2022年以降のMTGはどうなる?妄想と考察
はじめに
2022年が始まりました。
みなさま、あけましておめでとうございます。
そして昨年のご愛顧誠にありがとうございました。
2021年はMTGプレイヤーにとって正しく激動の一年でした。
軽く振り返ってみると次のような感じになると思います。
2021/3/19 『時のらせんリマスター』発売
2021/6/11 『モダンホライゾン2』発売
2021/8/26 『ジャンプスタート:ヒストリックホライゾン』をアリーナにてリリース
2021/10/15 『パイオニアチャレンジャーデッキ』発売
2021/12/9 新フォーマット「アルケミー」をアリーナに実装
ーーー激動の2021年の振り返りーーー
爆ぜた下環境
2021年のMTGにおいて殊更に衝撃的だったのは、『モダンホライゾン2』と『ジャンプスタート:ヒストリックホライゾン』でしょうか。
これらのセットはその名の通り、「モダン」と「ヒストリック」というMTGにおいて特に愛されているふたつのフォーマットを別物にしてしまいました。
誇張表現でもなんでもなく、全くの別物に…
『モダンホライゾン2』によるモダンの大変化
『モダンホライゾン2』はモダン環境に数多のパワーカードを追加して、環境を一変させたことで大きな賛否を巻き起こしたセットです。
『モダンホライゾン2』には、当時モダン参入の上で最も厳しい障壁のひとつとされていた「フェッチランド」が収録されており、多くのプレイヤーにモダン参入を促してくれました。
これがモダンホライゾンへの賛否の「賛」の主たる部分です。
『モダンホライゾン2』が現状のモダン人気の起爆剤となったのは確かです。
一方で「モダンホライゾン2」は本当に多くの問題をはらんでいました。
それはかつてないカードパワーの高さと、それによって環境を一変させてしまったこと。
『モダンホライゾン2』以降、モダンのメタゲームは絶えず変化し続けており、それ自体はそう悪いことではありません。
問題は、そのメタゲームの変化が『モダンホライゾン2』のカードを使用しないデッキを駆逐する方向で進んでいるということです。
モダン…というよりMTGの下環境の楽しみは、プレイヤーごとに様々に解釈されてきました。
人によっては、積み上げられたカードプールの歴史の厚みに楽しみを見出していましたし、Tier1ではないデッキでもある程度戦えるところに魅力を感じているプレイヤーもいたようです。
あるいは、何年も同じデッキを調整しながら使えることに幸せを感じていたプレイヤーもいたと思います。
しかし、こうした類のモダンへの思いは『モダンホライゾン2』によって砕かれてしまうことになりました。
もちろん、新セットの新カードがモダンの特定のアーキタイプをダメにしてしまうリスクはこれまでもずっとありました。
しかし、多くのプレイヤーが覚悟していたのは、「3か月に一度訪れるスタンダード用の新セットから刺客が現れること」であり、モダンに天変地異が起こることは予想していなかったでしょう。
『モダンホライゾン2』の強力なカードをより多く採用する方向で環境が変化しているため、メタゲームが『モダンホライゾン2』のわずか1セットのみに定義づけられている感があります。
10年以上も前のセットから直近のセットに至るまで、マジックの広い歴史から強いカードを拾い集めてオールスター的にデッキを組んでいたモダンは消えてしまいました。
『モダンホライゾン2』発売以降、モダンのTier1のアーキタイプ数は増減を繰り返しています。
仮にTier1アーキタイプ数が多いまま環境が安定したとしても、それはおそらく『モダンホライゾン2』のカードを大量に採用したアーキタイプばかりになるでしょう。
Tier1のデッキに対してマイナーなアーキタイプのデッキが善戦できたモダンも、長いマジックの歴史からカードをかいつまんでデッキを組むモダンも自然に帰ってくることはないかと思います。
Tier1アーキタイプ数という横軸の広がりが回復する可能性はありますが、歴史によって積み重ねられてきたカードプールとそれによって実現される無数のTier2デッキという縦軸の広がりは失われたままになると思います。
『ジャンプスタート:ヒストリックホライゾン』によるヒストリック天変地異
2021/8/26にアリーナに実装された『ジャンプスタート:ヒストリックホライゾン』もまた、MTGに激震を走らせました。
『ジャンプスタート:ヒストリックホライゾン』は、大半が「モダンホライゾン」と「モダンホライゾン2」から収録された特殊セットであり、モダンホライゾンシリーズ同様、収録カードがヒストリックに直送されました。
『モダンホライゾン2』の衝撃からモダンを離れ、しばらくヒストリックを遊んでいようとしていたプレイヤーは、『モダンホライゾン2』のカードが後から追ってきた格好になりますから、すさまじい不満を覚えたようでした…
個人的な体感ではありますが、こちらはむしろ海外勢からの評判が悪いように感じます。
(公式Twitterのリプライ欄や、Twitchのチャット欄に「ヒストリックを修復しろ!」という旨のコメントがびっしり投稿されるのが常態化しています)
ただし、『ジャンプスタート:ヒストリックホライゾン』については、もとよりヒストリックのカードプールが広くなかった上に、《孤独》や《敏捷なこそ泥、ラガバン》など、一部の超パワーカードが実装されていないことに加え、フェッチランドがないために多色化によるデメリットが健全に機能しているなどの事情から、多様なアーキタイプが林立しメタゲームが目まぐるしく流転するなど成功している側面が目立ちます。
とはいえ、このヒストリックの激変によって「ローテーションによりスタンダードで使えなくなったデッキを再度活躍させられるフォーマット」が突然に消えてしまったことになりますから、不満に思うプレイヤーがいるのも当然かと思います。
平たく言えば、突然「ヒストリック」のサポートを終了して、代わりにモダンとパイオニアの中間のような「新ヒストリック」を実装したようなものですから(~ようなものというか、まさしくそうなのですが…)、納得できないプレイヤーがいるのも当然でしょう。
最後の爆弾「アルケミー」
「アルケミー」は2021/12/9に実装されたアリーナ用の新フォーマットで、デジタル専用カードの継続的実装をともなうことを特徴としています。
アルケミーについてのまとめと、その考察については以下の記事にまとめましたので、もしお時間ございましたらこちらもご覧いただけると幸いです。
さて、この「アルケミー」ですが、これもまた激しい賛否を巻き起こしました。
その争点となったのが、以下の2点
MTGに対して、いかにもDTCG的なカードやコンテンツを実装することに違和感があること
