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“エモーショナルスコア”が導く好循環。thanXi CEO吉田が語る成長支援の真意
DXで働く人一人ひとりの成長を支援し、日本の生産性向上を目指すクラウド「CANaYELL」を開発・運営する株式会社thanXi。
飲食業界内外で革新的な経営方法で注目を集めてきた吉田 裕司が、「すべての成長を願う人の未来を創る」という想いを胸に設立したthanXi。その背景や今後の展望について、CEO自らが語ります。
「人が育てば業界は変わる」日本の未来を変えるブレない信念——thanXi創業のきっかけ
——thanXiを立ち上げた経緯を教えてください。
大学時代から長くサービス業界で働いてきました。大学在学中に大手飲食企業で社員としてキャリアをスタートし、その後、大手コンサルティング会社に転職。そこから独立して飲食店経営企業・ジリオンを設立しました。私は「働くスタッフ一人ひとりの成長とやりがいが、最終的に企業や業界の成長に結びつく」という考えを持っており、ジリオンでも顧客満足度(CS)とスタッフの成長実感を両立させる運営を続けてきたんです。ありがたいことに、顧客満足度や従業員満足度のアワードで業界1位を表彰いただくなど、一定の成果も得られました。
しかし、同時にサービス業界全体の構造的な課題を痛感するようになりました。
たとえば「業界に入りたい」と考える若者が激減していたり、仕事が好きで入社しても「やりがい」や「成長」を感じられずに離職してしまうケースが非常に多い現実がある。もともと人情や根性頼みでやってきた背景もあって、働く人が主体的にスキルアップできる環境や評価基準がまだまだ整っていないのが現状です。
そこで、「人が成長を実感するプロセスをDXでサポートし、最終的には日本のサービス産業全体を底上げしたい」という想いからthanXiを立ち上げました。
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——キャリアの中で得た学びと、それが意思決定にどう影響したか教えてください。
最初に勤めた大手飲食企業では、プロとして顧客満足度を徹底追求する文化を学べた一方で、スタッフの成長意欲を高める仕組みは十分ではないと感じることもありました。次に転職した大手コンサルティング会社では整った福利厚生と“働きやすさ”を経験する一方、現場の一人ひとりが「成長実感」を得るための仕掛けはまだ不足していると感じました。
この2つの経験を通じて確信したのは、「顧客に価値を提供できる人材をいかに育てるか」が業界の未来を左右するという点です。スタッフが自らの成長を実感し続けると、結果的にCSが劇的に向上してブランド価値も上がる。逆に、いくら働きやすさを充実させても、「スタッフのやりがい」や「チャレンジ意欲」を育てる仕組みがなければ人材流出は止まらない。その根本にあるのが、私たちが後に“エモーショナルスコア”と呼ぶ概念です。
——ジリオンでのご経験から、特に印象に残っている課題や、その時の取り組みについて教えてください。
ジリオンでは、売上や店舗数といった表面的な数字にとらわれず、「人材のスキルやチャレンジ意欲をいかに高めるか」という本質に注力しました。その中で見えてきたのが、適度な負荷とスキルレベルがかみ合った状態、いわゆる“フロー状態”を生み出す重要性です。フロー状態とは、極端に易しすぎたり難しすぎる仕事ではなく、自分の実力に少し背伸びした課題に取り組むことで集中度や成長実感を高める状態を指します。
実際にジリオンでも、この考え方を取り入れてスタッフが「やりがい」を得られるよう調整すると、顧客満足度が上がり、スタッフの定着率も向上しました。しかし同時に、「一部の企業だけでこうした取り組みをしても、業界全体は変わらない」というジレンマも感じたんです。そこで、フロー状態をDX化して多くの企業に広げたいという想いがthanXiを設立する大きなきっかけになりました。
成長をDXで加速する——“エモーショナルスコア”に注目したCANaYELLの挑戦
——thanXiを立ち上げて、現在取り組まれていることはどのようなものですか?
私たちは、働く人のフロー状態(エモーショナルスコア)を高めるためのプロダクト「CANaYELL」を開発しています。一般的に「従業員満足度(ES)」と言うと、福利厚生や働きやすさにフォーカスした施策を想起しがちですが、本当の成長実感を得るには“適度な負荷”と“正当な評価”が欠かせないと考えています。そこを数値化したのが、私たちが重視する“エモーショナルスコア”という指標です。
CANaYELLは、単に管理職が楽をするためのシステムではなく、個々がチャレンジできる環境をDX化し、フロー状態に入りやすい評価と育成の仕組みを提供するのが大きな特徴。スタッフが「もっと成長したい」「やりがいのある仕事をしたい」と思えれば、自然とCSも向上し、企業全体が好循環に入ると私たちは考えています。
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——「エモーショナルスコア」がCANaYELLの大きな特徴だと伺いました。具体的にはどのような仕組みなのでしょうか?
