New Zealandがくれた宝もの 15 Christal Broock クリスタルブロック
翌日は朝からポカポカと暖かく、よいお天気だった。風もおだやかだ。
コーゾーを迎えに行き、釣りの前にランチを仕入れていくことにした。
タウランガタウポの近くにある、国道1号線沿いのドライブインに立ちよった。
店の半分はカフェ、半分はショップになっている。
今朝この店で作ったばかりのサンドイッチが、ケースの中に並んでいた。
スモークペッパーハムサンド、野菜サンド、ミートパイ、ラズベリーパイ、スコーンもある
。ウーン、どれにしようか。
その他スナックやジュースはもちろん、さすがフライフィッシングのメッカ、フライもおいてある。
私たちはフックサイズ12番のゴールドリブドヘアーズイアーニンフを買った。
よく見ると、売られているフライはどれもフックの形がワイドゲイプのものばかりだった。
ターゲットが大きいので、当り前なのだろう。
「ここのフィッシュアンドチップスがおいしいんですよ。」と、コーゾーが言った。
ロンドンの街角で、イギリス人がよく買って食べるアレである。ドライブインのオバチャンに、
「フィッシュアンドチップス2つ!」と、注文すると
「あいよーっ。」とばかりに、奥の厨房からジューッという音と、香ばしい匂が漂ってきた。
白身魚とポテトをその場で揚げてくれるのだ。
アツアツのホクホクを新聞紙に「ハイヨッ。」と包んでくれた。
ケースからサンドイッチとスコーンを取り出し、ランチ用に紙袋にいれた。
フィッシュアンドチップスはせっかくの揚げ立てなので、店の表のテーブルでさっそくいただくことにした。
ほんのり塩味のきいた、歯ごたえのある白身。
長細く切ったポテトもサクサクで、揚げ立てなのでとにかくおいしい。
おなかも満たされたところで、いざタウランガタウポリバーへ。
タウランガタウポの下流部には、広いパーキングスペースがある。
そこから先は車では進めないので、皆ここに駐車して釣りをするのだ。
すでにパーキングには6台。
そこから近い各プールには、何人も釣り人が入っていた。
「下流のプールは人が多いので、ここは飛ばして途中から釣り上がりましょう。」コーゾーが言った。
パーキングを取り囲んでいる柵を乗り越え、広い草原を横切っていった。
コーゾーは歩くのが早い。
ザクザク行ってしまう。
私が単純にのろいのか、遅れまいとハアハアついて行った。
20分程歩いてようやく川に出た。
プールには2人、釣り人が張り付いていた。
「あの2人が釣り上がるまで、少し待ってみましょう。」コーゾーは言った。
河原で少し休みながら2人の様子を見ていたが、一向に他のプールに移動する気配はない。
「以前、来た時よりもだいぶ減水して、深みが少なくなってますね。ポイントだったところも、あちこちなくなっちゃってます。」
とりあえず、私たちはそこのプールをあきらめ、上のプールに移動することにした。
やはりここも、トンガリロやワイタハヌイほど深みがない。
ひととうり3人でニンフを流してみたが、アタリはなかった。
もう一つ上のプールへ行ってみることにした。
今度は流れが蛇行しているので、川を渡って向こう岸を歩いて行かなければならない。
一見、浅そうに見える流れだが、立ち込んでみると意外と重い。
私はシンイチにつかまって、川を渡りだした。シンイチも体重は重いほうだが、足を取られまいとふんばりながら流れを渡っていく。
向こう岸まであと3~4m、流れの一番急なところにさしかかった時、私の足はバタバタと水中をかいでいた。私の足が底についていないことを知ったシンイチの顔は青ざめた。2人とも流されてしまったらどうしよう、この下流には深みがあるし、ウェーダーのなかに水が入り込んだら、体が逆さになって流されてしまう、、、。
なんとか無事川を渡りきると、シンイチはため息をついた。
「あー、怖かった。」