ヒストリックに対してまた大きな影響が与えられること
前者についても後者についても、過度に感情的な反発とは言えないでしょう。
アルケミーは公式のアナウンスにより、今後のMTGの競技シーンにおいて重要な位置づけに置かれることが明らかになっています。
要するにアルケミーは新たな競技用フォーマットなのですが、「テーブルトップのTCGが好きで真剣にMTGに打ち込んで来たのに、競技プレイをするためになぜかDTCGに打ち込まないといけなくなった」という状況が生じるのではないかという懸念を感じているプレイヤーが多くいらっしゃるようです。
考えてみれば当然のことで、そもそもDTCGが好きならすでに別のDTCGのタイトルを遊んでいてもおかしくないですし、デジタルでテーブルトップと同様のプレイができる点にMTGAの魅力を感じている方も少なくはないでしょう。
「アルケミー」の実装に際して紛糾したのはむしろ後者のヒストリックへの影響に関してのことで、この発表が引き金となって英語圏でかなりの騒動になっています。
(先述した通り、公式へのリプライ欄や公式Twitchのコメント欄に、抗議の声があふれかえる状況が続いています)
『ジャンプスタート:ヒストリックホライゾン』の影響に困惑している最中に「今後も継続的にパワーカードを投下し続けます」という、まるで追いうちをかけるかのようなアナウンスがなされた格好になるので、憤慨するプレイヤーがいるのは無理もないことでしょう。
個人的には今のヒストリックは嫌いではないですし、アーキタイプの多様性もあって楽しいと感じてはいるのですが、今後のアルケミー用カードの追加によってどんどんMTGらしさが損なわれていくのではないかという懸念も感じています。
なにはともあれ、このアルケミーの施策について、私たちプレイヤーが評価や結論を下すにはあまりにも早いでしょう。
今後スタンダード用セットの発売ごとに、アルケミー用セットもリリースされる予定であり、基本的にアルケミー環境には5~8のアルケミー用セットが存在することになります。
ゆえに、「アルケミー」の施策に対して評価を下すのであれば、早くても5つ目のアルケミー用セットがリリースされたときにすべきでしょう。
今はヒストリックへの影響を考えるにも、アルケミーのゲーム性について語るにも、アルケミーのセットとカードの数が少なすぎます。
だからといって、「アルケミー」がフラストレーションの貯まっているプレイヤーの心情を刺激してしまったことをないがしろにしていいわけではありませんし、WotCは2021年に大きく揺らいでしまったファンの信頼と改めて向き合っていくことになるかと思います。
ーーーーーここから本題ーーーーー
なぜMTGは強烈なセットを連打したのか?
さて、ここからが本題になるのですが、2021年のMTGの動向からその開発背景を考察し、それを元に2022年以降のMTGがどう展開されていくのか予想してみるのが今回の記事の趣旨になります。
先述したように、2021年の間にMTGは衝撃的で賛否を巻き起こすような施策を立て続けに行ったのですが、その背景として一番に考えられるのがコ口ナウイルスによる経営状況への影響です。
コ口ナウイルスによる営業への影響と言っても、MTGの売り上げが下がったわけではなく、むしろ逆に好調で2020年度は前年度よりも大きな売り上げを上げたようでした。
…であるならば、普通に考えれば極端な方針転換を図らずとも、ここ数年と同様の商品開発を継続していれば、ファンの信頼を損なわずに2021年も多額の利益を出せたのではないでしょうか?
MTGが2021年度に極端な施策を連発した理由には、MTGそれ自体の売り上げではなく、WotCの親会社であるハズブロ社の利益の落ち込みがあったようです。
コ口ナウイルスによる経済への影響は、シンプルに全般的な消費の冷え込みとして現れることがおおく、そうした影響下でも所謂「巣ごもり需要」に良く合致したWotCの『ダンジョンズ&ドラゴンズ』とMTGはよく売れたようなのでした。
なので、「長く続くことが予想さえるコ口ナウイルスの影響下で落ち込むハズブロの利益を、依然好調なWotCの収益で補填できるようにしよう」という考えになったと推察するのが自然でしょう。
そのために、MTGをこれまで以上のドル箱コンテンツにするために、アレコレテコ入れをしたのが『モダンホライゾン2』と『ジャンプスタート:ヒストリックホライゾン』だったのでしょう。
しかしながら、ただ単純に『モダンホライゾン2』や『ジャンプスタート:ヒストリックホライゾン』を発売した、あるいは「アルケミー」を実装したからといって、それでただちにMTGの収益性が改善されるわけではありません。
2021年の施策は多くのプレイヤーの反感を買っていますし、開発段階でそうしたプレイヤーの反応があることはある程度予測できていたはずです。
それにもかかわらずこうした製品をリリースことには、何か継続的に収益性を改善するための意図があったはずです。
仮にそうした意図がなく、単純に「強いカード刷っていっぱい売ろうぜ」というだけの考えならただの焼畑にすぎません。
しかし、前述の通り「WotCのブランドにハズブロの社運をゆだねる」という方針を固めたのなら、MTGで派手に焼畑して近視眼的に利益の上げようとするのは集団自殺のようなものでしょう。
然るに、この記事ではWotCやハズブロはMTGで焼畑をしようとしたのではく、何らかの意図があって大きな改革を行ったのだと仮定したうえで考察をすすめて参ります。
さて、2022年以降のMTGについて考えるなら、プレイヤーの反発が容易に想像される商品展開を強行してまで実現したかったWotCのビジョンを探る必要があるでしょう。
そして、WotCが2021年に行った収益性改善のための取り組みは、「フォーマットと製品とを結びつけて、確実にマネタイズできるようにする」ことだったと私は推察しています。
もうちょっとくわしく説明してまいります。
商品とフォーマットを結びつけるマネタイズ
スタンダードのプレイヤーは製品Aを、パイオニアのプレイヤーは製品Bを、モダンのプレイヤーは製品Cを…というように、フォーマット毎にプレイヤーが買いたがるであろう製品を用意すれば、あらゆる客層から広くマネタイズすることが可能になるはずです。
そう考えると真っ先に思い浮かぶのが『モダンホライゾン2』
多数の強力なカードを大量に収録したこのセットは、モダンプレイヤーへの高い訴求力がありました。
最近再生産分が市場流通し始めたことなども加味して考えると、『モダンホライゾン2』はロングセールを狙った製品であるように思われます。
だとすればあと1年ほどの期間、WotCはモダンプレイヤーから『モダンホライゾン2』一本でマネタイズする心づもりなのかもしれません。
