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私の英国物語 Broadhurst Gardens NW6 (75) Fortnum & Mason, Piccadilly

Christmas Festive Season が始まった。この頃になると、地域のチャリティー・バザーのお知らせが各家に届く。 
ショッピング街でもクリスマス・ライツやデパートのディスプレイがクリスマス仕様の華やかなものになり、バスから眺める車窓も楽しくなる。
The Body Shop で買い物を済ませて、次は、チャリティーのクリスマス・カードを買いに Piccadilly の St. James' Church へと向かう。
Oxford Street で再びバスに乗り、美しいカーブの Regent Street を下って、Cafe Royal (現 Hotel Café Royal) 前で下車。雑踏の中を Regent Street から Piccadilly へと横断歩道を渡った。

Green Park の方へ歩いて行くと、すぐに目印の赤い帽子のサンタ・クロースの看板が見えてくる。
クラシカルな宗教画やユニークなもの、英国の風景を描いたものなど、様々な絵柄のクリスマス・カードを、あれこれ吟味しながら選ぶのは、年に一度この時節の楽しみ。
British Cancer Research  や Air Ambulance 等色々なチャリティー団体がクリスマス・カードを売っており、クリスマス・カードを買うことによってチャリティーに参加できるのは嬉しい。

Piccadilly は、1661年、King Charles II が Portugal 出身の Catherine of Braganza と結婚したことを記念して、17世紀まで "Portugal Street" として知られていた。
後に "Piccadilly" という名称になるが、この名称は、当時流行した "piccadills" (扇形に縁取りした幅広のレースの襟) の製造販売で財を成した、Strand で仕立屋を営む Robert Baker がこの地に広大な土地を購入し、"Piccadilly Hall" を建てたことに由来する。

1662年、Henry Jermyn, 1st Earl of St. Albans は、住宅地開発のためにPiccadilly 地域の土地を与えられた。 彼は、Piccadilly の南側に教区教会と墓地を造ることを定め、1672年、建築家 Christopher Wren が教会の建設を任命される。そして、1684年7月13日、Henry Compton, the Bishop of London に奉献された。これが "St. James' Church" である。

クリスマス・カードを購入した後、再び Piccadilly を Green Park の方へと歩いて行く。 
この時期、ひときわユニークで美しいクリスマス・ディスプレイで人々を魅了するのが "Fortnum & Mason"。ブランド・カラーの "Eau de Nil" (ナイルの水) を基調とした店内は、いつも英国内・外からの人々で混雑している。

"Royal Warrant" (英国王室御用達)を賜わる Fortnum & Mason は紅茶や gift hamper でその名を知られているが、食料品以外にも高級衣料・雑貨を販売する百貨店である。
店舗のファサードのトレード・マークとなっているからくり時計は、1964年に設置された。毎時、18世紀の音楽とともに創業者の William Fortnum と Hugh Mason の人形が現れて挨拶をかわす。

1689年、Glorious Revolution (名誉革命) によって即位し、英国王室の歴史の中で最初で最後といわれる共同統治を行った King William III (在位1689-1702) と Queen Mary II (在位 1689-94) には世継ぎがなかったため、1702年3月8日、King William III の崩御に従って Queen Mary II の妹 Anne が王位を継いで即位し、Queen of England, Scotland and Ireland となった。
1683年に結婚した夫 George of Denmark (1653-1708) は、Prince Consort (王配) 及び海軍総司令官の地位につく。
 
1707年、the kingdom of England と the Kingdom of Scotland それぞれの議会によって The Acts of Union (合同法) が批准され、"The Kingdom of Great Britain" (大英帝国) が建国される。これにより、Queen Anne は The Kingdom of Great Britain and Ireland の最初の君主となった。
アン女王の治世は、ヨーロッパの国々を巻き込む the War of the Spanish Succession (スペイン継承戦争) が本格化した時期であり、英国はオランダと共にオーストリアと同盟しフランス及びスペインと戦うことになる。
この戦いでは英国艦隊が Gibraltar を陥落させ、海外領土の獲得に成功した。
アン女王は精力的に国務を務め、閣議に参加し、有力な政治家と意見を交えるなどして英国を繁栄へと導いていく。

