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私の英国物語 Broadhurst Gardens NW6 (63) Lady Justice, The Old Bailey

右手に “a double-edged sword” (両刃の剣)を持ち、左手に “a set of scales” (天秤)を持つ “a blindfold” (目隠し)をした "Lady Justice" (正義の女神)。 
 剣は “the power of Reason and Justice”、天秤は “to measure the strengths of a case's support and opposition”、目隠しは惑わされることなく公平無私に裁きが行なわれることを表わす。
"Lady Justice" (ギリシャ神話の女神 Themis、ローマ神話の女神 Justitia ) は、司法・裁判の公正を表す象徴として彫像や絵画のテーマになっており、世界各地の司法関係機関、または個人においても飾られている。

日本で弁護士になるには、通常、予備試験に合格、または法科大学院を修了し、法務省の司法試験委員会が行なう司法試験に合格し、司法修習を受ける。
England and Wales では、"Barrister" (法廷弁護士) と "Solicitor" (事務弁護士)に分業されており、上級裁判所で弁論権をもつのは "Barrister" のみとされる。
"Barrister" とは “to be called to the Bar” からきており、“the Bar” とは法廷内が “a bar” (横棒、手すり)で仕切られていることに由来する。

"Barrister" になるためには、大学で法学の学位を得、その後、ロンドンにある 4つの "the Inns of Court" (法曹院) のいずれかに所属し、“the Bar Professional Training Course” (BPTC) を受ける。
法曹院での養成コースを終えて、法曹院からバリスターとして認定されると、次は、法律事務所に採用されて1年間の実務研修 "Pupilage" をする。
実務研修を修了すると、バリスターとして実務を行うことができる。

"Solicitor" は、大学で法学の学位を得、"Law Society of England and Wales" に研修生として登録し、法科大学院で1年間の Legal Practice Course (LPC) を修了、そして、法律事務所で "a training contract" を得て2年間の実務研修を修了すると、ソリシターとして実務が可能となる。

※法学以外の学位を有する者は、"the Common Professional Examination / Postgraduate Diploma in Law" (CPE/ PGDL) を修了しなければならない。

伝統的に、バリスターは、法廷弁論を行うことや法律意見書を作成することを業務とし、依頼者から直接事件を受任するのではなく、ソリシターから依頼を受けて民事・刑事事件の弁論を行う、そして、ソリシターは、法廷弁論以外の訴訟の遂行や被告人との接見、証拠収集などを含む法律事務を行う、という分業も、2004年にバリスターが依頼者から直接事件を受任することが解禁され、また、ソリシターも、“Solicitor Advocate” の資格を得ることによって、上級裁判所で法廷弁論を行うことができるようになった。

Barrister は、法廷弁論を行う際には “a horsehair wig” (馬の毛で作られた鬘)をかぶり、法衣を纏うのが伝統。
1882年、Queen Victoria によって建てられた、Fleet Street 沿いの荘厳な Gothic Revival 建築の "the Royal Courts of Justice" 通称 "the Law Courts" にはthe High Court と Court of Appeal of England and Wales が置かれており、
館内には鬘や法衣が展示され、ホールの見学や裁判の傍聴もできる。

England and Wales の法曹院は、ロンドンに4ヵ所 (the Inner Temple、the Middle Temple、the Lincoln's Inn、the Gray's Inn) あり、4つとも the City と the City of Westminster の間の法曹地区にある。
The Royal Courts of Justice をはさんで、the Inner Temple と the Middle Temple は、the River Thames に沿う Victoria Embankment にあり、the Lincoln's Inn と the Gray's Inn は、Lincoln's Inn Fields と High Holborn 側にある。
記録では、the Lincoln's Inn が4つの法曹院の中で最古とされるが、伝統的にこれら4つの法曹院は同格で、どれが最古の法曹院かは決まっていない。
法曹院は、法廷弁護士の養成・認定に関する権限を持ち、England and Walesの全ての法廷弁護士および裁判官は、4つの法曹院のいずれかに所属することが法律によって定められている。

"The Inner Temple" がある所は、かつて "the Knights Templar" (テンプル騎士団)が開拓した場所である。
現存する最古の建物 "King's Bench Walk" は、1680年、ロンドン大火後に St. Paul's Cathedral を手掛けた建築家 Christopher Wren によるものであり、Grade I Listed Building (第1種指定建造物) に指定されている。
The Inner Temple は、数々の小説や映画の舞台になっており、ハリウッド映画 "The Da Vinci Code" (2006年) の撮影も行なわれた。
敷地内は自由に散策できる。 ※建物内部の見学は事前予約が必要

The Inner Temple

"The Middle Temple" は、1388年までにテンプルにあった法曹院が "the Inner Temple" と "the Middle Temple" の二つに分裂してできたものとされる。 "The Middle Temple" という名称は、Westminster へ向かう “Lane through the middle of the Court of the Temple” からきているといわれる。
1574年に完成されたゴシック建築の "Middle Temple Hall" は、1602年に Shakespeare の "Twelfth Night" が初演されたという記録があり、Charles Dickens の小説 "Barnaby Rudge" にも登場する。建物は Grade I Listed Building (第1種指定建造物) に指定されている。
Shakespeare の "Henry VI" の舞台となった薔薇の庭は、自由に散策することができる。

The Middle Temple

"Holborn" という地名は、Hampstead Heath に源泉をもち、the River Thames へと流れる "the River Fleet" に由来する Anglo-Saxons の言葉 “Holburna” (“hollow stream” を意味する) からきている。
"The Lincoln's Inn" という名称は、Holborn の東側に邸宅を所有し、法曹院を支援した the Third Earl of Lincoln 、または、法曹院の東側の Old Temple を所有し、国王の Chancellor (大法官) として仕えた the Bishop of Lincoln の名前に由来するといわれる。 
“Chancellor” は、"Chancery Lane" の名称の由来にもなる。
Hardwick 親子、Philip Hardwick と Philip Charles Hardwick、が手掛けた数々のゴシック建築の荘厳な建築物は、Grade I Listed Building (第1種指定建造物) に指定されている。 敷地内の美しい建物や庭を眺めながら自由に散策をすることができる。

The Lincoln's Inn

"The Gray's Inn" は、かつて、その土地が Baron Grey of Wilton の荘園であったことに由来する。“Grey” は、“Gray” のフランス語読みで、当時、フランス語読みにすることが貴族階級で主流だった。
火災や戦火を逃れた数々の荘厳な建物は、Grade I Listed Building (第1種指定建造物)、Grade II Listed Building (第2種指定建造物) に指定され、保護されている。 1597年、Francis Bacon が設計したという庭園の中央を通る "the Walks" は、17世紀、紳士と淑女の社交場となっていた。
The Gray's Inn の敷地内も無料で自由に散策できる。

The Gray's Inn

ところで、16世紀、the Newgate Prison の隣に建てられて以来その地に建つ "the Central Criminal Court of England and Wales" 通称 "the Old Bailey" (EC4) の荘厳な建物の上に立つ "Lady Justice" は、目隠しをしていない。 
正義の女神は、もともと目隠しはしていなかったという説、そして、潔癖な乙女に目隠しは余分だということだ。 
冠を被った the Old Bailey の Lady Justice は、真っ直ぐに見据えて、両腕を水平に伸ばし、剣の先を天に向け、天秤を持ち、身体全体で "Justice" を表現している。

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