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私の英国物語 Broadhurst Gardens NW6 (82) London Iryo Centre, Hendon Way

冬が長い英国のこと、風邪をひかないようにと健康管理には気をつけて、少しでも具合が悪いと感じる時には、日本から持参した総合感冒薬を服用するようにしていたのだが。。

その日は朝から体調もすぐれず、学校へ行くのも休んで、ずっと自室で寝ていた。 夜は夕食もそこそこに早くベッドに入ったのだが、それから朝まで
一晩中高熱に苦しむことに。。 
ふらふらしながら自室のバスルームの洗面所でタオルを濡らし、一晩中額を冷やしてなんとか凌ぎ、翌日動けるようだったら病院に行こうと考えた。

風邪やインフルエンザを侮ってはいけない。その冬、学生の間で髄膜炎が広まっているとニュースになっていたのだ。
翌日、なんとか少し熱も下がったように思えたので、病院に行くことにした。

英国の国営医療サーヴィス事業 "the National Health Service" (NHS) は、支払い能力に基づくのではなく、医療の必要性に応じてサーヴィスを提供することを目的に、1948年、"The National Health Service Act 1946" により設立された。
4つの地域ごとに医療サーヴィスの内容や予算編成、治療や管理における指針なども地域ごとに独立して設定、運営されている。
National Health Service (England)
NHS Scotland
NHS Wales
Health and Social Care in Northern Ireland

16歳以上の就労者は、"National Insurance Contribution" (国民保険料) の支払いを求められており、NHS は国民保険料 (税) と一般税による資金供給によって、医療サーヴィスが提供されている。
英国居住者は、経済的事情に関係なく誰でも利用可能であり、無料である。 また、6ヵ月以上合法的に英国に滞在することが可能な Visa を取得している非ヨーロッパ国籍の学生なども、NHS の医療サーヴィスを利用することができる。
NHS の医療サーヴィスを受けるには、予め居住地の最寄りの "General Practitioner" (GP)「かかりつけの医者」に登録しなければならない。

GP は Primary care (よく見られる症状、疾患の治療、管理、予防) を担当しており、必要に応じてConsultants (専門医) を紹介する。
※命に係わる救急を除く。

私は、渡英する前に海外旅行傷害保険に加入していたので、GP には登録していなかった。
当時、ロンドンには日系の医療機関が3ヵ所あり、その中から、ロンドン北西部にあって、 キャッシュレス・サーヴィスを行っている "London Iryo Centre" を選んだ。
ロンドン医療センター は、1992年、ロンドン北西の郊外 the London Borough of Barnet の Hendon (NW4) に開設された。
 
"Hendon" の初期の名称 "Hendun" は、"at the highest hill" を意味する。 
ローマ人の集落があり、北へのルートが通っていた。
1860年代、Hendon を通る "the Midland Railway" と "the Great Northern Railways" が建設された。
1907年、地下鉄が ロンドン北部 Golders Green まで延び、ロンドン郊外も発展していく。
1932年、Hendon は、the Municipal Borough of Hendon となる。
1965年、the municipal borough が廃止され、"the London Borough of Barnet" となった。

West Hampstead から Hendon の「ロンドン医療センター」へは、C11 のバスに乗って地下鉄 Northern Line の駅 Hampstead まで 行き、地下鉄で Hampstead から3つ目の Hendon Central で下車。
駅前の Queens Road を渡って、Hendon Way を下っていくと赤煉瓦の "London Iryo Centre" の建物が見えてくる。 入口は Cheyne Walk 側にある。

London Iryo Centre 
234-236 Hendon Way, Hendon Central London NW4 3NE

一階の外来受付窓口で症状を告げて、保険証書とパスポートを提出する。
そして、窓口で渡された問診書と保険請求の書類を記入。
健康診断も無料で受診できると勧められたので、診療と一緒に受診した。
ここでは、日系企業に勤める駐在員とその家族の定期健康診断も行っている。

待合室で待っていると、子供を連れたアジア人女性が入ってきた。
この医療センターは、地域の GP の役割もしている。
院内調剤薬局で錠剤の入ったプラスティックのボトルを受け取って、帰途についた。受診料と処方薬、健康診断料も全て海外旅行傷害保険でカバーされるので、支払いをすることは何もなかった。

その後、海外旅行傷害保険の期限も切れてしまったので、ロンドン南西部に引っ越したのを機会に、大家さんに最寄りの GPを聞いて登録に行った。

第二次世界大戦後、"from the cradle to the grave" (ゆりかごから墓場まで) をスローガンに、英国政府は社会福祉政策を進めてきた。
しかしながら、この政策は膨大な財政支出をもたらし、社会福祉政策の基幹を担う NHS の財政圧迫は深刻な問題となってくる。
NHS は、初期医療、入院治療、長期医療、眼科医療、歯科治療を含む大半の医療サーヴィスを無料で提供していたが、後に、処方薬の一部、眼科医療、歯科治療は自己負担となった。

NHS は、英国に滞在する海外の人々にとっても無料で医療を受けられるサーヴィスだったが、英国で税金を納めていない外国の人々が医療サーヴィスを受ける事で英国の財政を圧迫しているという問題が上げられ、その解決策として Immigration Health Surcharge (IHS) が作られた。

英国に6ヵ月以上滞在する Visa の発給を受けている非ヨーロッパ国籍の留学生や Youth Mobility Scheme での在住者は、滞在中の医療費を負担する事なくNHS のサーヴィスを受けることが可能だったが、2015年より Immigration Health Surcharge (IHS) を Visa 申請提出時に支払うことが義務付けられている。

6ヵ月以上英国へ留学する場合は、日本で Visa の申請をする際に滞在期間に応じて IHS の支払いが必須であり、NHSを利用する、しない、また海外旅行傷害保険に加入しているなどは関係なく、IHS を支払わずに Visa の申請だけを行う事はできない。

英国では、多くの GP 診療所が恒常的に混雑している結果、迅速な予約は取りにくいと聞く。また、市販薬で対処可能な症状については薬が処方されず、薬局で薬剤師に相談するよう指示される場合もあるという。
GP が、専門的な診察が必要と判断して NHS の専門医を紹介する場合でも、緊急性が低いと判断されると、実際に専門医を受診できるまでに数ヵ月待たされるのが一般的といわれる。
また、NHS の歯科は予約が極めて取りにくく、詰め物がとれた場合でも、受診予約日まで自分で薬局で応急処置キットを買って凌がないといけないことも。
民間保険に入って、"Private health care" (個人医療サーヴィス) と NHS をうまく使っている人もいるという。

誰もなりたくて病気になるわけではないけれど。。
食事の後に、グラスの底で錠剤を割って呑むミセス・マーティンの姿を思い出すのだった。。

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