パイオニアでは『パイオニアチャレンジャーデッキ』が発売されました。
この製品も大変な人気だったものの、これがパイオニアプレイヤーからマネタイズするための収益源だったとは考えにくいです。
なぜなら、構築済みデッキは基本的に一度売れたらそれっきりですし、継続的な収益源にはなりえないからです。
むしろ『パイオニアチャレンジャーデッキ』は、他のフォーマットからプレイヤーを呼び込むための呼び水的な位置づけだったのだと思います。
ではWotCはパイオニアプレイヤーから継続的にマネタイズする手段を用意しなかったのかというと、それも違うと思います。
この「WotCがパイオニアプレイヤーから継続的にマネタイズする製品が何だったのか」という話は、後の話に深く関わってくるので一旦切り上げます。
構築済みデッキを多数販売したものの、それ自体がメインの収益源ではなかったというのは構築済みの統率者デッキに対しても言えることでしょう。
ただし統率者の場合は層が厚く、カジュアル層から真剣にプレイしている層まで様々で、高額なセットから熱心にパーツを集めるものもいれば、余ったストレージのカードからデッキを組む者もいるでしょう。
統率者は特定の製品と結びつけるのではなく、スタンダードのパックに魅力的な伝説のクリーチャーを多く封入するなどして、MTGのあらゆる製品と関連付ける方向でマネタイズすることを想定していたのではないかと思います。
2020年末に『統率者レジェンズ』を出していたので、スケジュール的に統率者専用製品をリリースしなかった可能性もありますが…
ここまでパイオニア・モダン・統率者の収益源となる製品について触れてきましたが、問題となるのはレガシーとスタンダードです。
まずレガシーについては、ほとんど必須級の「デュアルランド」と呼ばれるカード10種類が著しく入手困難になっています。
これら「デュアルランド」は、WotCが『クロニクル』発売直後に「再録禁止」というポリシーを打ち出したために再録することができないため、WotC側が再録などによってレガシーへの参入障壁を緩和することもできない状態です。
ゆえにWotCはレガシーへのサポートを行うことも困難だし、レガシーから目ネタイズする製品も作りづらい状況にあります。
こうした状況を鑑みてWotCは、「フォーマットの役割を繰り上げるという施策を試みたのではないか?」というのが私の考えです。
WotCはフォーマットの役割を繰り上げた?
「スタンダード落ちした名カードを長く使えるフォーマット」という役割をモダンからパイオニアに譲り、モダンをWotCがサポートしやすいレガシーにする…という垂直方向の役割の繰り上げがあったのではないか?という考えです。
こうすることで、スタンダードとレガシーの中間という似通った立ち位置のせいでパイオニアがモダンに客を食われていた状況を改善できるかもしれませんし(現実にはそうなっていませんが)、何よりそう考えることによって2021年のWotCの施策の多くに説明がつきます。
また、そもそも本気で収益性を改善したいハズブロとWotCが、額面でみた市場規模の大きいレガシー市場に何らの手も加えないのは考えられない、というのも私がこのように考えた一因です。
モダンをWotCによる直接の干渉が容易なレガシーにすることで、レガシープレイヤーやレガシーにあこがれのあったプレイヤーをモダンに送客し、比較的大きな額のマネタイズが可能になるという手筈だったのでしょう。
そう考える根拠として、『モダンホライゾン2』には『モダンホライゾン』に引き続いてピッチスペルサイクルを封入していましたし、それらは『モダンホライゾン』のピッチスペルよりもずっと大きなカードパワーを有していました。
《頑強》という強力なリアニメイト呪文の追加などからも、レガシーのアーキタイプやゲーム性をモダンにもたらすという構想を感じられます。
「モダンホライゾン2」は「モダンホライゾン」とは別な開発コンセプトだった?
「モダンをレガシーにする」というミッションをWotCが掲げていたのなら、『モダンホライゾン』と『モダンホライゾン2』とは全く別な開発コンセプトのもとにリリースされたことになります。
そのことを裏付けるかのごとく、『モダンホライゾン』のカードの大半は絶妙なバランスでデザインされていました。
「『モダンホライゾン』が絶妙だった」というと疑問に思われるかもしれませんが、実際『モダンホライゾン』は当時のゲームバランスを考慮して雑なパワーカードを作らないように腐心していた形跡があります。
その一例として、モダンホライゾン2のピッチスペルサイクルは慎重にデザインされており、弱くはないものの支配的な活躍を見せるものは少なく、サイクルの一角《否定の力》の採用率は非常に高いものの、それでも雑に4投されるカードではありません。
忍者や猫、ゾンビなどプレイヤーが組みたがる部族デッキのパーツを投入したり、《紆余曲折》や《炎の投げ矢》のような痒いところに手が届くパーツで、埋もれているア―キタイプを活性化させようという意図が、もっと平たく言えばプレイヤーが「こんなカードあれば」と思ってそうなのを本当に作ってみたセットという感じが『モダンホライゾン』には多分にありました。
問題を起こした割にはプレイヤーに寄り添ったデザインだったのが印象的でした。
また、『モダンホライゾン』がモダンメタゲームに与えた不健全な影響は、わずか数枚の強力すぎるカードによるものであり、収録カードの大半が異様なまでに強くてモダンそのものを一変させてしまった『モダンホライゾン2』との間に根本的なコンセプトの違いがあることはやはり確かでしょう。
さて、その『モダンホライゾン』から輩出された強すぎる数枚のカードとて、明白なパワーカードを作ろうという考えのもとデザインされたとは思えません。
『モダンホライゾン』産のパワーカードと言えば、《蘇る死滅都市、ホガーク》、《レンと六番》、《最高工匠卿、ウルザ》、《アーカムの天測儀》あたりが印象的でしょうか。
これまでの傾向としてMTGは新しいデザインに挑戦する際に失敗することが多く、《蘇る死滅都市、ホガーク》はすべて「招集」と「探査」という代替コストで支払わなければならないクリーチャーという珍しいデザイン、《レンと六番》は伝説のカスレア《悪鬼の血脈、ティボルト》以来2枚目の2コストプレインズウォーカーでした。
これら2枚は挑戦的なデザインがなされたカードであり、攻め過ぎたがあまりこわれてしまった(=意図的に作った壊れカードではない)可能性が高いと思います。
逆に強いカードを目指してデザインされたと思しきは《最高工匠卿、ウルザ》ですが、シナジーやコンボを明白に要求するそのデザインは玄人向けのカードといった感じが強く、これもやはり明白なパワーカードを目指したという感じはありません。
