BGTに於ける『とにかく明るい安村』の奮闘を英語構文から考察してみた件
少し前にネットニュースで話題になっていましたが、お笑い芸人の『とにかく明るい安村』さんが、イギリスの人気番組である『Britain’s Got Talent』というオーディション番組で大きくバズって、一躍大スターとなった模様です。
※ネット上で『British Got Talent』との表記が散見されますが、正しくは『Britain’s Got Talent』です。
最初にお断りしておくと、私自身は、上品ぶる気はありませんが『裸芸』の類をそれほど評価しておらず、お笑いに関してはどちらかと言うとビジュアル頼みのネタよりも話芸・話術で楽しませて欲しいタイプの人間です。
ただ、このブログでもたびたび吉本新喜劇を採り上げては絶賛しておりますように、『マンネリの美学』は大好きで、同じ芸をしつこく繰り返し、観客が期待した通りのオチで笑わせること自体は全く否定しません。
ただそのマンネリが、自らの裸の肉体を露出するだけで成り立っている場合には、もう少し工夫して何か次の芸を考えたら?という気持ちになってしまいます。
それはその裸が、ナルシストマッチョ系(庄司智春・小島よしお・レイザーラモンHG等)であれ、腹ポテデブ系(ハリウッドザコシショウ・とにかく明るい安村・ゆりやんレトリィバァ・上島竜平・出川哲郎等)であれ、ましてや単なる露出系(アキラ100%・江頭2:50・井出らっきょ等)を問わず、脱衣そのものを芸と考えているタイプには好感を持ちません。
※上記では、なかやまきんに君(お笑い芸人よりも筋肉そのものが仕事となっている)、オードリー春日(着衣での漫才と脱衣でのボディビルディングを分けている)、ロバート秋山竜次(裸芸というよりも体格モノマネというジャンルを創作)らを個人的に除外しています…
ただその中で今回、あの権威ある BGT(Britain’s Got Talent)というオーディション番組に於いて、とにかく明るい安村氏が大受けし、審査員全員が合格認定、かつ会場総立ちのスタンディングオベーションという快挙に際して大いに興味を抱きました。
実際、彼が舞台に登場して黒マントを脱ぎ捨て、ブリーフ一丁、いやここはこの後のキーワードになりますのでパンツとしておきましょう、そうパンツ一丁になった時には、会場の雰囲気としてはブーイング寸前のビミョーな空気が流れました。
イギリスのようなマナーを大切にする上品な国で、いや例えこれが BGTではなく AGT(America’s Got Talent)であったとしても、世界レベルのエンターティナーが集結するこの場で、ぽっちゃりした腹と胸を揺らした男性の裸芸は即却下されるのが常識ではないかと思ったのです。
ところがその民意に反して、大いにウケた…
ウケたどころか、4つ披露した芸の1つ1つが大絶賛だった。
お笑い好きの日本人としては、去年までにもう何度も見慣れたマンネリ芸でしたが(前述の通りマンネリは大好き)、それが如何にウケて盛り上がったかは、お時間あれば動画で確認いただければよいかと思います。
それより私が注目したいのは、今回、彼が『英語に救われた』2つの場面です。
今回の英国遠征に際して、安村氏は同じ吉本所属の外国人芸人に教示を受けて、最低限の自己紹介とネタ説明の英文を記憶して臨みました。
彼の発音はカタカナ英語に毛の生えた程度の、ネイティブとは程遠いものでしたが、それでもイギリス人審査員4名には自己紹介もネタ説明も、明確かつ正確に通じていました。
そしてどの審査員も彼に対してポライトリィにゆっくり質問する配慮を見せた為、彼は辛うじて聴き取れた簡易な英単語をキーに、ぎりぎり適切な返事もできていました。
ただ、私が言いたい『2つの場面』はそのことではないのです。
まず冒頭、審査員の1人から自己紹介を求められます。
『What is your name? and where have you come from?』
そこへ彼が発した自己紹介は、
『I’m TONIKAKU!』
重ねての質問、
『Where are you from TONY?』
ここで彼は早速、トニーというこの舞台での愛称を獲得しています。
ただそのことに気付かない彼は、
『Japan, Yeah TONIKAKU JAPAN!』
と繰り返し、自らを『トニカクジャパン』で通そうと…
私が思うに、彼は『とにかく明るい安村』という無駄に長いフルネームをイギリス人にどう伝えようかと悩んだ上で、『とにかく』をフィーチャーすることに決めたんだと思います。
ここで例えば、Anyway Smiling YASUMURA等と無粋に捻らなかったのは良かったと思うのですが、彼にとって幸いなことにはこのやり取りの後、親しみを込めてずっと『TONY』と呼ばれることになったわけです。
彼が用意した『トニカク』ではなく『トニー』と呼ばれたことで、審査員が早い時期に彼を受け容れ親近感を抱いたことが伺えます。
そしてさらに彼を包んだ幸運が、英語と日本語の文法・構文の違い!