どうやら、私たちの渡り方がヘタだったのだ。
流れに向かって、前に進もうとしてしまった。
これでは、流れに逆らう分一向に進まないし、足が泳いでしまうハズだ。
川を渡る場合は、向こう岸の斜め下流の浅瀬に目標をおいて、一気に流されながら渡るのがよいらしい。
真横に横切ろうとしてはダメなのだ。
「これが一番、安全な渡り方ですね。」と、コーゾーは言った。
次のプールは、流れが大きな岩盤にぶつかっている、かなりの深さがあるところで釣り人は誰もいなかった。
3人で順番に流してみたが、アタリはなく風が強くなってきた。
「うーん、ワイタハヌイにもどりませんか?この風では、ここでは釣りにならないし。」と、コーゾーが言った。
私たちは川沿いの小道を引き返し、パーキングの近くの草の上でランチをとることにした。
川ではあんなに風が強かったのに、ここはあまり吹いていない。
ぽかぽかと暖かい日差しが照りつけた。
サンドイッチをパクパク食べていると、釣りを終えて帰っていく車が、私たちの前を通り過ぎていく。
どの車も、私たちの前でブレーキを踏み、私たちに片手を上げてあいさつをしていった。
まったく見ず知らずの人々なのに、不思議と連帯感があった。
皆おなじ、ビッグワンを釣りたいと願ってやまないフライフィッシャーたちなのだ。
言葉は違えど、釣り師の心はたったひとつ、「釣りたい。」なのである。
「ワイタハヌイへ行く前に、おもしろいものお見せしますよ。」と、コーゾーは言った。
一度、ウィンザーロッジのコーゾーの部屋に食パンを取りに寄った。
そして何軒か先の「クリスタルブロック」という釣り具屋兼、カフェの前に車を止めた。
コーゾーは店の主人に一言断わりに行った後、私たちを裏庭へと案内した。
庭にはよく手入れされた花壇と倉庫、カヌーを逆さにしてその上に植え木鉢がいくつも置かれていた。
なんの変哲もない、庭である。
裏庭はかなり奥まで続いていた。
木々の間に小さな板張りの橋が見えた。
ワイタハヌイに流れ込んでいる支流、マンガムツストリームがなんと、人の家の裏庭を流れているのだった。
「うらやましい!」が、しかしここはトラウトたちが産卵するスポーニングリバーなので、1年中禁漁区であった。
「なんだ、残念。釣りはできないんだ。」と、私は思わずこぼしたが、
「いやいや、これからもっとすごいものお見せしますから。」と、コーゾーは言った。
ほんの2、3歩で渡ってしまうような、本当に小さな流れなのだが、水深は1mぐらいか、よく見ると50cmクラスのレインボウが何匹かいるではないか。
コーゾーは、おもむろに持っていた食パンをちぎって流れに落とした。
すると、水面に浮いて流れていく食パンに、下からスーッと50cmのレインボウが水面に上がってきてパクッ。
「うわーっ。」私たちは声を上げた。
池の鯉じゃないんだから、50cmものワイルドトラウトが食パンに食いつくなんて!
もう一つパンをちぎって流すと、今度は少し下流からワァーッと潜水艦のように、レインボウが口を開けて浮上してきた。
その素早さといったら、大きな魚体なのにものすごいスピードでさっとえさを取っては、身をひるがえして定位置に戻っていく。あまりの豪快な光景に、私たちは息をのんだ。
「今度はニンフを流してみましょう。」と、コーゾーはちぎったパンを丸め、指で固めて流れに落とした。
パンは水中をころがっていく。
すると、流れの底に定位していたレインボウが身をひるがえして、パンをくわえた。
どうやら、コーゾーはしょっちゅうここでパンを流しては、トラウトの食性を観察しているというのだ。
世界広しといえども、50cmクラスのワイルドトラウトが鯉のように食パンにライズする、トラウトショーはきっとここ、クリスタルブロックの裏庭でしか見られないだろう。
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