"Brandy Nan" と呼ばれるほどブランデー好きだったアン女王は、晩年、政治的な葛藤と健康上の問題に悩まされた。
彼女は生涯に17回妊娠したといわれるが、死産や病死で一人も成人せず、後継者がいなかった。
1794年8月1日、Queen Anne 崩御。これにより、スコットランド起源の the House of Stuart は終焉を迎える。
そして、アン女王の又従兄弟で、ドイツ北部の領邦君主の家系であった the House of Hanover の Georg Ludwig が英国王位を継承し、King George I となった。
このハノーヴァー朝は、現在の英国王室 the House of Windsor として脈々と続いている。

※ The House of Hanover は、第一次世界大戦中に King George V が敵国ドイツ帝国の領邦名が冠されている家名を避け、1917年に王宮の所在地 Windsor にちなんで "the House of Windsor" と改称した。

"Fortnum & Mason" の歴史は、1705年、St. James Market に小さな店を営んでいた Hugh Mason と彼の間借り人 Queen Anne の宮廷従僕 William Fortnum の出会いに始まる。
William は、宮廷で毎日新品に取り換えられる使用済み蝋燭を集めては売り、そうして得た資金を元手に雑貨商の副業を始める。
大英帝国が誕生した1707年、William Fortnum と Hugh Mason は、二人で小さな食料雑貨店 "Fortnum & Mason" を開店した。
William は王室との繋がりを利用してビジネスを拡大させ、Fortnum & Mason は、小さな食料雑貨店から王侯貴族に人気の高級食料品店へと発展していく。

食料を a hamper (蓋付き籐バスケット) に詰めて、ロンドンから南西部 the West Country へ出かける旅行者に手軽に食べられるものをと、1738年、William は、固ゆで卵をソーセージのひき肉で包みパン粉を付けて揚げた "Scotch Egg" を開発。
Scotch Egg は瞬く間に人気食となり、今では英国を代表する国民食となっている。

新しい貿易航路の発見と輸送機関の発達によって海外貿易が盛んになっていく時代の波に乗り、Fortnum & Mason は The East India Company (EIC) を通して世界各国から香辛料や紅茶、中国茶等を輸入し、様々な事業を拡大していった。  
1761年、William Fortnum の孫、Charles が King George III の王妃 Queen Charlotte の従僕になり、王室とのビジネスも強固なものとなっていく。
そして、King George IV、King William IV、Queen Victoria の治世と産業革命を背景に大英帝国が勢力を拡大していく中に Fortnum & Mason の名声も増していった。

ヴィクトリア時代、上流階級の間でピクニックが流行すると、Fortnum & Mason は、ハンパーにスコッチ・エッグ、チーズ、フルーツ、ケーキ等の食料品を詰めた Picnic Hamper を販売。瞬く間に人気となって、Fortnum & Mason のハンパーを持って出掛けることがステイタスとなった。

Fortnum & Mason のユニークな事業展開の一つに郵便事業がある。
英国郵政省管轄の中央郵便局が設立されるまで、郵便事業は申請すれば誰でも行なうことができた。
1794年、Fortnum & Mason は郵便局を店内に開き、郵便料金支払い済みの手紙用と未払いの手紙用 (受取人払い) の投函箱を設けて、1日に6回集配するサーヴィスを始めた。お得意様の軍人や水兵には料金を割引したり、これをきっかけに店を訪れる人々はますます増えていった。
1839年に中央郵便局が設立され、Queen Victoria の横顔が印刷された1penny の切手、通称 "the Penny Black" が発行される1年前まで Fortnum & Mason の郵便事業は続いた。

