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【しんけい #5】グレーな障害、軽度な難病ゆえの苦悩

Yさん


 Yさんは、娘さんが生後半年の頃、家族帯同で米国に留学した。一般的に赤ちゃんは1歳弱までにはつかまり立ちできるようになるとも言われるが、娘さんが立ったのは1歳半の時。首座り、お座り、ズリバイといった発達も少しずつ遅かったが、「日本だったら、“遅いけれどそんな子もいるよね”程度だと思うが、米国は違った」。

 渡米後すぐ定期健診で筋肉の低緊張を指摘され、「顔がフラットだ、親に似てないことが気になるなど、日本だったら遠慮して言わないようなことも、ズバズバ言われた」。専門的なメディカルセンターを紹介され、体の筋肉の低緊張の検査数値などが細かく示された。子どもの発達に遅れなどを認めた場合に無料で支援を受けることができる早期介入プログラム(Early Intervention)の対象となり、週に一度、理学療法士による療育を自宅で受けることになった。しかし、「病名などは確定しないまま、不安だけが募った」。


 日本に帰国して発達外来を受診したものの、「個人差が大きいため経過観察」と言われただけ。1歳半の時、やっと辿り着いた専門外来(遺伝科)で『歌舞伎症候群』という診断を受け、DNA検査で確定した。切れ長の目をもつ顔貌が歌舞伎役者の隈取に似ていることから命名された指定難病であり、他の症状として、知的発達の遅れや、背筋が曲がるような骨格系の異常や低伸長など成長障害などがあると言われる。

 しかし、Yさんの娘さんの場合、そうした重度の症状は見られない。米国で介入され、日本で遺伝科にかからなければ「普通は気付かないと思う」。Yさんは街を歩いていると、その顔つきだけで同じ難病の可能性がある人に気付くそう。この難病の認知度の低さ並びに専門外来やDNA検査へのハードルの高さを考えれば「そこまでたどり着かず、グレーのまま診断が下りていない人も多くいるのではないか」と感じている。


 であれば、逆に知りたくなかったとは思わないか?との問いには、きっぱり「明確に診断されてよかった」と返ってきた。『歌舞伎症候群』の原因は遺伝子の変異であるため、将来娘さんが子供を産むと1/2の確率で遺伝する。娘さんから「将来はお母さんになる」なんて聞くと辛くなるが、いつか「結婚するにも出産するにも知っておいた方がいい」。

 娘さんは重度ではないが、細かく手が動かせずに字が汚かったり、食事もこぼしてしまったり、運動も得意とは言えない。「病気と知らなかったら、親もイライラしてしまい、お互いにストレスになってしまったと思う」。
知能面でも確かに遅れは見てとれたものの、「とは言え、グレーなんです。地元の小学校に行けば支援級と言われ、白黒になってしまう」。だから、「グレーでも受け入れてくれる少人数学級で小中校一貫の私立学校を見つけて入学させた」。

 ただし、娘さんはもう小学校5年生になった。「クラスの健常な子はすごく利発で、会話についていけない。勉強も難しく、理解できていない部分もあるだろう。」と感じている。性格が穏やかで問題を起こさない娘さんは「きっと高校まで卒業はできるだろう。でも、自己肯定感が下がりボーっと過ごすことにもなりかねない」。一方で、今から地元の学校の支援級に転校するのは、これまでの友達を失ったり、多動性の子には萎縮してしまったりと「本人にとってハードルが高い」。グレー故の深い苦悩だ。


 以前、娘さんの学校には似た特性のある同級生が1人いたそうだが、その子は支援級へと転校してしまった。Yさんは、同じ病気というよりは、知能でも性格でも「似た特性をもった子と仲良くなれる機会を与えてあげたくてコミュニティを探しているが、なかなか見つからない」と話してくれた。
親としても、「将来どうなるか大きいお子さんをお持ちの親御さんの話が聞きたくて」家族会にも足を運んだが、1歳半で歩き普通級に通う娘を持つことが申し訳なく感じるほどに、同じ病気でも「症状にあまりにも大きな差があった」。「自分の娘より軽度のお子さんに会ったことがない」ことさえも悩みになった。

 娘さんを見ても、親の立場でも「同じ程度の特性や経験をもつ人に出会いたい。娘もそんな子と一緒に過ごせれば心地いいと思う」と話された。逆に、ご自身の苦悩した経験を求めている人がいれば提供するし、「都内であれば、色々なサービスや医療機関も紹介できると思う。」とも話してくれた。


 グレー、即ち黒に「見えない」障害は、どんな障害であっても、当事者として周囲に明かすか、どこまでの理解や配慮を環境側に求めるか、そして障害者手帳など制度による一律の線引きにもぶつかることになる。

 ただ、それと同時に、どんな障害であっても、同じ程度の特性や経験をもつ当事者同士が出会うことの価値の大きさは常に証明されている。そんな機会がよりきめ細かく、障害や難病の別なく、時に横断的にでも生まれ続ける未来に尽力したい。




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