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酸っぱい自己嫌悪

トンネルを抜けると、昔と変わらない海岸線が視界に飛び込んできた。

道路沿いに車を止めて、外に出る。

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ガードレールは潮風のせいか、あの頃よりも錆びついている気がした。

「ずいぶん長いこと来てなかったもんな…」

月日が経ったことを改めて実感して、なんとも言えない寂しさがこみ上げてくる。

向こうに見える町まであと少しだ。

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「高校を出たら、東京の大学に行く」

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当時付き合っていた彼女—河田陽菜から唐突に告げられた僕は、何も答えることができなかった。

都会とは程遠い、海沿いのこの町から東京に行くということは、しばらく会えなくなるということを意味する。

もやもやした気持ちのまま、僕は彼女に背を向けた。

「ごめん…ずっと言えなくて。でも…でも私…!」

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後ろから聞こえてくる声を、僕は聞こえないふりをした。

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高校を卒業した後、僕は逃げるようにこの町を出て、地元ではそこそこ名の知れた大学へ進学した。

陽菜からは、卒業後も何度かLINEが届いていた。

東京での生活のこと。大学のこと。最近始めたアルバイトのこと。

何か返信しようと、チャット欄に文字を書いては消して、書いては消してを繰り返し、結局適当に返事を返すだけになっていた。

「あの時はごめん」

たった一言、そう返せばいいだけのはずだったのに。

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そのうち連絡はぱったりと止んだ。

僕も彼女のことを考えないようにしていた。

だが、今になって、あの頃の自分を省みて後悔の念が湧いてきたのだ。

君が見ていた夢を、素直に応援するべきだったのだ、と。

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君と離れることが寂しくて、信じられなくて、賛成なんてできなかったあの時。

どれだけ彼女をがっかりさせただろう。

僕がするべきことは、僕自身が一番わかっていたはずなのに。

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彼女にはもう何年も会っていない。

だけど、自分の夢を今でも追い続けているのだろう、となんとなく確信している。

あるいはもう、夢を叶えているのかもしれない。

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多分、僕のことなどとうに忘れ、新しい出会いの中に思い出も消し去っているだろう。

新しい彼氏は、僕とは違って理解のある人であってほしい。

僕はただ、遠い空の下で幸せを祈るくらいでちょうどいい。

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僕もやっと、叶えたい夢を見つけることができた。

その時初めて、「決心をする」ことの大切さ、そして勇気がわかったのだ。

だからこそわかる。

あの時僕が言うべきだったことを。

「わかった。ずっと待ってる」

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今となっては手遅れだが。

「陽菜…ほんと…ごめんな…」

誰にも届かないその言葉は、潮風と共に海へと消えていった。

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僕の青春時代を過ごした町は、あの頃と変わらずそこにあった。

自転車を押しながら帰る僕ら2人の光景が、今にもその場に見えそうだった。

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さっき車で通った海岸線も、昔は何度も自転車で通っていたと思うと感慨深い。

そんな青春の思い出と、幼なすぎた過去の自分を思い返し、心がキュッとなるのを感じた。

と、ちょうど母から連絡が入った。

「今から最寄り駅に着くから迎えに来てくれない?車だったよね?」

仕方なく吸いかけのタバコをもみ消して、駅へと車を走らせる。

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田舎の駅ということもあって、相も変わらず構内は閑散としていた。

都会のように「待ち合わせをしていてもなかなか合流できない」なんてことは絶対にない。高校時代は、僕らもよく待ち合わせに使っていた。

それはもちろん、陽菜との待ち合わせも例外ではない。

彼女のことはとっくに忘れたと思っていたはずなのに、帰ってきた途端これだ。女々しさに笑いすらこみあげてくる。

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僕の唯一の後悔だからだろうか。

ちょっとした自己嫌悪感を味わいながら、改札の前でスマホを眺めていると、

「あ、あの…」

不意に前から女性の声がして、ちらっと顔を上げる。

「やっぱり…そうだ!」

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迎えに来た母のことなど、もはやどうでもよかった。

この町に、僕はやっと帰ってくることができたのだ。


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