺激
などがあるでしょう
そして、今回の考察の焦点となると①と④のインフレです。
次いで、
デドダムって関係ないの?
ということについて触れておきたいと思います。
結論から言えば、
関係アリアリだと思います。
少なくとも、『王来篇』に入ってから高スペックな3色3マナカードを連発する…という開発運営の方針に影響していない筈がありません。
非常にスペックの高い3色3マナのカードを他の文明にも配ることで、デドダムのカラーリング(水/闇/自然)以外のデッキを構築する意義を大きくしようという意図はあるでしょう。
しかし、デュエマ運営開発の考えは、「デドダムが強かったから、他の文明にもデドダムみたいな強いカードを作った」というような単純になものではないように思われます。
もう少し先を見すえているんじゃないかと思います。
そう私が考える根拠として、《Dis ジルコン》というカードがあります。
このカード、あまりにも《天災 デドダム》に似すぎているんです。
同じ文明で、同じくドローとディスカードを持っています。その一方でデドダムの凶悪さを際立てる1マナブーストは無くなっています。
加えて、《天災 デドダム》は再録が露骨にしぶられている状況…
《天災 デドダム》はデュエマ運営開発の中で殿堂入りの議論の俎上にあるのではないでしょうか?
そう考えれば、《Dis ジルコン》がデドダムに近い性能をしているのに納得がいきます。
これについては、
「ショップ経営者に経済的打撃を与えないために、高額で取引されるデドダムの再録を控えている」
だから、
「再録できないデドダムと相互互換の関係になる《Dis ジルコン》を収録させることで、デドダムの需要を抑えようとした」
という反論が考えられます。
これについても十分あり得ることです。
「デドダム再録したいけどできない…だからデドダムっぽいカードを作って、安く流通させて、ガチ勢以外にはこれで満足してもらおう!」というのは、トレカではよく見る次善の策ですよね。
しかし、仮にそうだとしてもデドダムは特別なカードです。
よく比較される3色3コストのカードたち…例えば《T・T・T》などとは大きく異なる点があります。
それは、
コスト論的に適正な設定か、不適正な設定か
という点です。
結論から言えば、《T・T・T》を始め《夏だ!デュエル修行だ!!》、《Dis ノメノン》など強力な3コスト3色カードは、一応コスト論上は適正なのに対して、《天災 デドダム》は完全にコスト論上ありえない過剰なスペックになっています。
コスト論とは:クリーチャーの場合、コストにつきクリーチャーが持ち得るパワーの最大値が決まっていて、そのクリーチャーが持ち得るパワーを消費して、さまざまな能力が付与されている…という考え方。例えば、スピードアタッカーはパワー2000に相当することが知られていているが、3コストバニラ=パワー3000だった初期のデュエルマスターズには《解体屋 ピーカプ》というパワー1000のスピードアタッカー持ちクリーチャーが存在する。
「《T・T・T》や《Dis ノメノン》が適正!?馬鹿を言うな」と思われるかもしれません。
しかし、こうしたカードのスペックが(コスト論上は)適正になることについては、「多色カードは追加の色につき1コスト分スペックが上がる」法則を用いれば説明できます。
つまり、3色3コストのカードは、コスト論上では単色5コスト相当のスペックを有していい…ということになります。
ですので、単色の4〜5コストのカードとこれらのカードを比較すれば、コスト論上適正かどうか評価できるわけです。
ここから実際コスト論上適正かどうか評価していくのですが、その前にご了承いただきたいことがあります。
それは「コスト論上適正なカードが、実際のゲームで使用して壊れていないとは限らない」ということです。
これについて詳しくは後述しますが、コスト論はトレカの開発において、異常に強いカードが生まれないようにするための1つの仕組みであって、コスト論とカードプールを駆使すればゲーム性を壊せるほど強力なカードは作れるのです。
これについては、コスト論上は明らかに適正なのに他のカードとのコンボで環境を破壊した《ボルメテウス・サファイア・ドラゴン》などが良い例となるでしょう。
10コストという重厚なコストをフルに活用して、直接攻撃に全振りした性能のドラゴンになりましたが、《インフェルノ・ゲート》や《ダンディ・ナスオ》とのコンボにより大暴れしてしまいました。
これから評価を行う《T・T・T》などのカードについても、コスト論上は許されるスペックの限界に収まっているカードですが、それがゲームとして許されるとは限りません。
デュエマにおけるインフレーションの傾向についても抑えておきましょう。
◆クリーチャーのインフレは速いが、
◆呪文のインフレは冗長である
これは、同じコスト性のゲームであるmtgにおいても言えることです。ドローやハンデス、確定除去など、呪文にはカードに枚数単位で影響を与えるものが多いのですが、カードプール全体のインフレに伴ってカード1枚あたりの価値が上がることはあっても、下がることはそうありません。
然るに、そうした枚数単位で影響を与える呪文を不用意にインフレさせると、クリーチャーのインフレと乗算的に効果を増して手をつけられない状況になりかねないという事情があるのです。
