プロを舐めたらアカン!と悟った件
伝統芸能の事務方で働いていますので、ふだんからプロの『浄瑠璃』の奏者さんがたと親しくさせてもらっています。
『浄瑠璃』とは、三味線に合わせて太夫が語る、或いは太夫の語りに合わせて三味線が合いの手を弾く『語り物音楽』で、特に江戸時代に竹本義太夫によって完成された『義太夫節』は『人形浄瑠璃文楽』の重要な要素となっています。
そんな義太夫節の三味線奏者の一人、仮にTTさん(私よりずっと歳下の青年ですのでクン付けしたいところですが、劇場では敬意を表してサン付けしています)は、趣味の1つがギター。
邦楽と洋楽の二刀流?ということで、かねてより興味津々でした。
数ヶ月前の某日、私がプライベートの集まりで大阪ミナミのカラオケBOXでエアギターを披露するイベントがあり(苦笑)、その帰りに2本抱えていたギターのうち1本を劇場に置いて帰っておりました。
その1本は、1980年製の『MORRIS B-100』という12弦のアコースティックギター。
アリスの堀内孝雄さんが『君のひとみは10000ボルト』をヒットさせたことで12弦ギターが売れまくったといわれており、当時、中学生でとても買えなかった高価なギターですが、大人になって中古品を入手したものです。
昭和のギターは造りがしっかりしていて、40年以上経過した今は適度に枯れて、素晴らしい音が鳴るハズです。
で、ちょうどその翌日にTTサンと会いましたもので、軽い気持ちで、
『Tさん、12弦持ってきてるんで、ちょっと弾いてみる?』と声掛け。
今から思えば、とても軽率で失礼なお声掛けでした。
『あ、興味あります!』と答えたTさん、
着流し姿のまま廊下に座り込み、私が手渡した12弦ギターを抱えると、いきなり流麗なアルペジオ。そしてメロ弾きからタッピング奏法と、とんでもない華麗なソロプレイを披露してくれました。
さながら、和服姿の押尾コータローか、はたまた Eric Claptonかというレベル!
そこで悟りました。
プロのミュージシャンを舐めたらアカン…
『ちょっと弾いてみる?』なんて失礼な言い方をした自分が恥ずかしくてなりません…
(因みにTさん、通常の6弦ギターならしょっちゅう触っているけど、さすがに12弦ギターは殆ど経験ないそうです…)
そんなお話しを先日、別の公演の楽屋でTさんと会って、
『あのギターもさ、ずっとケースでくすぶってたのが、こないだTさんにあれだけ弾いてもらえて嬉しそうだったなぁ。僕のところに来ちゃったのがかわいそうだよね…』
みたいなことを話していたら、隣でスマホを弄りながら聞いていたK太夫がポツリ。
『次長のところに来たからこそ、Tさんに弾いてもらえることになったんですよね』
そうか、そういうことなんだよな。
ギターという寿命の長い楽器が、1980年から1人か何人かの手を渡って私の元にやってきて、それをまたギター好き、アリス好きな仲間に触ってもらって…
そんな不思議な縁の巡り合わせが身に染みた一件でした。
それを踏まえて、先週見つけたネット記事から…
ビンテージギターの収集を趣味としている、元SMAPの草彅剛さん。
SMAP時代にはギターといえばキムタクと吾郎ちゃんですが、ツヨポンはその後にあくまで趣味としてギターを始めたようです。
ツヨポンが行きつけのギターショップをチェックしていたところ、1965年製の『GIBSON J-200』を発見!
一応、値段を確認するも想定外の高額で、一旦見送ったようです。
元トップアイドルの芸能人が躊躇するくらいですから、相当の高価格だったのでしょう。実際、中古ギターの相場は円安もあって数年前の2~3倍に高騰しています。
加えて、私の誕生年でもある1965年といえば、現在では入手困難な材料が用いられていることもあって稀少価値もあります。
やはり気になったのか、翌日ツヨポンがそのショップに電話してみたら、既に売れちゃったと。
ツヨポンが見送った直後にそれを見つけて即決で買っていったのは、なんと来日公演中だったBruno Mars(ブルー・ノマーズではなくブルーノ・マーズですよ!)でした。
悔やむツヨポンに対してショップ店長のひとことが、
『ギターがブルーノ・マーズを選んだんだよ』
それに対してツヨポンは、『俺は選ばれなかったんだ』と落胆。
そして、『マーズさんと同じギターをいいと思った自分は見る目があるんだ』と前向きに解釈した上で、さらに
『悔しいから、またギターショップに入り浸ってたら、違う探してるギターが見つかって。それを買えたから、ブルーノ・マーズさんがギターを買ってくれて僕は一番欲しいギターを手に入れたってこと!』とご満悦だったとか。
『キャリア関連の部屋』でもさんざん書きましたが、まさに、縁と運の連鎖!
無機質な楽器にも魂があり、そして持つべき人の手に渡っていくんですね。
そんなことを書いてたら、また1つ、考えさせられるお話しを思い出しました。
iPhoneでお馴染みの米Apple社が今月、新型 iPad PROの薄さを音楽家・映像制作者にアピールする為に、巨大なプレス機が楽器や映像機器などをペシャンコに破壊する内容の動画広告を配信しました。
ところが、芸術家や音楽家らが何世紀にもわたり活用してきた道具を潰すことで巨大IT企業がクリエーターの仕事を奪い金を稼いできたことを想起させ、批判が噴出。日本のSNSでも『モノを粗末に扱っていて不快』とのブーイングが相次ぎ、結果的にApple社はこの動画広告を撤回のうえ謝罪した、という騒動…
上の記事で、アメリカでは『活用してきた道具』であったり『仕事を奪った』ことが不満の元だったのに対して、日本のSNSでは『モノを大事にしない』ことに怒りを覚えています。
これは、『八百万の神』という言葉に象徴されるように、木や石など全ての物のなかに魂が宿っているという思想や信仰がベースになっているのかもしれません。
その考え方を animismと呼びますが、アニミズムは日本のみならず欧州やアフリカ・アジア全般に広く浸透している思想かと思われます。
今回、調子に乗って『やっちまった』感満載のアップル社の広告でしたが、ではどうすればもっと上手に伝わったのか?というと…
私は1980年発刊の『ドラえもん』(第19巻)に登場する『オコノミボックス』を復刻するのがインパクト大きいかと思います(笑)
藤子・F・不二雄先生はなんと今から44年も前に、このような『ひみつ道具』、『魔法の箱』を想像されていたんですね。
漫画家の発想力たるや…、
やはりプロは舐めたらアカン、です。
※三味線奏者TTさんのギター演奏動画をアップしたかったのですが、プロの音楽家でもあり本人承諾を得ていませんので、今回はご容赦ください。
※トップ画像は Gibson J-200のイメージとしてDolphin Guitarさんサイトから拝借したものです(既にSOLD OUTかと思います)。