『琥珀の夢』を紡いだ2人の作家が逝ってしまった件
昨日11/24(金)、直木賞作家の伊集院 静さんが亡くなりました。
享年73歳、肝内胆管がんでした。
今年は、若くしてご逝去された有名人が特に多いような気がします。
先日(‘23/11/12(日))の『プロティアンラヂオ』配信でもお話ししたのですが、ミュージシャンだけを数えてみても、1月に YMOの高橋幸宏さん(享年70歳)、シーナ&ロケッツの鮎川誠さん(74歳)、ムーンライダーズの岡田徹さん(73歳)。
3月に YMOの坂本龍一教授(71歳)、10月にアリスの谷村新司さん(74歳)、もんたよしのりさん(72歳)。
そして11月には歌手の大橋純子さん(72歳)と、本当に心が痛む出来事が続いていました。
(その直後に、KANさん(61歳)も亡くなってしまいました…)
そこに、伊集院静氏の訃報。
直木賞作家というタイトルで語られがちですので小説家ということになりますが、実は歌謡曲の作詞家としても数十曲の作品を書かれていて、多くのヒット曲を残しておられます。
歌手でいえば、西城秀樹・沢田研二・岩崎宏美・ピンクレディに始まり中森明菜・とんねるず・田原俊彦・竹内まりや…他、多くのアーチストに詞を提供。中でも近藤真彦については、『ギンギラギンにさりげなく』・『情熱☆熱風せれなーで』・『愚か者』ほか26曲を提供しています。
これだけのヒット曲を書きながらも、こと歌謡界でさほど名前が知られていないのは、松任谷由実が呉田軽穂名義で作詞していたのと同様に、伊集院氏も伊達 歩名義で作詞していたからと思われます…
ときに、生涯で約800の作品を書いてきた伊集院氏ですが、近年の作品で私が何度も読み返している著書が、2017年刊の『琥珀の夢』。
サブタイトルに、『小説 鳥井信治郎』とありますが、日本経済新聞に2016年7月から2017年9月まで連載された『小説、鳥井信治郎と末裔』を上下2巻に再編したものになります。
日本初の国産ウイスキー造りに挑んだサントリー創業者・鳥井信治郎の生涯を描いた長編で、2018年には『日経ドラマスペシャル 琥珀の夢』としてテレビドラマ化されました。
この著書を購入した時にすぐに脳裡をよぎったのが、私が敬愛するアリスの谷村新司が 1977年にソロ名義でリリースしたアルバム『黒い鷲』の中の5曲目、A面ラストに収録されている『琥珀の夢』という楽曲でした。
(余談ながら『黒い鷲』はファンの間では『黒鰯』と発音することがお約束となっています…(苦笑))
楽曲自体は、当時中学生の私にはやや難解で記憶に薄かったものの、その洒落たタイトルの響きがずっと頭に残っていたのでしょう。2018年、53歳で伊集院静氏の『琥珀の夢』を見た時に、ハッと思って iTunesから谷村新司の『琥珀の夢』を探して数十年振りに聴き入ったものでした。
ところで、私にとってもう1つ、人生に於いて大切な『琥珀の夢』があります。
それは今を去ること43年前!の中学3年生の夏休み、国語の先生からの宿題で『原稿用紙10枚以上の自由作文』という課題が与えられた時に、私が原稿用紙100枚を書き上げて提出した『琥珀の夢』です。
クラスのみんなが、『先生、タイトルと名前の2~3行も含むの?』とか『先生、10枚ちょうどでもええの?』とか何とか負担を軽減しようと苦慮するなかで、夏休みをまるまる費やして書き上げた100枚=40,000文字の大作でした。
伊集院氏の『琥珀の夢』のサブタイトルが『小説 鳥井信治郎』なら、私の『琥珀の夢』のサブタイトルは『遠くで汽笛をききながら』と書き添えてあります。言うまでもなく、当時も今も人生の伴走歌となっているアリスの名曲をそのまま借用…
中学高校6年間を男子校で過ごし、妄想恋愛に明け暮れていた『フォーク少年』が書いた長編で、主人公の新司と孝雄が、同じ通学電車で出逢った美樹と蘭に恋をするという(苦笑)、ほろ苦い妄想恋愛小説です。
(勿論、友人として透と好子も登場します…)
今も手許に残っていますが、青臭い内容は兎も角、15歳にして100枚を黙々と書き上げたこと自体は、50代後半になって始めたこのブログを2年も継続できている基礎になったのではないかと、我ながら懐かしく振り返っています。
ただ改めて目を通せば、タイトルの『琥珀の夢』は、単に谷村新司にあやかってその言葉を使いたかっただけで、作品中の何処にも『琥珀』っぽいものは登場しません。琥珀どころか、むず痒くてほろ苦い『青春』しか感じない…(笑)
さて、中学生の私が描いた『琥珀』はさておいて、巨匠2人が描いた『琥珀』もそれぞれ別のものであって、色合いこそ同じ茶褐色ではありますが、全く異なる題材です。
谷村新司氏が描いた琥珀は、『流木の琥珀』。
青い春と白い秋を超えて、少年は男に、少女は女に姿を変えてゆく。熱く燃える青春時代に、木々が燃え尽き琥珀色と化していく…
かたや伊集院静氏の琥珀は、樽の中で静かに熟成する『ウイスキーの琥珀色』。
無謀とも言える日本初の本格ウイスキーの製造に挑戦した、明治時代の起業家・鳥井信治郎の生涯を描いた物語。
余談ながら、その信治郎の次男である二代目・佐治敬三は、父のスピリットを受け継ぎ日本初の生ビールの製造に挑戦。この生ビールもまた、『琥珀』色であります。
かくして、奇遇にもこの秋に亡くなった73歳と74歳の巨匠の作品。
そして、その2つの『琥珀の夢』を繋ぐ私の想い出としての『琥珀の夢』。
不思議なご縁を感じながらあらためて両巨匠のご冥福を祈ります。