ながらくモダンにおいてキルターンが3ターンのデッキは許容されないとされてきましたが、その3ターンでコンボが成立しないよう、マナ・コストを4点にしてあったのも《最高工匠卿、ウルザ》のデザインの緻密なところです。
とはいえ「玄人がシナジーやコンボを駆使すれば爆発的に強くなりそうなカード」を意図してデザインすること自体、メタゲームの健全性に対して脅威的な発想だとは思いますし、しっかりウルザはメタゲームで暴れてくれましたが…
《アーカムの天測儀》については、「マナフィルターだし大丈夫だろう」という考えだったのが想像に難くありません。
もっと言えば「コモンで使いやすいマナフィルター配ったら、初心者が随分デッキを組みやすくなるだろう、でも上級者はフェッチランドを使うからマナフィルターなんかにスロットを割かないだろう」という、ほとんど親切心のようなデザイン意図だったとさえ思いますが、実際にはあらゆるフォーマットで多色化のデメリットを帳消しにしてしまいました…
話を戻しますが、『モダンホライゾン』のカードには雑なパワーカードを作らないようにするデザインの痕跡のようなものを見て取ることができますが、『モダンホライゾン2』のパワーカード群にはそれができません。
その筆頭が《敏捷なこそ泥、ラガバン》や《孤独》
殊に《敏捷なこそ泥、ラガバン》については、1コストに2/1という十分なP/Tに加えてメリットとなる能力を3つも持っており、それに対するデメリットは伝説であるのみという、これまでのMTGでは考えられないもの。
《孤独》含むインカーネーションサイクルのカードも、ピッチスペルの「想起」を使わずとも十分に強力なスペックで、パワーカードを目指したデザインであることが伺えます。
問題はなぜそのようなカードを「モダンホライゾン2」にてデザインしたかということですが、これはWotCがレガシーを「ものすごいカードが使えるフォーマット」だと解釈しているからではないかと思います。
長らくレガシーは、初期のMTGが作った挑戦的過ぎる性能のカードやそれを使ったコンボデッキ、統率者に収録された、到底通常のセットでは登場しえないようなパワーカードが使えるフォーマットとして愛されてきました。
WotCはモダンを新たなレガシーにするに際して、上のような性質のあるカードをたくさん追加せねばならないと考えたのだとすると筋が通っている気がします。
あるいは、実際にレガシーに存在していたア―キタイプをモダンに持ってこようとする試みも見られました。
端的な例として挙げられるのが先述の《頑強》で、このカードは明らかに《動く死体》を意識してデザインされています。
平たく言えば調整版でしょう。
実際、《頑強》は同じく『モダンホライゾン2』に収録された、《残虐の執政官》などとともにモダンにリアニメイトデッキを成立させました。
同様に《収穫の手、サイシス》に代表されるエンチャントレスパーツ群は、モダンにエンチャントレスデッキも成立させています。
モダンホライゾン2のピッチスペルサイクル(インカーネーションサイクル)は、レガシーにおいて《意志の力》が重要な抑止力である事実から、抑止力となりそうなピッチスペルを大量に追加したいという意図を兼ねられたものである可能性も考えられます。
そう解釈するのであればインカーネーションサイクルもまた、WotCのモダンをレガシーにしたい思惑の発露だったのかもしれませんし、あるいは《魔の魅惑》のような強烈なコンボパーツの調整版をモダンに持ってくる展望があるのかもしれません。
レガシーは「耕作放棄」か?
一方本来のレガシーについては、「耕作放棄」の決断を下してしまっているかもしれません。
青天井に上がり続ける参入ハードルに、「再録禁止」問題なども相まってサポートをつづけてもマネタイズにつながらないジレンマと、WotCに事実上のサポート打ち切りを決断させるのに十分すぎる二重苦がありました。
構築済み統率者デッキの限定収録カードの中にレガシーパーツとして高騰するものが多くあることから、「統率者デッキが出たらとりあえず買う」というレガシープレイヤーが少なからずおりますが、その点でレガシーはWotCのマネタイズに寄与するとも言えなくはありません。
しかし今や統率者は人気フォーマットで、レガシープレイヤーがいなくても構築済み統率者デッキの売り上げは安定するでしょう。
『モダンホライゾン2』のパワーカード群がまるでレガシーのメタゲームの健全性を考慮していないであろうデザインだったことに加えて、異常事態に陥っているにもかかわらず禁止改訂がなされていない状況がそれを物語っているようでもあります。
(もっとも、もとよりWotCにはレガシーを顧みないカードデザインを行うことが多く、『モダンホライゾン2』のレガシーへの影響の大きさを、WotCがレガシーへの実質的なサポート打ち切りを考えていることへの根拠にするのは無理があるかもしれません)
あるいは、禁止改訂についてもレガシーにて猛威をふるう《敏捷なこそ泥、ラガバン》や《濁浪の執政》らが高額で取引されている状況を鑑みて、足踏みをしているのかもしれません。
しかしながら、《蘇る死滅都市、ホガーク》がモダンにて禁止カードに指定されたのは、『モダンホライゾン』発売から2か月半でのことであり、仮に禁止改訂を真剣に検討しているのであればかなりフットワークが重いと言わざるを得ないでしょうし、今のWotCがレガシーの健全性を維持するのに積極的な姿勢であるとは言い難いでしょう。
WotCがレガシーの管理に積極的かどうかを議論する上で、悩ましいのが2022/4/1発売の『UNFINITY』の存在。
『UNFINITY』には、レガシーや統率者で使用可能な「エターナル・カード」の追加が明言されており、もしレガシーへの管理にWotCが消極的であるのなら、これは矛盾した施策であるように見えます。
下のコラム「『Unfinity』とその向こう」において、主席カードデザイナー、マーク・ローズウォーターは銀枠カード(UNシリーズ収録カード)を競技プレイではないフォーマットで使用して欲しいと考えていたことを明らかにしました。
そして、「どの銀枠カードが統率者などの公認カジュアルフォーマットで使用できるか」という判断をプレイヤーのコミュニティにゆだねるのではなく、あらかじめWotC側で提示しておく施策として「エターナル・カード」を開発した旨が記されています。
であるならば、ここに来て新たに『UNFINITY』からレガシーに対してカードが追加されることは、「WotCがレガシーのメタゲーム管理に消極的である」という仮説と矛盾しないばかりか、それを補強する根拠になっているとさえ言えます。
『UNFINITY』からの「エターナル・カード」の追加がなされるレガシーと、その対象外のモダンとの間に競技プレイの分水嶺があるのかもしれません。
スタンダードも「耕作放棄」か?