逆に、コストではなくパワーを参照する火力呪文のインフレは早いですが、これも同じ事情によります。
それでは本題の、コスト論上適正かの評価に戻ります。
《T・T・T》
まず比較対象として上げるべきは《王立アカデミー・ホウエイル》でしょう。
《王立アカデミーホウエイル》は4コスト単色の呪文なので、《T・T・T》を5コスト相当とみなす場合、1コスト分の余裕があります。
もちろん《キリモミ・ヤマアラシ》も大量タップも4コスト以内で収まる範疇の効果です。
デュエマの呪文における選択肢の存在は1コスト相当なので、《T・T・T》はコスト論上成立します。
コスト論上ギリギリを攻めつつも、一応は成り立つスペックに収まっていると言えるでしょう。
《夏だ!デュエル修行だ!!》
同じく4ドローを持つ呪文としては、単色6マナの《クアトロ・ブレイン》があります。
ただしこれはまだ、《王立アカデミーホウエイル》がない頃のカードをなので、同じ3ドローの《トリプル・ブレイン》(5コスト)が参照されたと思われます。
故に、現代のデュエルマスターズで4ドロー能力に相当するコストは5マナであると考えます。
また、手札から1枚をマナゾーンに送る効果は、《シビレアシダケ》などから1コスト相当であると思われます。
故に、このカードの「4ドロー+マナ加速」という性能は6コスト相当になるので、超過してしまったコスト分をディスカードとターンの強制終了というデメリットで調整しているのでしょう。
見た目以上に手堅くまとまっているカードです(コスト論上は)
これら呪文についてはコスト論上十分あり得る範疇にあることが確認できました。
しかしクリーチャーについて非常に厄介です。
先述したタイプ④のインフレの内実を明らかにして、十王篇以降のコストに対するパワーの基準を算出しなければならないからです。
しかし、現在のインフレが進んだ環境下で3コスト多色のバニラクリーチャーが登場しておらず、「現代のデュエルマスターズにおいて、3色3マナのバニラクリーチャーのパワーはいくらが適正か?」については概算するしかありません。
デュエルマスターズでは攻撃時のパワーが6000以上ならWブレイカーを、12000以上ならTブレイカーをコスト論上はにかかわらず(つまりパワーを1点も下げずに)クリーチャーに持たせてもいいという法則があります。
しかしながら、3コストの非進化Wブレイカーは《覚醒するブレイブ・ホーン》と《チョトツ変怪》のみで、運営開発がイレギュラーな存在として扱っていることわかります。
そして現在1色3コストバニラの適正パワーは《アシタモ・ハレッチ》の5000。
つまりどう考えても、2色3コストバニラのパワーは6000を下回らず、3色3コストバニラは7000以上になるでしょう。
以上の事情から、現在のデュエマ運営開発は多色バニラを作りづらい状況にあると言えるでしょう。仮に作ってしまうと、パワー6000超過でWブレイカー持ちになってしまい、3コスト以下の非進化Wブレイカーを作らない原則に反してしまうので…
さて、こうした事情を踏まえた上で多色3コストバニラクリーチャーの適正パワーを概算していきます。
その材料に《コンプライーグル》を使用します。
《コンプライーグル》の持つ「マッハ・ファイター」はパワー1000相当、「ブロックされない」能力はパワー1000相当なので、現代デュエマにおける2色3コストバニラが存在していたとすれば、そのパワーは7000になるでしょう。
《麗泳者 マツバメモノ》のスピードアタッカーと攻撃時のドローもそれぞれパワー2000相当なので、やはり適正パワーは7000になります。
ここから順当に上昇したとすれば、3色3コストバニラの適正パワーは9000になります。
《Dis ノメノン》
まず最初に確認しておきたいことなのですが、「スピードアタッカー」と「マッハファイター」のセットに相当するパワーは2000+1000で、3000ではなく2000である可能性が高いです。
《リュウセイ・天下五剣カイザー》や《「姫様宣言」プリンセス》といった両方もつクリーチャーを見るに、「マッハファイター」分のパワーが減じられた形跡がないからです。
これは「スピードアタッカー」と「マッハファイター」を同時に持つ場合、「マッハファイター」が「バトルゾーンに出たターンのみアンタップされたクリーチャーも攻撃できる」という効果としてしか働かないこと、加えて火+自然にしか存在できない組み合わせであることへの優位性を加味した判断なのかもしれません。
そして「ジャストダイバー」なのですが、《隠れ潜む者 シードラン》からパワー500相当である可能性が高いと判断できます。攻撃時単純に1ドローする能力はパワー2000相当なので、シードランの攻撃時能力は最低でも2500に相当するはずだからです。
残ったパワー1500に《Dis ノメノン》の「バトルに勝った時〜」能力が相当していれば、《Dis ノメノン》はコスト論上適正であるということになりますが、これは適正だと思います。
というのも、でこれまでデュエルマスターズにおいて、「バトルに勝った時」に誘発する能力はハードルが高いと判断され、コスト論上優遇されてきた形跡があります。(《爆竜 ベルナルド・タイソン》、《GF隊中佐 爆音のジャック》、《ガイアール・アバレ・カイザー》…バトル勝利で当時の環境では規格外なボーナスが得られたクリーチャーは枚挙に暇がありません…!)
