【め #36】視覚障害になっても自分らしく生きるために
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久保田 真由美さん
久保田さんは一人目のお子さんが3歳、二人目のお子さんがお腹の中にいる時に、『網膜色素変性症』の診断を受けた。この病気は、暗いところで物が見えにくくなったり(夜盲)、視野が狭くなったりするといった症状が最初に起き、病気の進行とともに視力が低下していく。
それでも、久保田さんは「視覚障害になってもキラキラして、昔と変わらず個人としてやりたいことをやりたいようにやる」つもりだった。しかし、「見えにくいだけなのに、こんなにも制限されるのか」と、たびたび社会側の壁も痛感してきた。
診断を受けてすぐに、同じ病気の患者会の役員さんが隣の市にいることを見つけて連絡を取った。その方はまだ車の運転もして、自分と同じように子育てもしている。患者会に参加してみて、進行した方もいたことで、先の世界を見ることができた。
子供の保育園で見かけた白杖を持ったお母さんにも、先生づてでつながった。同じ視覚障害のあるご主人も含めて家族ぐるみの近所付き合いが始まり、おしゃべりの中から「見えているうちに盲学校で鍼灸師の資格を取った方がいい、料金はこれぐらい」など、先のヒントを得ることができた。
しかし、地方に暮らしながらも「安全のために自ら車のハンドルを手放した」ことで、社会側の壁を痛感することになる。
「徐々に見えなくなる、その段階を説明することは難しい」。特に夜の会議への参加が難しいと保育園の保護者会に説明すると、他のママさんから「この前、立ち読みしているのを見た」「楽をしたいだけじゃないの」という言葉が聞こえた。
暮らす地域では、「お母さんとして求められることは、健康なお母さんにできることばかり」だった。長男がサッカー部に入るにあたって、他の親と同様に、選手の試合への送り迎えなどの役割を求められた。結果的に長男が”遠征のない”美術部に転部したことは「母親としても、相当なダメージだった」。次男のときは、皆の前で「運転はできないけれど、できることはやります」と説明したが、誰も納得してくれなかった。
そうした環境で「どう自分と折り合いをつけるか」を悩みながらも、「視覚障害になってもキラキラして、昔と変わらず個人としてやりたいことをやりたいようにやる」ことは諦めたくなかった。
盲学校に通って鍼灸師の資格を取り、並行して都内に出向いて美容針のセミナーにも通い、最終的には地元でサロンを開く夢を叶えた。
さらに見えづらくなって美容針を刺すことが難しくなると、自身が感じてきた社会側の壁にアプローチするため、障害者自身がファシリテーターを務める『DET(Disability Equality Training、障害平等研修』のファシリテーター養成講座も受講した。
しかし、そうした機会を通じて、むしろ世の中はまだまだ「視覚障害について全然知らないし、むしろ想像すらしてもらえていない」ことにも気づかされた。
だったら、自分でやるしかない。久保田さんは、視覚障害の当事者となっても、そのままの姿で「自分らしく生きる」ための情報提供や働きかけを行う目的で、『日本視覚障害者ライフデザイン協会』を立ち上げた。
その活動の中でも、『アイラウンジ』というイベントには、視覚障害はもちろん他の障害にも多様な形で携わるゲストが数多く登壇し、100枚のチケットもすぐに売り切れるほど好評だ。ちなみに、Inclusive Hubメディアで紹介させて頂いたものも取り上げられていた。
● スマートフォンアプリと靴につける振動インターフェースで視覚障害者の歩行をナビゲーションする『あしらせ』(「め」第19話・第27話・第32話)
● スマホカメラで写した映像や位置情報を遠隔のオペレーターがサポートする『アイコサポート』(「め」第21話)
● 「視覚に代わる新しい知覚」を与える次世代型感覚デバイス『SYNCREO(シンクレオ)』(「め」第28話)
● インクルーシブデザインを実践する『PLAYWORKS』(「横断」第5話)
実は、お話をお聞きする冒頭に、久保田さんから「あなたにとって、”障害”って何ですか?」と質問された。
その後、久保田さんのお話しの中には、「双方向」という言葉が何度となく登場した。視覚障害があっても、「あちら(健常者)」と「こちら(障害者)」ではなく対等なものであり、すべてが「双方向」なのだ。
そうした中で、「障害があっても、やりたいことを諦めずに、自分らしく生きる!」ことを隔ててしまうものがあるとすれば、それがバリアであり、それを「双方向」に解決していくことに久保田さんは取り組んでいる。
「あなたにとって、”障害”って何ですか?」皆さまにも考えてほしい問いをもらった。
ここまで読んでくださった皆さまに‥
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