アリーナのオープンβ公開以降、爆発的に環境の解明速度が速くなったスタンダードメタゲーム。
2021年9月からはほとんどイゼットデッキが勢力を伸ばし続けており、12月以降は「すくみ」の関係にあった緑単・白単などのライバルを押しのけてイゼット一強の状況が続いています。
スタンダードのメタゲームは、挑戦的なデザインが多くなったカラデシュ期から不安定さが指摘されてきましたし、『ラヴニカのギルド』以降のスタンダードメタゲーム解析速度がアリーナのオープンβ実装後に爆発的に速くなったことについては、多くのプレイヤーがその肌で体感したまぎれもない事実でしょう。
ゆえに、2021年のメタゲームの不安定さについては、ここ数年の挑戦的なデザインが変なパワーカードを生み出してしまっていることに加えて、過去2年分の浅いカードプールではアリーナの環境解明の加速に耐えられなくなっている、というのが私の中での定説でした。
しかし、『イニストラード:真夜中の狩り』以降のメタゲームはそれとは違った印象を抱かせるものでした。
その違和感のもととなったのが、『イニストラード:真夜中の狩り』と『イニストラード:真紅の契り』での大量のイゼット用カードの供給。
『イニストラード:真夜中の狩り』では、青赤のカードのカードが4枚、『イニストラード:真紅の契り』では青赤のカードが2枚収録されており、これはこれまでのイニストラードブロックより多い枚数となっています。
また、「青もしくは赤を含む、呪文の詠唱に言及したカード」※の枚数も、真夜中の狩りと真紅の契りの契りでは、これまでのイニストラードブロックよりも多く収録されており、開発側が新しいイニストラードにおいてイゼットデッキへの強化パーツを配ることを意識していた可能性はとても高いと思います。
※ルールテキストに"Spell"と"Cast"を含み、狼男ではなく、なおかつ青か赤であるカードを数えました。
もちろん、「環境でイゼットが強いのにイゼットにばかり塩を送るのはおかしいだろう」という話ではありません。
セットの開発は年単位で行われていますし、印刷所にデータを入稿するのは発売より数か月前ではないといけないので、テーブルトップのTCG開発では、メタゲームをみて柔軟にテキストを変更することはできません。
そういう話ではなく、メタゲームでのイゼットの活躍とは関係なく、単純に新しいイニストラードにおいてイゼットパーツが異様に多いように感じるのです。
殊更、「真夜中の狩り」で登場した青や赤のカードについては、ビジュアル面でも随分ラヴニカのイゼット団に寄せていたと思います。
ラヴニカのイゼット団の特徴として見られる「真鍮色のマシーン」や「稲妻を放出するマシーン」が、「真夜中の狩り」のカードでも多く見られたのは偶然ではないでしょう。
イゼットは戦略としてもコンセプトとしてもファンが多く、そのイゼットファンへの訴求力を高めることを狙ったのでしょうか?
イゼットファンへの訴求力…という考えの是非はともかくとして、《考慮》と《火遊び》という2枚のカードからはまた別な思惑が見え隠れするように感じます。
この2枚は、ここ3年のスタンダードで重用されてきた有名スペルの上位互換であり、特に《火遊び》に関しては5年ぶりの《ショック》の上位互換になります(ちなみに直近の上位互換は《乱撃斬》でした)。
また、《考慮》はモダンにおいても活躍していた《選択》の実質的な上位互換であるということも加味して考えると、これら2枚は不自然に高いカードパワーを有しているように思えます。
なぜ《選択》や《ショック》の続投ではなく、それらの上位互換を新たに作ってスタンダードに投入したのか…その理由として一番納得のいくのが「下環境のプレイヤーからの需要を意識した」ではないでしょうか。
もっと言えば下環境の中でもパイオニアでしょう。
パイオニアで使用できる《ショック》の上位互換は《乱撃斬》しかないため、バーンとして使うことで占術できる《火遊び》は当然歓迎されるでしょうし、《宝船の巡航》が使用可能でありなおかつ《弧光のフェニックス》が活躍しているパイオニアにおいて《考慮》の墓地肥やしは非常に魅力的なオプションです。
逆に、スタンダードのカードパワーでギリギリ許されるか許されないかというラインを攻めたカードを追加したところで、『モダンホライゾン2』の投下されたモダンでは大した訴求力を持たないでしょう。
以上のことをふまえれば、2021年のWotCはスタンダード用セットをスタンダードではなくパイオニアの需要を重視してデザインしていた…というのは十分にあり得る話です。
先ほど私は「なぜMTGは強力なセットを連打したのか?」の項にて、パイオニアフォーマットから継続的に収益を上げる製品は何かという話を途中で切り上げていましたが、その答えとしてふさわしいのは「パイオニアフォーマットの継続的収益源は、スタンダード用の通常セットである」ではないでしょうか?
そう考えることでつじつまが合うのが「アルケミー」の施策についてです。
依然私は『どうしてWotCは「アルケミー」を作ったのか?』という記事で、WotCはアルケミーを実質的な新スタンダードにしたがっているのだという持論を展開させていただきました。
アルケミーのカードはデジタル特有の要素やランダムな要素が含まれているなど、そもそも研究の余地が大きいデザインとなっていることに加えて、印刷所のスケジュールに左右されることなくメタゲームの状況を見ながらデザインできるため、メタゲームの調整弁としての機能が大いに期待できます。
しかし、WotCがアルケミーを健全な環境にしやすい新スタンダードにすることを目論んでいるのなら、スタンダード用製品はいかに消費される想定なのでしょうか?
