【こころ #34】精神疾患に馴染みのない人にこそ伝えたい
関 茂樹さん(後編)
(前編から続く)
身近な人間に自身の精神疾患の症状を理解されず苦しんだ経験を何かに生かせないか。
そんな想いを抱きながら見つけたのが、米国で1993年に始まった『シルバーリボン運動』だった。統合失調症を発症した息子さんをもつお母さん弁護士が、偏見や差別を払しょくしようと始めた活動。日本でも2002年から、かつてその弁護士宅でホームステイをした杤久保さん(現『シルバーリボンジャパン』会長)が福島県楢葉町を拠点に同じ運動を始めておられた。関さんは、自身がやりたかったことと結びつき、すぐに挨拶に向かい、運動に携わることになった。
ただ、何か資金的なバックアップがあるような運動ではない。細々と活動を続ける中で、いくつかのターニングポイントに支えられ、運動を広げてきた。
例えば、精神保健福祉士の養成に携わり、現在は東洋大学福祉社会デザイン学部教授の稲沢公一先生との出会い。第一線の研究者のサポートを得たことで、「そこから専門職の方が活動に加わってくれるようになった」。
資金が乏しく大きな普及活動ができない中では「大塚製薬さんから一緒にイベントをやりませんか?と声をかけてもらい」、都心で大きな啓発イベントを開催できた。それと同じ2015年には、シルバーリボンの活動費をねん出するため、福祉事業所も立ち上げた。
現在では、毎年10月10日の『世界メンタルヘルスデー』に、東京タワーがシルバーにライトアップされる。それもこの『シルバーリボン運動』にちなんだ催しだ。
しかし、「福祉事業所で利用者さんやそのご家族に精一杯関わり、それと並行して普及啓発に取り組むにも限界がある」。さらに、運動を拡大させるためには「事務局機能を強化したり、適材適所で得意な方にアウトソースしたり、企業や他団体とタイアップしたりしていかないといけない」。
それには明確な理由がある。「(福祉)業界内の人たちは皆当たり前に知っていることでも、全く知らない一般の方にこそ意義ある情報を発信し、拾ってもらう必要がある。業界内の人への働きかけも重要だが、それ以上に業界関係者以外の影響力ある人や企業に働きかけていくことこそ重要」で、それが社会の変容に繋がっていくからだ。
「精神疾患は割と身近な病気で、誰に起こってもおかしくない。そして、時間はかかれど回復することもできる。」と正しい情報を伝えたい。だから、“自分が精神疾患にかかるはずがない”と思い込んで「医療や行政等の適切な所にアクセスできない状況を払しょくしたい」。例え自らなかなか動けなかったとしても、「精神疾患への理解が深まり、抵抗感なく手を差し伸べてくれたり、丁寧に相談に乗ってくれる人が身近に溢れる世の中になってほしい」。
前編で関さんの経験をご紹介したが、これらすべての言葉が、その経験に裏打ちされた説得力のあるものだった。
ある記事で知った。英国のウィリアムス皇太子とキャサリン皇太子妃は、公務における最も重要な課題のひとつに「メンタルヘルスの促進」を掲げている。2016年には、メンタルヘルスの問題を巡る対話の促進を目指す慈善団体『Heads Together』も立ち上げた。昨年10月10日の『世界メンタルヘルスデー』には、16~24歳の若者100人を招いたフォーラムも開催している。
「日本も皇族の方にも賛同していただけるような運動に広がれば」と冗談めかして話した関さんの笑みは、これまで精神疾患に馴染みがなかった個人や企業が積極的に活動に加わるだけでも、大きな笑顔にできるはずだ。
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