✨小さな幸せ✨ひとり旅小豆島編1✨
「南無、、、」
先年亡くなった義父を追うようにして亡くなった、今日で49日になる義母へ、和尚の張りのある供養のお経を読む声が、本堂の中を響き渡る。
他の親戚や私は、黒い衣を纏った彼の背中を見ながら、反対に静かなつぶやくような声で、経本を片手に開いて、お経を読む。
脳裏では、長男の和尚の元に嫁いできてからの、自分の長い年月を振り返っていた。
私の結婚生活はお寺とこの亡くなった老人たちを中心に回っていた。
いやあ、本当に昭和を代表する頑固な義父と、わたる世間は鬼ばかりを地で行くこれまた昭和を代表するしっかりものの義母でした。
なかなかの人たちだったので、今の私は体調がボロボロ。最近血尿も出たり血圧も高い。ストレスからかよくわからない痙攣も度々起こり、次の定期検診に行くのが怖い。結果が悪そうだからだ。
こんな私が実家の親の様子を亡くなるまで見守っていては、私の人生なんだったんだろう?親の病院通いから今度は自分の病院通いで終わってしまう!
作家の五木寛之さんも
「人間は誰でも自分が一番大切なのです」
そう言われていたが、もうそろそろ私も、自分を一番大切にして良い時なのではないだろうか?
私の心は決まった。無事納骨もすみ、親戚も帰り、静まり返った本堂で私は和尚の目を見据え、緊張で汗ばんでいる両手をグッと握り込むと、宣言した。
「ひっ、ひとり旅に行くことにしたから!」
挑むような私の態度に、和尚は目を見開いて互いが数秒見つめ合った。
その後、
「ちょっと待ってて」
そう言い残し別の部屋へバタバタ走ったかと思うと、手帳を手に持って戻ってきて、パラパラとページをめくった。
「いいよ!何日間行く?だけど僕の予定が入っていない時にしてね」
にこにこ微笑みながらそういう彼に、すっかり拍子抜けしながら
さっきの勢いが全くなくなった私はこう答えた。
「じゃあ、3日間お願いします」
※ 次話からいよいよ私の小さな幸せ探しの旅、始まります。