この点が先述の記事を執筆した際に疑問に感じていたところでした。
執筆当時は「WotCはアルケミーによるイベント開催で、スタンダードプレイヤーをアルケミーに送客してしまうことで、スタンダードをテーブルトップ用のフォーマットとして改めて定着させることを目指している」という考えにひとまず落ち着いていたのですが、その想定では説明できないことがありました。
それは、WotCはアルケミーを競技用フォーマットとして定着させようとしていて、そのアルケミーはデジタルでしかプレイできないという状況下で、プレイヤーは何をモチベーションとしてテーブルトップのスタンダードデッキを組むようになるのかということです。
仮にスタンダートはテーブルトップで、アルケミーはデジタルで…というすみ分けを想定しているのだとしたら、スタンダードをアリーナの競技フォーマットから外さなければならないでしょう。
というのも、アルケミーとスタンダードではカード資産の多くが共有されるため、アルケミープレイヤーがその余力でスタンダートのデッキを構築することは十分に考えられるからです。
アルケミーが最も主要な競技フォーマットとして定着したとしても、アリーナ上でのスタンダートメタゲームが停滞するわけではありませんから、アリーナで研究されたリストをテーブルトップで組むという今のスタンダードの状況に変わりはないでしょう。
その点で、スタンダードはテーブルトップで、アルケミーはデジタルで…という棲み分けは元より期待できません。
であるならば、結局「スタンダードはアリーナで遊んだほうがいい」というプレイヤーの認識は変わらないでしょうし、そのことはWotCも織り込み済みのはずです。
この問題に対して、先述の「パイオニアでの需要を意識してスタンダード用セットをデザインする」という仮定はよく噛みあっています。
そうすることによって、スタンダードやアルケミーのメタゲームはますます乱れる可能性が出てきますが、アルケミーについてはサプリメント的にアルケミー専用セットを追加したりカードの性能に下方修正を加えたりできるので、強引に健全化する手立てがあります。
これらの想定は、「WotCがスタンダートへの耕作放棄を行うことを視野に入れている」ことが前提となりますが、実際にそうなのではないかと思います。
そのレベルで抜本的な収益モデルの見直しをしていなければ、プレイヤーからの猛反発が容易に想像できる「アルケミー」実装などという、リスキーな施策には踏み切れないでしょうから。
加えて、スタンダートのセットをスタンダード以外のフォーマットでの需要を強く意識してデザインを行うということは、過去にも試みられた形跡があります。
それは統率者で、統率者人気が高まった2020年あたりから急激にセットに封入される伝説のクリーチャーの数が増えています。
この統率者と伝説のことからも、WotCはスタンダード用セットで、スタンダート以外のプレイヤーからマネタイズすることを強く意識しているのは確かそうです。
WotCが「耕作放棄」を公に宣言しないわけ
「では、なぜWotCはォーマットへのサポートへの実質的な打ち切りを検討していることを公にしないのか?」と思われるかもしれませんが、その理由は単純に「恐ろしいほどの反発を招くことが分かっているから」だと思います。
MTGにおいて最も基本的な遊び方であるはずのスタンダートを持て余しているとWotCが公言するのは衝撃的過ぎますし、レガシーに関して同様の宣言をするとデュアルランドなどの高額な在庫を抱えるショップからの猛反発は予想に難くありません。
とんでもないことになるのは火を見るよりも明らかなので、WotCは「耕作放棄」を考えていてもそれを口にできないのではないかと思います。
そんなリスクを冒すより、今後2~3年間の商品展開によってプレイヤーの動向を操作していった方が、安全で失うものも少ないでしょうから。
2021年を踏まえた上で2022年以降はどうなるか予想してみる
ある意味ここからが本当の本題となりますが、これまでの内容をふまえた上で2022年以降のMTGがどうなるかについてどんどん予想していこうかと思います。
年に一度の頻度でモダン直送セット(モダンホライゾンみたいなセット)がリリースされる?
これまでの考察が正しいとし、WotCにモダンをレガシーにしたい思惑があったとするならば、年一度程度の頻度でモダンにカードを直送するセットをリリースする構想があるかも知れません。
というのも、レガシーには統率者デッキをはじめとする様々なセットから、頻繁にカードが供給されているのですが、モダンにはそれがありません。
それに加えて『モダンホライゾン2』があの圧倒的カードパワーですから、現状のより多くモダンホライゾン2の収録カードをデッキに加えようとする方向性での環境の進化に区切りがついた場合、モダンの環境の流転は止んでしまうことが大いに考えられます。
モダンのメタゲームへの干渉に意欲的なWotCがそれを良しとするとは思えないですし、何よりWotCも『モダンホライゾン2』以降のモダンメタゲームは『モダンホライゾン2』収録カードが中心になっていくことは分かっていたはずです。
『モダンホライゾン2』の影響によるメタゲームの変化が、最終的にどのような環境にランディングするか分かっていないのに、丸2年以上追加のモダン直送セットなどを作ることもなくモダンを放置するとは思えないので、「年一度の頻度」で何か追加するのではという考えに行きつきました。
とはいえ、「『モダンホライゾン2』はモダンに絶大な多様性をもたらすものだ!」とWotCが確信していた可能性もありますし、あくまで自分の予想に過ぎないのですが…
仮に上記の私の予想が正しかったのなら、モダンホライゾン→特殊セット→モダンホライゾン→…という順番で隔年でのセット販売になるかなと思います。
ただし、直近で判明しているモダン直送セットは、『The Lord of the Rings: Tales of Middle-earth(試訳:指輪物語:中つ国の冒険)』で、2023年内のリリースとなっています。
この指輪物語セットが『モダンホライゾン3』に代わるものなのか、あるいはモダンホライゾンシリーズとは別なのか、それによってモダン直送セットの発売頻度は変わってくるでしょう。
パイオニアマスターズやパイオニアチャレンジャーデッキが作られる
先述した通り、「モダンをレガシーにする」という想定がWotCにあったのであれば、そして「アルケミーをメタゲームの健全性が維持しやすい新スタンダードである」と考えているのであれば、必然的に「パイオニアがテーブルトップで最も参入障壁が低く、なおかつテーブルトップで最も一般的なフォーマットになる」という想定もWotCにはあることになるでしょう。
2021年の『パイオニアチャレンジャーデッキ』の発売はそうした目論見の第一手なのではないかと思われました。
もし、パイオニアをテーブルトップで一般的で参入しやすいフォーマットにしたいと考えているのであれば、WotCは再録などによる積極的な市場価格調整に乗り出す可能性も考えられます。
仮にそうした施策に打って出るのであれば、『パイオニアマスターズ』と題した再録セットの販売は欠かさないでしょう。
最初の『パイオニアマスターズ』の収録内容は、モダンにおける採用率の高いカードが多くなると予想しています。
モダン需要でプレイヤーにセットを買わせ、「当たったけどモダンで使わないカードでパイオニアデッキを組みたい」というプレイヤーの心理を期した収録内容にするんじゃないかという読みです。
(もっとも、その『パイオニアマスターズ』が出るかも定かではないんですけどね…)
ここまでの考察をふまえると、『パイオニアチャレンジャーデッキ』の開発も引き続き行われるものと思われますが、そのリリースの頻度は2年に一度程度なのではないかと思います。
というのも、2021年の『パイオニアチャレンジャーデッキ』の収録内容は極めて豪華なもので、収録カードの中古市場での価格にかなりの影響を与えていました。
頻繁にチャレンジャーデッキをリリースしてしまうと、ショップの抱える有力な在庫の値段が次々に下がってしまい、ショップがMTGの扱いを渋るようになってしまう可能性も考えられます。
故にWotCは『パイオニアチャレンジャーデッキ』のリリース頻度を落とし、市場からチャレンジャーデッキが消えたら既存の製品を何度か再生産するのではないかと睨んでいます。
既存の製品の再生産であれば、ショップ側もすでに下がった在庫がさらに下がるだけなのでダメージコントロールがしやすいはずです。
パイオニアマスターズは2022年内、次のパイオニアチャレンジャーデッキは2023年というのが私の予想です。外れたら笑ってください。
パイオニアホライゾンは作られない
パイオニアプレイヤーからマネタイズする製品として、スタンダード用の通常セットを想定しているのではないか…という話をしましたが、仮にそうであれば、『パイオニアホライゾン』を作る必要性はないと思います。
パイオニア需要を期してデザインしたカードが強すぎた場合でも、アルケミーではアルケミー専用カードでメタゲームに直に干渉できますし、パイオニアプレイヤーにウケそうなカードをどんどん通常セットに入れていく方針になると予想しています。
パイオニアの人気が再燃(?)
