【横断 #28】「できないこと」を責めない仲間が欲しい
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もえさん(後編)
(前編から続く)
フェニルケトン尿症と生き、摂取できるたんぱく質の量は1日8gという生活を送ってきたもえさんは今、新薬での治療に挑戦している。2023年、30年ぶりに承認された新薬は15歳以上が対象で自己注射という形だ。
フェニルケトン尿症はたんぱく質を摂取しすぎたり摂取不足だったりすると脳に少しずつダメージが蓄積され、影響が現れることも。重症の人は脳へのダメージリスクが高いため、もえさんはその進行を食い止めたいという思いもあって新薬での治療を望んだ。
治療開始後は、かゆみやじんましん、高熱、アナフィラキシーショックなどの副作用が現れるそう。その症状は個人差が大きく、治療の効果が出るまでの期間も人によって様々だ。
もえさんの場合は微熱やじんましん、関節痛などの副作用が現れたが比較的軽く、嬉しいことに3ヶ月で効果が見られたそう。それにより、1日8gしか摂れなかったたんぱく質が50gも摂取できるようになった。
「摂取できるたんぱく質の量が増えたことで体力もつきました。野菜の中でもたんぱく質が多いブロッコリーが食べられるようになって嬉しかった」
ただ、1日当たりのたんぱく質の摂取量が50gを下回ってはいけないという新たな制限ができ、冷蔵保存が必要な新薬を災害時などにどう保管するかという悩みも生まれた。
もえさんいわく、当事者の中には自力でたんぱく質の摂取量をコントロールすることが難しくて抑うつ感や物忘れなどの症状が現れ、自身の症状を上手く説明できず、新薬での治療に繋がれない人もいるそう。
「物忘れなんて誰にでもあると一蹴されないよう、治療開始時には病気に関する知識を持った第三者が間に入ってくれたら嬉しいです」
新薬を取り巻く問題はまだ多いが、それでも当事者にとっては眩しい希望。もえさんの場合は治療を継続していけば、医療用ミルクを飲まずに生活できる日が来る可能性があるそうだ。
現在、フェニルケトン尿症はフェニルケトン尿症の子を持つ親が集う当事者会があり、企業介入によってLINEのオープンチャットが立ち上げられた。そうして情報共有の場が増えているのは喜ばしいこと。もえさんは、子ども世代や成人後の当事者が気軽に交流できる場も必要だと考えている。なぜなら、友達に病気を打ち明けられず、泊まりの際にはこっそり医療用ミルクを飲む当事者もいるという現状を知っているからだ。
「みんな完璧じゃない。仕事で疲れていてたんぱく質の摂取量を守るお弁当が作れない日だってあるので、できないことがあった時でも怒られるのでは…と身構えずに話せる場もあったら嬉しい」
自分のお弁当が作れず、たんぱく質の制限が上手くいかない時だってある。そんな時、できなかった自分を「ダメ」と責めるだけではなく、やろうと思った自分を褒めてもあげたい。そう話すもえさんは、noteで持病を発信中。
笑顔ばかりではない“これまで”を明るく明かすもえさんの強さは、1歩踏み出すことの大切さを教えてくれる。
ここまで読んでくださった皆さまに‥
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