白杖を持った方のお手伝い
「渋谷駅はどっちですか?」と声が聞こえた。一瞥すると、白杖を持った男性が女性に尋ねていた。方向を伝えると、女性は反対方向に歩いていった。
歩道には大勢の人がいる。立ち止まっている僕の横を男性が通り過ぎようとしていた。
「すみません、何かお手伝いできますか」
なんと声をかけるのが正しいのかも分からないが、男性に声をかけていることがはっきりと分かるように気をつけた。
「ありがとうございます」
男性は自分が声をかけられているとすぐに気づいた。
「どうしたらいいですか。初めてなのでよく分からなくて。肩をお貸ししたらいいですか」
男性は左手で僕の肩を持った。肘は可動域が大きいので、肩の方が良いとクラスの友人から聞いたことがあった。
以前から盲目の方がいたら声をかけたくて相談していたのだった。
歩きながら男性の乗りたい路線を聞いた。幸い、渋谷の道には詳しかったから、歩きやすい道を選んで最も近い改札に向かった。
男性は渋谷に映画を観に来ていた。友人が出ていると言う。しかし、音声だけで楽しんだ映画と実際の映画の結末が異なるらしい。観終わった後に結末を聞いて気づいたそうだ。
「それはどうなんでしょうか。より楽しめるのか、あるいは楽しめないのか」
うーん、どうでしょうね。
男性は判断がつかない様子だった。
僕たちは非常にゆっくりと前へ進んでいる。前からやってくる通行人は、スマホをいじっていることもある。
そういうとき、僕は彼らの動きをよく観察して、ぶつかる可能性があると思ったらすぐに立ち止まった。
その間も僕と男性はおしゃべりを続けた。
数日前に観た映画にお客さんが全然入っていなくて、勝手に興行収入を計算した話や点字ブロックの話をした。
男性は駅のホームから4回落ちたことがあるそうだ。自分で這い上がったこともあるらしい。
当然怪我を心配したが、大きな怪我をしたことがないと言っていた。
身体が非常に丈夫なのかもしれない。
「ホームには点字ブロックがあるのに、どうして落ちてしまったんですか」
急いでいたんですよね。電車が来たから乗ろうと思ったら、それはホームの反対側に来た電車だったんです。男性は明るい。
ホームで白杖を持った人を見かけたら、点字ブロックがあっても見守るようにしようと思った。
男性は何度もお礼を言いながら、改札を通って去っていった。僕はその後ろ姿を見ながら、勇気を出して声をかけて良かったと感じていた。
その後、そのままパーティに行った。
パーティの会場で隣に座っていた男性は、全盲だった。
ここに来るまでの話をすると、自分の話をしてくれた。
駅から家までの慣れた道のりでも、ときたま迷子になるらしい。道で声を出すが、周りに人がいるか分からない。
誰もいないところでオレはひとりで大声を出してるだけかもしれないよね。男性は楽しそうだ。
僕が案内をした男性も、僕から見れば周囲に大勢の人がいると分かるが、彼からすればどのような状況か判断できない。だから自分から声をかけるのは難しいのかもしれない。
二人とも移動のときは、Googleマップを活用していた。
僕でもどちらの方向に進むか分からないときがあるから、アプリを使っているとさまざまな不便さを感じると思う。
ひとりで歩けていても、誰かが肩を貸した方が良いだろう。
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