国外の戦地や遠征先への食糧輸送に苦労し、瓶詰めの改善策が考えられていた頃、1810年に商人の Peter Durand によってブリキ缶を用いる「缶詰」が発明される。1812年、Durand の特許を基に機械エンジニアの Bryan Donkin と John Hall によって英国に世界初の缶詰工場が建てられた。
ロンドンの the Science Museum には初期の金属製缶が展示されている。

19世紀半ば頃から Fortnum & Mason は缶詰製品の供給に携わっており、当時は容易に開けることが難しかった缶を改良し、ポケットナイフで簡単に開ける方法を広めた。
1886年、Fortnum & Mason は、遥々アメリカから baked beans の缶詰5箱を携えてビジネスにやってきた Henry J. Heinz から全箱買い取った。
ベイクド・ビーンズは Fortnum & Mason が取り扱う商品としては庶民的な食品だったが、将来主要食品となるだろうとの先見を持ってのことで、英国で初めて販売された。
ベイクド・ビーンズは、今や English Breakfast に欠かせないものになっている。

Tea fit for King, "Royal Brend" は、Fortnum & Mason の紅茶を代表する紅茶。
1902年、"Bring me the finest tea in all of the land" との King Edward VII の要望に応え、インドから Assam、Sri Lanka から Flowery Pekoe を買い付けて初めてのブレンド・ティー "Royal Brend" を完成、献上した。
"Royal Brend" は、今日、"Mother of All Teas Royal Brend" として特別仕様のtea caddy でも販売されている。

1964年、創業者の偉業を称え、店舗のファサードに an automaton clock (からくり時計) が設置された。毎時、18世紀の音楽とともに創業者の William Fortnum と Hugh Mason の人形が現れて挨拶をかわすという仕掛けになっており、15分おきに鳴る18個の鐘は "Big Ben" と同じ鋳造工場で作られている。

1990年、英国人彫刻家 Lynn Russell Chadwick によるブロンズ像 "King and Queen" が店舗の正面入口上部に設置された。

2007年、創業300周年を祝して、店舗の大規模な改装が行なわれた。 
店舗内は地階から最上階までを吹き抜けにし、天窓から外のやわらかい自然光を取り入れて、開放的な雰囲気を作り出している。
また、Food Hall を地階と1階の2フロアに拡張し、中央の螺旋階段で繋ぐというモダンなデザインに設えている。

2012年3月1日、Queen Elizabeth II の在位60周年を記念して4階に "the Diamond Jubilee Tea Salon" をオープン。エリザベス女王はカミラ妃殿下とキャサリン妃を伴って来店され、ティー・サロンの除幕式を行った。
また、在位60周年を祝って制作された60点のダイヤモンド・ジュビリー商品もご覧になり、紅茶とビスケットの詰め合わせは全世界17,000人の英国軍人達に送られている。

2013年、Fortnum & Mason は、1707年以来初めて Piccadilly の外に出店する2番目の店舗を St Pancras International Station のコンコースにオープンした。Fortnum & Mason が創業以来ずっと旅行者に奉仕してきたことの表れであり、翌年2014年には Heathrow Terminal 5 にも店舗がオープンされた。

2018年には、ロンドン東部 the City の The Royal Exchange に店舗をオープン。金融街で働く人々や観光客へ憩いの一時を提供している。

Fortnum & Mason は、2019年9月、カナダの投資家 The Weston family が所有する Wittington Investments が主要株主となり、今日に至る。

Piccadilly へ出かけた時には買い物の予定がなくても、つい寄ってしまう Fortnum & Mason。 
クリスマスの時期のお店にはクリスマス仕様の商品がたくさんディスプレイされていて、あれこれ見て回るだけでも楽しい。
いつの頃からか、いつも混雑している Piccadilly の正面入口ではなくて、Duke Street, St James's 側の入口から入るようなった。







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