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【横断 #6】20年の福祉応用システム研究で見える景色

関 弘和さん


 千葉工業大学には、工学部の機械電子創成工学科の中に「福祉応用システム研究室」がある。高齢者や体の不自由な人たちを支援する技術システムの研究、例えば、安全で多機能な車いすの走行制御システムや、筋電位信号で義手を制御する技術、画像解析を活用した視覚障害者の生活支援システムなどの研究に取り組んでいる。


 この研究室を率いる関先生は、この分野に取り組み始めて20年以上になる。

 当時は、「人工心臓などの医療技術はあっても、人間支援的な福祉工学は全然メジャーではなかった」。研究を取り巻く環境としても、今に比べれば「コンピュータも発達しておらず、センサも大きく、3Dプリンターもなかった」。

 そんな時期から時間をかけて、福祉工学の分野に「少しずつ目が向けられるようになり」、日本福祉工学会、日本生活支援工学会及びライフサポート学会など、福祉工学に特化した学会が日本でも立ち上がっていった。

 そうした福祉工学の発展と並行して関先生が最も感じてきたことは、アカデミアとマーケットのジレンマかもしれない。

 アカデミアは当然、学生への教育として「現状を調査して何ができる考えて議論して基礎的な検証のモノをつくって」というプロセスから始まる。その上で取り組んだ研究は、「10年後20年後に人の役に立つかもしれないが、必ずしも明日すぐに役に立つ製品ではない」と、関先生は話す。

 もちろん、マーケット的に見れば、課題のテーマを絞って当事者にも十分な調査を行って役に立つものを作る必要があることはその通りだが、逆に「それで(研究における)自由な発想が制限されてもいけない」とも考えている。また、障害のある方の課題解決には「ちょっとしたローテクのアイデアの方が比較的わかりやすい」面もあるのだが、簡単すぎては論文にならない。アカデミアとしては、どうしても「ハイテクな要素が含まれる必要がある」。


 確かに福祉工学の分野に取り組む人は増えてきた。しかし、大学の教員にとっては論文が一つの仕事の評価であり、学生の卒業論文や修士論文も毎年やってくる中で、上記のジレンマは常に起こる。真にユーザーに届くまでやり続けるのは「よほどのエネルギーがないとできない」のが現状だ。

 もちろん、筑波大学の山海嘉之教授が立ち上げた、「人」支援のテクノロジーで成功した『サイバーダイン』社のような事例はある。関先生の身近にも大学院修了後に福祉系で起業した人がいる。

 しかし、障害のある方を対象とすると、どうしても「必要とする人が限定的で、かつ視覚障害や聴覚障害と一言で言っても多様であるため、対象者のパイが狭く、故に情報も十分に届かなかったりしてしまう」。そのため、現実には多くが商売として成り立つことは難しく、「産業としてリターンがないと身動き取れない時代」であることも現実だ。


 関先生の話は、必ずしも悲観的なものではない。こうした現状を直視した上で、アカデミアの分野で足元ではなく未来を見据えた先進研究を生み出し、且つ例えそれが将来であってもマーケットからのリターンが見えるような成果をプレゼンテーションしていけるかが試されている。

 関先生からは「アカデミア側とマーケットユーザー側との間の橋渡しがもっと必要」との声も聞かれた。福祉工学分野で大学発の起業家がより生まれるよう、まずそうした橋渡しから私たちも取り組んでいくことにする。



▷ 福祉応用システム研究室



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