私たちが「エモーショナルスコア」と呼ぶ指標は、一言でいえば「どれだけフロー状態に近い働き方ができているか」を数値化したものです。フロー状態とは、ポジティブ心理学の第一人者、M.チクセントミハイが提唱した概念で、「挑戦レベル(難易度)とスキルレベルが程よく噛み合うと、時間を忘れて没頭でき、やりがいや成長実感を強く得られる状態」を指します。
現場のマネージャーが、スタッフの内面を100%把握して個別に最適な指示やフォローをするのは正直難しいですよね。そこでCANaYELLでは、このフロー状態をDXで可視化するために、挑戦度合い・スキル度合い・周囲からの評価などを独自のアルゴリズムで数値化しています。
たとえば、現場スタッフが「店長から与えられた業務でどんな達成感を得たか」「チーム内でどのような貢献をしたのか」「次のステップにつながる学びはあったか」を細分化し、そこにAIやマンダラ型の設計(目標を中心に据え、その周囲に関連する要素を整理するフレームワーク)を掛け合わせながら一人ひとりの状態をスコアリングするイメージです。さらに、このスコアが給料やキャリアパスに反映されるようにすることで、「自分は今どこを目指すべきか」「次にどんな挑戦が必要か」が明確にわかる。そうすると、従業員がやりがいを持って仕事に取り組み続けられるようになるんです。
——フロー状態を生み出すうえで、特に重要視しているポイントは何でしょうか?
大きくは「チャレンジの度合い」と「公平かつ透明な評価」という2つの柱があります。まず、スタッフが“少し背伸びするレベル”の課題に取り組むと最も没頭しやすく、達成感を得られるんです。逆に仕事が易しすぎると退屈し、難しすぎると不安が大きくなるので、CANaYELLではスタッフ自身が目標を設定し、周囲がフィードバックを与えながら最適な負荷を調整できる仕組みにしています。
もう一つは評価。どれだけ頑張っても正当に報われなければ成長意欲も削がれてしまう。そこでチームからの貢献度や自己評価、顧客評価などを統合してスコア化し、スコアが高いスタッフには昇給やキャリアアップなどの機会を与える仕組みにしているんです。
——なぜエモーショナルスコアが必要なのでしょうか?
従来の「従業員満足度(ES)」は、福利厚生や働きやすさを充実させる施策が中心でした。もちろんそれらも大切ですが、本質的な“仕事のやりがい”や“挑戦意欲”を高めるには、やはりフロー状態をいかに多く体験できるかが鍵だと考えています。このエモーショナルスコアを高めることでスタッフが「もっと成長したい」「お客様を喜ばせたい」という前向きな循環に入り、結果的にサービスプロフィットチェーン全体を好循環へと導くことができるんです。
——今後はどのように発展させていくのでしょうか?
今後は、AIによる個別最適化に注力していきたいと考えています。たとえば、すでに高いスキルを持つスタッフには、より難易度の高いタスクを推薦してフロー状態に導く。逆に新人スタッフや不安を抱えるスタッフには段階的にチャレンジを設定し、成功体験を重ねやすいロードマップを提示する。
このように、「一人ひとりの挑戦レベル × スキルレベル」を自動でマッチングし、かつ成果を正当に評価してフィードバックすることで、スタッフが“自分の成長カーブ”を自覚しながら働けるようになるんです。人手不足が深刻化するサービス業界において、「やりたい」「成長したい」と思える人材が長く活躍できる仕組みを作れるかどうかが、業界の未来を左右すると確信しています。
——フロー状態を可視化することで、実際にどんな変化が期待できるのでしょうか?
たとえばスタッフが自分の成長曲線を意識して目標設定を行うようになれば、現場全体のモチベーションが上がり、顧客満足度や生産性の向上が期待できます。結果として売上や利益が伸び、企業がさらにスタッフへ再投資できる好循環が生まれるというわけです。
設立から現在までの取り組み——「本当に必要なもの」を追求し、現場主義で磨き続けてきたプロダクト開発の軌跡
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——創業からリリースまでに約3年を要していますが、この期間にどのような取り組みを行っていたのか教えてください。
「とにかく早くプロダクトをリリースしてユーザーを増やそう」という姿勢ではなく、“本当に求められるサービス”を形にするために時間をかけてきました。最初は外部の協力を得てジョイントベンチャーでスタートしましたが、スピードやクオリティの面で課題があり、やはり理想とするプロダクトを作るには内製化しかないと判断。そこから自社エンジニアを抱えて試行錯誤を重ねました。
また、40〜50社ほどの企業にヒアリングを行い、経営層・現場リーダー・スタッフの3視点で課題を整理。そのうえで、自分が経営するジリオンの実店舗を使ったテストマーケティングを徹底し、実際の利用者から想定外のフィードバックも含めて細かく検証してきたんです。結果として、ようやく納得のいくバージョン1が完成したのは3年後でした。
——現在の導入状況についても教えていただけますか?