山札の1枚目を手札かマナに加える能力は優秀ですが、バトル勝利が条件ならば普通にパワー1500相当に収まるでしょう。
確かに《Dis ノメノン》は異常なほどに強力なカードですが、かつてのサファイアがそうであったように、コスト論上は適正な壊れカードというのは作ろうと思えば作れるようなのです。
デドダムが例外であるわけ
これは単純に公式が「コスト論での調整を放棄して生まれたカードである」ことを明言していること、これに尽きます。
しゃば氏は当初の「デザインは4コストの呪文だった」と述べているが、これがコスト論上適正だった可能性が高いとみえます。
というのも、ドロー+マナ加速ができる呪文としては既に《フェアリー・シャワー》があり、丁度1色足せばトリガー付きの3種リソース呪文がデザインできるのは道理でしょう。
あるいは《フェアリー・シャワー》がコスト論上不相当に低いスペックであることに着目して検討すれば、3色3マナでドロー+マナ加速+墓地肥やしのトリガーなし呪文が成立することは確認できます。過去のカードの法則から、「ドロー+マナ加速」効果が3コスト相当、トリガーが0.5〜1コスト相当なので、《フェアリー・シャワー》からトリガーを取り除けば、1コスト分浮きます。色が一色増えたことと、1コストの浮きで、山札を見る枚数が1枚増えたことと、墓地肥やしができるようになったことは説明できます。
コスト論上できると言っても、環境への影響を鑑みて微調整を加えられたカードはいくらか存在します。最近では、《フェアリー・シャワー》に限らず《フェアリー・ソング》、少し前ではレッドゾーンの侵略元になる準バニラコマンドなどがありました。
しかし、説明できるのはここまでです。
3色3コストで手札マナ墓地が柔軟に増やせる…というところが限度です。
クリーチャー本体がどこからやって来たのか説明しようがないのです。
デドダムにおいては、《Dis ノメノン》のように「コスト→適正パワー→適正パワーから能力分パワーを引く」という計算をしていませんが、これはクリーチャーのcip(出た時能力)は、既存の呪文にならう原則があるからです。例外として、キャントリップ(出たときにカードを1枚引く)は、DS期までパワー2000相当でした。
然るに、他の3色3コストカードが、十王篇以降の現代のコスト論を駆使して生まれたカードであるのに対し、デドダムはコスト論による調整を放棄した結果生まれた異端児なのです。
先にも述べたように、デドダムの登場が運営・開発に強力な3色カードを開発させる契機になったかもしれませんが、根本的な違いがあるのです。
コスト論上適正な壊れカード、どうして今まで作らなかった?
呪文に関しては、環境への影響を鑑みて適宜調整されていたからだろうと思います。また、クリーチャーに関しては長らく(2〜5コスト帯で)1コストにつきパワー1000の関係があったので、コストが1〜2コスト分優遇されようと、その影響が大いに現れることが少なかったと思われます。
加えて、インフレーションによる1コストの価値の上昇によって、多色カードがマナゾーンにタップして置かれることの影響が大きくなったこともあるでしょう。
革命ファイナル以降、これまで以上に多色カードが手札でダブつくことのゲームへの影響は大きくなっており、当然単色カードのアンタップインすることの優位性はより意識せねばならないものになってきました。
そうした状況下で多色カードを採用するインセンティブを大きくするため、コスト論上攻めたカードを開発するようになったということもあるでしょう。
これまでのおさらいと結論
◆「戦極編」以前のカードの法則から、2色なら単色のカードに対して+1コスト分、3色なら+2コストの性能が得られることが分かった。
◆かつて、1コスト=パワー1000の関係があったが、インフレと1コストあたりの価値の見直しにより、今では1コスト2000〜3000程になっている。
◆呪文はゲームバランスの観点からインフレ速度が冗長である。しかし、呪文におけるコスト論の見直しなどは行われているため、全くインフレがないわけではない。
◆ゲームの高速化に伴い、多色カードのタップインによるデメリットが大きくなっている→コスト論上ギリギリ許される高スペックな3色カードの開発が行われるようになった。
◆デドダムは完全イレギュラーな存在なので、上項とは関係がない。ただし、そのスペックが環境に与えた影響から、壊れ3色カードを開発する一因となったかも知れない。
これらを総括すると、
デドダムの存在感、高速化に伴って多色カードがタップインすることのデメリットが大きくなったことなどから、コスト論上ギリギリ許される高スペックの3色カードが作られるようになった。
その際、十王篇以降大幅に1コストあたりのスペックが上昇したことによって、多色カードが文明数に応じて更に1〜2コスト分の性能を得る法則の効果が劇的に現れるようになった。
ということになります。
今起こっているインフレは、コスト論を度外視して感覚でカードを作っているから起こっているわけではないみたいです。
むしろ、革命で捻れてしまったコスト論を是正するため、過剰なスペックに多くのカードが追いつくため、コスト論を見直した結果起こったようです。
コスト論は今も死んでおらず、生きているからこそ起こるインフレもあるのでしょう。
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