ご存知の方も多いと思いますが、安村氏のこの裸芸の決めセリフは、
『安心してください! 穿いてますよ!』
こう言いながら、自らのパンツを指差します。
これを英語で言うとどうなるのか?
まず『安心してください!』は、誰が考えても『Don’t Worry!』。
で、『穿いてますよ!』は本来『I’m wearing Pants!』なんだけど、彼は『(私)穿いてますよ』の直訳で『I’m wearing!』で止めてしまった。
これが日本人には(少なくとも私には)違和感ないんだけど、wearは『目的語』を必要とする『他動詞』なので、『何を穿くのか?』が示されないとネイティブな方々は気持ち悪くて仕方ないんでしょうね。
中学校で習った英文法(英語構文)でいうところの、SVO=主語+他動詞+目的語。
ここでのVはVi・VtのうちOを必須とするVtの方ですね。
だから、彼が『I’m wearing!』と言い切った後に女性審査員の1人が思わず『Pants!』と付け足した。
実はこのひと言が着火剤となって、2回目では『I’m wearing!』の直後、件の女性審査員が待ち構えたように『Pants!』と叫ぶ。
さらに3回目の『I’m wearing!』の後は、もう1人の女性審査員も声を合わせて『Paants!』と合唱!
そして締めとなる4ネタ目が終了し会場に大喝采が起こる中、彼が満足そうに微笑みながら『I’m wearing!』と言えば、女性審査員2人と観客の一部が両手を拡げて『Paaants!』と叫ぶというクライマックス…
これ、どう考えても、安村氏が敢えて『目的語』を言わずに審査員と観客に『パンツ!』言わしめたという計算尽くの演出ではなく、『穿いてますよ』を『I’m wearing』と直訳してしまったが故に審査員に自発的に補完させたという偶然の産物。
事前に助言した同僚の外国籍芸人は何しとってん!(苦笑)
考えてみれば日本語にも『他動詞』はあるものの、パンツを指差して『穿いてます』と言えばそれで許される。もっと言えば、『穿いてます』と言うだけで彼のこの姿から、ズボンでもなく靴でもなくパンツに外ならないという事を、聴き手が察するのが日本語の常識なんですね。
逆に言えば、どこからどう見てもパンツしか穿いていないのに、wearの後にpantsを求める英語って、それはそれで『ちゃんと言わなきゃ伝わらないでしょ!』という文化。
やはりそこは日本独特の、『お察しください』、『言わぬが花』、『行間を読む』といった文化との差なのでしょうか。
ここで例に引くには極端過ぎますが、京都人の私は特にそれを感じます。
なんといっても、隣家の子どもがピアノを練習する音がうるさいと思った時に、『お子さん、ピアノ上手にならはりましたなぁ』と言ってしまう京都人ですので…(苦笑)
さてここで終わってもよいのですが、蛇足ながら後日談です。
今回のとにかく安村氏の英国遠征は、自らが志願してエントリーしたものではなく、所属事務所である吉本興業が勝手に申し込んだ案件とのこと。
よくアイドルなんかにデビューのキッカケをインタビューすると、女性アイドルなら『友達が勝手に応募した』とか、ジャニーズ系だったら『母が、姉が応募した』とか聞きますが、所属会社が応募したとなると、それなりに勝算あっての人選?
ま、TVで露出の減ったピン芸人を再びバズらせるには恰好のネタにはなりましたが…
今日はキャリアネタではありませんが、私が所属会社から公益財団法人への社外出向者として選ばれたのは、『アンタならやってくれる、アンタなら大丈夫!』という会社のお墨付きで選ばれたのだと、そう考えてみることにします。
そうすれば、とにかく明るい安村氏のように遠征先で神風が吹いて、全体を巻き込んでノリノリで活躍できそうな予感が…(笑)
追記…
もう1つ、イギリスといえばの後日談ですが…
広島市で始まったG7の為に来日したイギリスのスナク首相。
岸田首相との夕食会で、広島カープのロゴが入った真っ赤な靴下を着用してきて、カープファンの岸田さんにアピール!
その写真を公開した在日英国大使館のTwitterが、『安心してください、はいて・・・ではなくて、実はこれ、広島カープのロゴ入り靴下。』と発信!
お堅いイメージのイギリスでしたが、機を見るに敏な紳士的なユーモアセンスには、脱帽!いや脱パンツです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?