New Zealandがくれた宝もの 14 Witahanui ワイタハヌイ
ウィンザーロッジからワイタハヌイリバーまでは徒歩5分。
コーゾーは毎日、歩いてワイタハヌイに釣りに行っていた。
半年ほど通いつめたこの川は、彼のフェイバリットリバーだ。
河口に近い下流部は、釣り人が多いので中間のポイントから入った。
コーゾーにつづいて、川沿いの小道を歩いていく。
小道はいくつにも分かれていた。
ボーッと歩いていると迷ってしまいそうだ。
川というのは、自然にクネクネと流れのスジを変えていく。
まず、一筋の流れがあるとどこかの部分がカーブを描くようになる。
どんどん蛇行が進んでいくと、ある時大水が出たりして蛇行部分がカットされ、ストレートに流れてしまう。
すると、それまで川が蛇行していた部分についていた道だけが残る。
特にこの辺りでは、国道1号線がかかっている橋を除けば、人工的に流れを護岸して元にもどしたり、自分の土地が浸食されるからと、コンクリートブロックを川岸に入れることもしない。
と、いうわけで川沿いには、流れにまかせるまま、いくつもの道が出来上がるのである。
これが、川の本来の姿なのだ。
少し高い丘のようなところを登っていくと、すぐ真下にコーゾーおすすめのポイント、フェンスプールが見下ろせた。
フェンスプールはゆったりと蛇行した流れの中に、大きな石がいくつか沈んでいた。
水は澄み、さほど深くないので魚が入っていれば、一発で見つけられるというのだ。
プールには釣り人が一人、ニンフを流していた。
上からプールの様子をうかがっていたコーゾーが言った。
「残念ながら、今日はここには魚はついていませんね。
大抵あの大きな石の裏に、魚がいればついているんです。」
確かに、50cmクラスのトラウトならばここからでも一目瞭然だろう。
「いつも、ここから魚の付き場を確認してから釣るので、たいてい確実に釣れます。あの釣り人は、いくら流してもダメでしょう。このプールには魚がいませんから。」と、言い切る。
これが、魚をまず見つけてから狙った魚を釣る、サイトフィッシングなのである。
狙うサイズが大きくなければ、なかなか出来ないニュージーランドならではの醍醐味である。
フェンスプールを後にし、小さなアーチ状のかわいらしい木の橋を渡って、クリフプールへ。
ここも浅いフラットな流れで、蛇行して流れが岸にぶつかっている部分が深くえぐれている。
魚はそこに入っているのだ。
コーゾーはまず、橋に引き返して対岸に渡り、ポイントになる深みの上からそっと様子を探って戻って来た。
「魚は入ってますね。まず、静かにそこに立ち込んでから、向こう岸のあの木の根元に向かってキャストしてください。」
コーゾー氏がまず、流し方を見本で見せてくれた。
「キャストしたら大きくメンディングして、フライとインジケーターを一番向こう岸寄りの流れに送り込みます。インジケーターよりもフライが先に流れるように。そうすると、魚の真上をフライが通過します。」
コーゾーのメンディングは、まるで新体操のリボンのように、ラインが丸い輪を作ったまま、竿先から水面へとスライドしていった。
彼は8番ライン指定の、ニュージーランド製の硬めのアクションのロッドを振っていた。
普段、私たちが渓流で行うメンディングといえば、ちょろっとラインを上流側に倒したり、たるませたりする程度のものだ。
が、この高番手のロッドによる、豪快な新体操メンディングが出来ないと、狙ったポイントにフライをうまく送り込めない。
手前の流れのスピードが早く、奥がゆったりしている場合、メンディングをして、ラインをいつも奥の流れに乗せてやらないと、フライは手前に引っぱられてきてしまうのだ。
フライはあくまで、自然に流さなくてはならない。
しばらくは、すっかりメンディングの練習になってしまった。
なかなか思うように流れてくれない。
一度だけ、フワッとニンフを追って魚の姿が白く光った。
ワイタハヌイリバーで、通年釣りができるエリアの中では最上流部の、ゴールデンウィリアムズプールへ。
このプールの名前を聞いただけでも、なんだかワクワクしてしまうではないか。
ここもまた、フラットで浅くゆったりと流れる、川幅4~5mのチョークストリームだ。
底石の影に魚が潜んでいるという。、、、が、全く実感が湧かない。
本当に、こんなに静かな穏やかな流れに大物がいるのだろうか?
小さなトラウトたち、といってもゆうに30cmはありそうなサイズが、流れの筋で盛んにライズしていた。
そんな光景を目の前にし、私はたまりかねて、持ってきた5番のタックルにドライフライを結んだ。
30cmほどのレインボウがフライをくわえた。
ワイルドらしく、ヒレがピンと張り美しい魚体だ。
「大きいのを釣るんなら、やっぱりニンフですよ。せっかくここまで来られたんですから、きっと大きいのを釣って帰ってください。」
コーゾーはきっぱりと、そして力強く言った。
夕暮れがせまり、私たち3人はウィンザーロッジに戻った。
コーゾーがコーヒーを淹れてくれた。
「明日はタウランガタウポに行ってみませんか?」と彼が言った。
タウランガタウポは、トンガリロリバーをひとまわり小さくしたような川だ。
ツランギからすぐ近くにある。明日も私たちをガイドしてくれるという。
「タウランガタウポなら、ここに比べて 川も少し大きいですから、魚もいくらか入っているかもしれません。河原も広いしランディングしやすいですし。」
コーゾーの部屋の前に一台の車が止った。
コーゾーの友人、フィッシングガイドのトムだった。
彼は、ニュージーランドの先住民族マオリとして、初のフィッシングガイドであった。
浅黒い肌と黒い髪。私たちとあまり違和感のない顔だ。
「今日はダメだったよ。」と、コーゾーが報告すると、
「そうか、魚もあまり入っていなかったようだし、他も釣れてないようだ。」トムが答えた。
コーゾーがこちらに来て、初めてガイドしてもらって以来の付き合いだそうだ。
彼の釣りは、このトムによるところが大きいらしい。魚の見つけ方や、メンディングの仕方など、みなこのトムに教わったのだそうだ。
明日の朝、またここにコーゾーを迎えに来ることを約束して、私たちは夕闇の中をツランギへと戻って行った。