自然にパイオニアというフォーマットがプレイヤーから再評価される可能性もありますが、そうではなく、WotCによる干渉によって2022年の間に徐々にパイオニアへとプレイヤーが集まるのではないかと考えています。
もちろん、現状のパイオニアのゲーム性は『モダンホライゾン2』依然のモダンに近いところがあり、モダンからの人口流出が起こる可能性も多分にあると思います。
『モダンホライゾン2』からのモダンでの禁止カードは出ない
『モダンホライゾン2』産で、禁止制限の議論の俎上に上がりそうなカードのほとんどが¥5000以上の高額カードです。
禁止制限の判断はギリギリまで先延ばしつつ、メタゲーム上のアーキタイプ数が回復したらそれを理由に禁止制限を行わない、ついにアーキタイプ数が回復しなかったら禁止制限を行う…というのがWotCの思い描くシナリオなのではないかと想像しています。
あるいは前回の禁止制限が2021/2/15で、このときに5枚もの禁止カードを制定してしまったので、それから期間を置きたいという意向だったのかもしれません。
どちらにせよ、現状モダンメタゲームでのアーキタイプ数自体は回復傾向なので、制限カードは出ない可能性が高いと思います。
モダンチャレンジャーデッキが発売される(?)
これについてはほとんど希望的観測というか、五分もない可能性だとは思いますが、WotCによる構築済みモダンデッキが再び登場するかもしれないという考えを、昨年末から抱くようになりました。
というのも、今のモダンメタゲームの進化が最終的にランディングするであろう環境は間違いなく「金銭的な意味で初心者に厳しい」からです。
もちろん、もとよりモダンは初心者にとって金銭的に厳しいフォーマットなのですが、『モダンホライゾン2』以降環境デッキの平均構築コストが上昇していることに加えて、Tier1デッキとTier2デッキとの差が大きく開いてしまったために「安く工夫して組む」が日に日に成立しづらくなってしまっています。
今のパイオニアに対して、「イゼットフェニックスが頭一つ抜けているものの、割とどんなデッキを組んでも楽しめる」という空気感を感じている方は多いかと思いますが(主観ではあるものの、私だけということはないはず…)、そうした空気感は長らくモダンにもあったものでした。
《損魂魔導士》に代表される果敢クリーチャーが構築済みデッキに再録され、《ドラゴンの怒りの媒介者》がモダンホライゾン2のロングセールにより値下がり続けるなど、複合的な要因により「果敢ビートダウン」デッキは強さと安価さを両立しています…が、その「果敢ビートダウン」も《敏捷なこそ泥、ラガバン》採用が一般的になってきている状況です。
個人的な考えとしては、「果敢ビートダウン」デッキに《敏捷なこそ泥、ラガバン》は必須ではないと思います。
「果敢ビートダウン」デッキの強みは、そもそも「果敢」というキーワード能力の強力さによるところが大きく、ゆえにラガバンがなくても十分アーキタイプとして成立するはずです。
しかしながら、ラガバンの持つ能力は果敢ビートダウンに合致していますし、強力な1コストクリーチャーをラガバン込みで16枚採用することで、「果敢ビートダウン」はそのマリガン条件をずっとゆるめることができます。
入れれば強いし、グッと扱いやすくなることには変わりない…このラガバンのようなカードが、あらゆる色やアーキタイプに登場してしまったため、モダンでは構築の工夫に対して『モダンホライゾン2』産のカードの強さが先立つという状況にあります。
それは、『モダンホライゾン2』産のカードをより多くリストに採用しようとする、最近のメタゲームの進化からも確かでしょう。
(もちろんそれ自体が悪いことではありません。)
話を戻しますが、今のモダンは初心者には金銭的に敷居が高い状況にあるのはたしかで、自分はその解決策をWotC側が供する可能性があると考えています。
というのも、あまりにも敷居が高い状況が常態化すると、モダンの新規参入者が減ってしまう可能性があるからです。
特に、2021年には古参プレイヤーの離脱が多かったのもあり、まるでデッキの入れ替わりと同じくするようにプレイヤーの入れ替わりが起こってしまいました。
『モダンホライゾン2』がなくとも、TCGのプレイヤーというのは絶えず離脱し続けます、何らかの社会的・経済的に継続を断念しなくてはいけなくなったり、かたく続けると決心していても他のコンテンツにハマってしまったりなど、とにかく人口の流出は避けられません。
流出した人口を補うのが新規で、一定数のプレイ人口を保つには、一定数の新規が必要です。
そしてフォーマットの競技性を担保する上でも必要なのが一定以上のプレイ人口。
プレイ人口が少なければ、ある程度人口が疎な地域ではイベント開催ができなくなってしまうなどの問題から、地方での人口流出が一気に加速してしまいます。
加えて、コンテンツとSNSを紐づけて楽しむことが一般的になってきている今、人口の流出は日常的なSNS上での活動において肌感覚として感じられるようになっています。
プレイヤーの激しい流出は一時的なコミュニティの著しい民度の悪化を招くこともあり※、「プレイヤー減ってるな」という印象とはまた違った感触で更なる人口流出につながってしまうことも珍しくありません。
(※これは、流出するプレイヤーと残るプレイヤーとの間に社会的・性格的な層のちがいがあるため。過疎化が極限まで進むとコミュニティには同様の層の人間のみが残った状態になり、かえってものすごく民度が良くなるというのは有名な話ですね…)
さて、WotCにモダンを競技的なフォーマットとしてサポートする意思があるのなら、何らかの「モダンへの入り口」を設けるのではないかというのが私の考えです。
そして、そうした施策として一番手っ取り早いのが「チャレンジャーデッキ」だろうと思います。
では、WotCはモダンの高額カードを再録するのかというと、そんなことはしないと思います。
私が昨年に紹介していたような安くてそこそこ戦えるリストの構築済みを発表する可能性もありますが、WotCであればもっと別な手を打ってくるかもしれません。
MTGと同じ開発元のTCG、デュエル・マスターズはふたつの施策によって、中古市場へのダメージを軽減しつつ即戦力級の構築済みデッキを販売してきました。
それは「構築済みデッキ限定カードの封入」と「ブースターパックとは違う仕様での再録」です。
