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【のう #5】下垂体疾患の多様な症状による生きづらさと自己否定感


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りのさん(前編)


 人間の体内や、気温・湿度などの外部環境で何らかの変化が起きても、生命活動がスムーズに保たれるのは、自律神経系や免疫系、それにホルモンを分泌して体の機能調整や制御を行う内分泌系という腺や器官の集まりがあるためだ。
 体の様々な働きを調節する化学物質であるホルモンは、体の中にいくつかある「内分泌腺」という場所で作られる。その中でも、脳の中心に位置する間脳の視床下部から垂れ下がる「下垂体」は、身体の恒常性を維持し、他の内分泌腺を刺激するホルモンを分泌する司令塔のような器官であり、前葉・中葉・後葉に分かれている。
 特に下垂体前葉は、成長ホルモンや甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモンなど、多くのホルモンの分泌を調整している。下垂体前葉からのホルモン分泌が阻害されると、下垂体の機能が低下して体内のホルモンが不足し、体に様々な症状が現れてしまう。
 りのさんは、下垂体前葉ホルモンの一部または全てが十分に分必されない『下垂体前葉機能低下症』と呼ばれる指定難病の当事者だ。


 りのさんは、プロのバレリーナに憧れて3歳からバレエを始め、発表会ではセンターで踊ることも多かった。しかし10歳の頃、それまでは身軽に踊れていたのに、「徐々に手足がもたつくようになり、うまく踊れなくなった」
 振り返ると、その頃から『下垂体前葉機能低下症』の原疾患の一つであり、小児脳腫瘍の一種『頭蓋咽頭腫』の初発症状である、全身倦怠感が出ていたのだろう。しかし、小学生だった当時は、そのことに気付くはずもなく「バレエ教師に叱責され、ひたすら自分の努力が足りないからだと自分を責めていた」



 同じ頃から、頭痛に加えて「夜に寝ようとすると、周りの壁が迫ってくるような感覚」を覚え、それまで良かった「視力が急激に低下し、視野も欠損し始めた」
 母親に「小さい文字の本ばかり読むからだ」と怒られ、眼科クリニックの診察を受けても「目が疲れているのでしょう」程度の診断で、原因はわからなかった。だが、視力の低下や頭痛、倦怠感は治まらず、1年ほど経過した頃、案じた両親に連れられて大学病院に行き、眼科と脳神経外科の診察を受けると、すぐに『頭蓋咽頭腫』と診断され、手術のために即入院となった。
 後に執刀した脳神経外科医から「あと少し手術が遅かったら失明していただろう」と言われた。大きくなった腫瘍により、視神経や、左右の視神経の交わる部位である視交叉が損傷されていたのだ。
 思い返せば、小学校教師の体罰や同級生からのいじめ、厳しいバレエ教師と週4、5回のレッスン、塾通いと、心身ともにかなり負荷がかかっていた辛い時期だった。
 やっと原因がわかって入院した頃、りのさんは12歳を迎えようとしていた。


 『頭蓋咽頭腫』は、高リスクで手術が難しい、稀な脳腫瘍と言われている。
 りのさんは入院して様々な検査を受け、数週間後に11時間に渡る長時間の手術を受けた。そして、術後は放射線治療、退院後は薬の内服や注射によるホルモンの補充療法と、治療が続く。手術は成功して視野欠損の進行は止まったものの、「両耳側性半盲」という両目の耳側(外側)の視野欠損が残った。
 また、『下垂体前葉機能低下症』になり、下垂体前葉からのホルモンがほとんど分泌されなくなったため、日常的に疲れやすく、免疫機能低下により風邪や感染症にかかりやすくなり、「10代は学校に行くだけで精一杯だった」


 やっとの思いで大学を卒業した先には、さらに厳しい「超氷河期」が待っていた。ただでさえ就職が難しい時代に、「自分の病気をオープンにして、企業側に配慮を求めることは難しかった」
 例えば、りのさんの場合、朝に分泌され、覚醒作用を持つ副腎皮質刺激ホルモンが分泌されないことから、朝起きることが非常に辛い。また、甲状腺刺激ホルモンや副腎皮質刺激ホルモンの不足により常に疲労感や倦怠感があり、階段を上るにもすぐに息切れしてしまう。ホルモン補充療法をしていても、健康だった頃の体調には戻れなかった。
 『下垂体前葉機能低下症』の国内の患者数は、約2~3万人と言われている。なんとか就職することはできたものの、「一般に知られていない自分の病気について、職場の人に話すことには勇気がいる」と感じて言い出せず、一方的に「なまけている」「また遅刻して」と怒られたり、笑われたりしていた。


 持病がある後ろめたさから恋愛もうまくいかず、婚活をしても「(病気を)なかなかオープンにできない」。それでも、結婚目前までいった相手の男性に対して、勇気を出して病気であることを告げ、「病気のせいで自然妊娠は困難だが、体外受精などの方法で妊娠の可能性はある」と伝えた。しかし、その1週間後に届いたのは、結婚の断りの連絡だった。
 「自分の性格が悪いなら納得できるけれど、病気のせいで女性としての価値が最初からディスカウントされていると感じて落ち込み、元々低かった自己肯定感が、更に低くなってしまった」


 りのさんは、仕事でも日常生活でも「どこまでが病気のせいで、どこからが自分の努力不足のせいかわからず、ずっと悩み、自分を責めてきた」
 難病に加えて、その後、発達障害の診断もおり、HSP(ハイリ―・センシティブ・パーソン)の傾向があることもわかるなど、周囲との関係に「二重三重に苦しんでいた」背景にも気付くことができた。だが、「ありのままの自分を認めてあげたくても、長年、他人に怒られたり笑われたりして陥った自己否定感からは、簡単には抜け出せない」とも感じている。


後編に続く)





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