現時点では、複数社に導入いただいています。ただ、急いで利用企業を増やそうとは考えていません。今は「多くのIDを獲得する」フェーズではなく、業界にインパクトを与えられるブランド力のある企業を選定し、深く関わりながらテストマーケティングを行う段階です。問い合わせの件数は50件ほどいただいており、今後の導入についても慎重に進めています。
——ジリオンでの経験はどのように活かされていますか?
ジリオンは私たちにとって、現場での高速PDCAを回せる実験場でもあります。1年半以上にわたってテストマーケティングを行い、「フロー状態を支援する評価システム」「スタッフのチャレンジレベルとスキルレベルを可視化する機能」「評価結果を報酬やキャリアパスにどう連動させるか」などを試しました。そのリアルな検証結果は、何よりも価値のある財産です。
また、世の中に溢れているHR系のツールは、管理職やマネジメント層向けの機能に偏りがちで、肝心の現場スタッフが「面倒」「意味が分からない」と思って離脱してしまうケースが少なくありません。そこで私たちは、スタッフ自身が「これを使うと自分の成長が見える」「次に挑戦すべきステップが分かる」とワクワクするような機能を中心に据えて開発してきました。ジリオンのスタッフがそれを使って“フロー状態”に近づいていく様子を実際に見られたことで、プロダクトの方向性に確信が持てたんです
今後の展望——接客・教育・スポーツなど多様な領域に広げ、将来的には”タイムマシン経営”で世界へ
——中長期的な展望や海外展開についてお聞かせください。
まずは日本のサービス産業全体の底上げを目指しています。飲食やホテル、ウェディング、アパレル、教育など、人が主体となって価値を提供する仕事にはCANaYELLの仕組みが活かせるはずです。特に“やりがい”や“働きがい”を感じられる人材ほどパフォーマンスが高まるので、そうした職種から優先的に展開し、そこから多面的に広げていきたいですね。
一方、海外、とくにアジア諸国にも大きな可能性を感じています。日本が長い年月をかけて築き上げた「おもてなし」や「細やかなサービス」の文化がまだ根付いていない国々があり、かつての日本が通った状況と重なる部分が多いんです。そこにタイムマシン経営として、“先進的なマネジメントDXを導入し、個々が正しく評価・成長できる仕組み”を整えることで、サービス業の未来を大きく変えられるのではないかと。
いずれは、「自分の力でファンを喜ばせる仕事に就きたい」と考える若者が増え、たとえばベトナムやタイで「接客が人気ナンバーワンの職種になった」という未来を想像するとワクワクします。日本が失った30年を追体験するのではなく、“成功体験を先に提示して未来を先取りする”——これが私たちの目指すタイムマシン経営です。
——タイムマシン経営とは、具体的にどのようなことを指しているのでしょうか?
一言でいえば「日本が培ってきた高いサービス基準とマネジメント文化を、その国がまだ成熟しきっていない段階で導入する」という考え方です。もちろん単に日本のやり方をコピーするのではなく、現地の文化や働く人たちに合わせてローカライズし、個々のスタッフを正しく評価・成長させる枠組みを構築するのが大切だと思っています。
たとえば、日本の飲食店がミシュランで多数の星を獲得できるのは、根性論だけでなく、高い技術やホスピタリティが積み重なっているからですよね。そこにフロー状態を生み出すDXを掛け合わせれば、働く人が正当に報われ、楽しみながらスキルを伸ばせるサービス産業を作れるはず。そうなれば「サービス業は大変だから避けたい」ではなく、「やりがいが大きく、自分の可能性を引き上げてくれる魅力的な仕事」として認知される国や地域が増えるでしょう。私たちはそんな未来を実現したいですね。
「まずやってみる」実行力と未来への情熱を持つ仲間と挑戦したい
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——thanXiで働く仲間に求める姿勢や、大切にしてほしいことがあれば教えてください。
まずは「まずやってみる」という姿勢を大切にできる方を歓迎します。できない理由を探すより先に「どうやったらできるか」を考えて実行に移すスピード感が、サービス業界のDXには欠かせません。そして“人だからこそ提供できる価値を信じられることも重要です。私たちは単に「システムを売りたい」のではなく、「人の成長が企業や社会を豊かにする」という未来を本気で信じているからです。
さらに言えば、「過度にコミットできる」ことも歓迎しています(笑)。無理に働き詰めになるわけではありませんが、自分の中で“やってよかった!”と興奮できるような没頭体験を仕事で味わえる人こそ、フロー状態に近づく素質があると考えています。会社に言われて仕方なくやるのではなく、「自分がワクワクするからやりたい」という動機が、サービス業界の未来を変えるエネルギーになるんです。
日本のサービス産業、そして海外の未知の市場。「人が成長することで、企業だけでなく社会全体を進化させられる」という確信を、一緒に体現してくれる仲間をお待ちしています。ぜひ、私たちと共に未来を創る挑戦をしていきましょう!