前者についてですが、すでに中古市場にあるカードを再録したとき、それによって中古市場の特定のカードの価値が低下し、販売価格が買取価格を割ってしまった場合、[(買取価格-販売価格)×在庫数]だけショップに対して打撃を与えてしまったことになります。
しかし新規収録カードであれば、まだ中古市場にはないカードなので、直接ショップにダメージを与えることはありません。
もちろん、その構築済みデッキと限定カードがメタゲームで活躍し、それによってショップの抱える高額カードの価値が下がることは考えられます。
その点で、間接的にショップがダメージを被る可能性はありますが、そのダメージもある程度コントロールする手段はあります。
それは、「お互いを直接参照させるテキストで限定カードをデザインする」という方法。
露骨な例では《ゴッド・ルピア》や《創造神サガ》があり、デッキに収録されているカード数種類を名称で直接参照しています。
こうしたデザインが美しくないと思うプレイヤーは少なからずいるとは思いますが、そんなことはWotC側も百も承知なわけで、これにはショップ側へのダメージコントロールの側面がありました。
この《ゴッド・ルピア》のように、収録デッキ内のカードを大量に参照するカードをデッキのコアパーツに据えることで、限定カードを通常のカード同様に様々なアーキタイプで使用できないようにする効果が期されています。
「『ヘヴィ・デス・メタル』のカードは極力構築済みデッキ以外では使わせたくない(中古市場に汎用パーツとして出回ると、既存カードの値段が下がりかねないため)」
「オリジナリティのあるデッキが組みたかったら、ブースターパックやショップからカードを一から集めて組みなさい」
「どうしても構築済みデッキを改造して強化したいなら、この《ゴッド・ルピア》と一緒に、《ブラッディ・ドラグーン》も《封魔魂具 バジル》もデッキから抜いて、その枠(計12枚)に他の強力なカードを入れなさい」
とプレイヤーに軽く圧をかける格好ですね。
また、この《ゴッド・ルピア》が収録されたのは、2008年発売の『ヘヴィ・デス・メタル』という構築済みデッキで、このデッキの切り札が有名な「破壊神 ヘヴィ・デス・メタル」でした。
「破壊神 ヘヴィ・デス・メタル」はお互いの名称を参照して合体するクリーチャーで、長くプレイヤーから愛された名カードです。
この「破壊神 ヘヴィ・デス・メタル」も加味すると、40枚のデッキのうち19枚が名称で参照されるカードになっており、WotC側の強い構築済みは売りたいけど汎用パーツになって中古市場を荒らしてほしくないという思いが如実に表れたデッキになっていました。
因みに余談なのですが、《ゴッド・ルピア》の《ブラッディ・ドラグーン》と《封魔魂具 バジル》を参照する能力は全然強くなかったし、「破壊神 ヘヴィ・デス・メタル」は、真ん中の《破壊神 デス》なしで合体できたし、その方が強いことが多かったし、なんなら《龍神 ヘヴィ》は汎用除去として様々な黒いデッキに出張することになったので、『ヘヴィ・デス・メタル』に込められた思惑は上手く機能することはありませんでした。
このように上手くいかないことが多かったのですが、2015年頃までデュエマの構築済みでは、同じ構築済みデッキ内のカードを名称で参照するなどして、収録カードを他のデッキに使いにくくしたり、デッキを改造しにくくする工夫が加えられていることが多かったです。
ここ数年のデュエマにおいて、収録カードどうしの参照させる措置が取られにくくなったのは、そもそも遊戯王で言うところのテーマデッキをデュエマが押すことが多くなり、構築済みのテーマデッキの色合いが強くなったために、そうした措置が必要なくなったというのが大きいと思います。
MTGに話を戻しますが、MTGが構築済み限定カードを作る場合、アルケミー限定カードの「創出する/Conjure」のようなイメージで、山札から特定のカードを持ってくる・場に出すカードが作られるのではないか、と想像しています。
《シヴ山のドラゴン》や《セラの天使》を直接参照して山札から出すなど、過去の有名カードを構築上の「縛り」にしつつ、活用するデザインになるかも…という想像です。
後者の「ブースターパックとは違う仕様での再録」についてですが、例えば構築済みデッキのカードを全て白枠にするなどがあるかと思います。
先にあげた《ゴッド・ルピア》がぎらつく銀枠仕様でしたが、これはデュエマのスーパーデッキ※特有の仕様で、中古市場での価格は同名カードの通常バージョンに比べて3~5割ほど安いのが常でした。
再録によってショップの在庫の価値を下げないための施策として、強力に機能していたのを覚えています。
※MTGのチャレンジャーデッキに相当する製品ですが、イベントでそのまま使用しての優勝報告も珍しくなかったため、チャレンジャーデッキ以上に即戦力な代物でした。
長々と書きましたが、この項の内容は私の妄想の色合いが強いものです。
第一WotCがモダンチャレンジャーデッキを発売する可能性自体小さいですし、その可能性をかいくぐってモダンチャレンジャーデッキが発売されたなら、"Drake"のデータベースを通してデュエマの施策をおさらいし、あらゆる手を尽くしたうえで発表してくるだろうなという私の想像にすぎないものですので、あまり真に受けないようにしてください…
さいごに
ここまで長々とおつきあいいただき、ありがとうございました。
昨年度の施策に基づく考察半分・妄想半分という感じの内容でしたが、みなさまはどう思われたでしょうか?
みなさまの「自分はこうなると思う」という2022年~のMTG像を私にお聞かせいただけれると、励みになりますし楽しいです。
(コメントをくださる場合はnoteへのコメントか、TwitterのMTG垢 https://twitter.com/Deals1_or_Add1 へどうぞ!)
記事中でちょっとだけ言及しましたが、私が管理するブログ(Blogger)にて、格安モダンリストを紹介しております。
その中でも殊更「赤単果敢ビートダウン」デッキは、現状のモダン環境でも希望の持てるリストとなっておりますので、興味のある方はご覧いただけると幸いです。
それではまたの機会にお会いしましょう…!!
格安リスト以外にもカジュアルデッキやMTGのマニアックなネタについてゆるーく語っているので、ぜひおこしください!!