ピンチをアドリブで乗り越える技 94/100(動作1)
自問自答を繰り返しながら、
アドリブと演技の関係を
追求していってみようと思い立ちました。
100回(?!)連載にて、お送りします。
すっかり夜も更けてしまいましたが、今日は土曜日なので、動作に関するエキササイズをご紹介します。
事前にこうしたことを行なっておくと、ピンチに陥りづらくなりますし、もし陥ってしまったとしても、冷静な対処ができるかと思います。
お時間があれば、ぜひチャレンジしてみては如何でしょうか?
「靴ひも」を結ぶエキササイズです。
靴ひもを結ぶ時、締まりを調整したりする動作を除いて、花結びだけをするのに、幾つの動作があると思いますか?
わたしは「9」だと思います。
私たち役者は、舞台や映像の仕事の時、常に考えなくてはいけないことが、たくさんあります。
そうですねえ、たとえば
男女がレストランのテーブルでメニューを見ながら、談笑している
「なになに、それで?誰が好きなの?気になるぅ」
と、グラスを手に取り、ワインを口にする
「それはぁ、そのぉ、あなたです」
突然の告白に驚き、ワインを吹き出す
ただこれだけ、一瞬の出来事ですが、このシーンを、たとえば映像では何度も何度も繰り返し行わなくてはいけません。
しかも、できるだけ同じ演技にしておかないと、後で編集する時に辻褄が合わなくなってしまいます。
さて、何に気をつけるか?
ざっと思いつくままに、想像してみただけでも、これだけあります。
「Objective」「Obstacle」はなにか?
直前の会話を想定して、自然な第一声に
目線はどこを向くか?
メニューの持ち方、カメラと役者のあいだに置かない
なぜワインを一口飲むか?(緊張?照れ隠し?)
グラスの持ち方は?
どれくらい口に含むか?
どうやって綺麗に吹く?(空気を口に含ませておく)
相手のどのセリフで口につけるか?(それはぁ、の「ぁ」?そのぉ、の「の」?)
目線はメニューか、相手か?
グラスを置くか持ったままにするか?(置くならば音を立てないように)
などなど、状況によって、他にもまだあると思います。
一発撮りならば、なんとなくやっても、まあ、出来るでしょう。
でも、ちゃんと綺麗にワインを噴き出せますか?
周りには、大勢のスタッフがいて、照明で照らされていて、少し頭上にはマイクが浮かんでます。
しかもこのシーン、もしかしたら野外のテラス席かもしれません。
それに輪をかけて撮影は深夜4時ごろ、眠くて集中力も落ちてます。
照明に吸い寄せられるように、虫が飛びまわっていて気が散ります。
監督は焦ってるし、相手役はなんかピリついてます。
そして、たまたま今日は寒くて、
手にするグラスは冷え冷えだし、口にするワインもキンキンで、
その上、手がかじかんでよく動かない、
という中で演技をしなくてはいけないかも知れません!
泣きっ面に蜂で、
メニューがなぜかペラペラな紙だから、
片手で持つとビローンとなってしまうし、
吹き出したワインがメニューにかかって、文字が滲むことのないようにしろ、
と言われました。
そんな時は、撮影直前の短い時間の中で、この「靴ひもエキササイズ」をします。
「メニューを音を立てずに遠くに置く、ワイングラスを手に取る、目線は相手に向けたまま、ワインを口に持ってくる、グラスを傾ける、適量を含む、口内に空気を入れておく、目線は相手を見たままでグラスを音をさせずに置く、そのタイミングを相手のセリフ終わりに合わせて、ワインを吹く」
というように、一連の動作を、一つ一つ細かく分けて整理し、意識せずとも出来るように練習します。
なぜかというと、本番では、寒さにも、現場の空気にも、
薄いのに何故か苦いキンキンのお茶にも気を取られることなく、
演技に集中しなくてはいけないからです。
これを、「靴ひもエキササイズ」と呼びます。
イギリスの演劇学校では、靴ひもを結ぶという一連の動作を、
花結び一つをとっても、いくつの動作があるのか、
細かく細分化し、その動作に身体を慣れさせる、
というエキササイズをさせられました。
動作が含まれる時、たとえばプレゼンの中で、
商品を出して、魅せる、
という一連の動作、一体何をしているのか分析し、効果的な方法を見つけ、それに筋肉を慣れさせておくことを、お勧めします。
そうすることで、極度の緊張下においても、手が震えませんし、もし直前で何かトラブルがあっても、冷静にこの魅せ場を切り抜けることが出来ます。
(ん?アドリブじゃないか…)
わたしは、花結びだけで、9つありました。
皆さんはどうですか?
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