進
桜の木がどこにあるかなんて、普段考えることはないだろう。
春に満開の花が咲き、それを見て「そういえばあそこには桜があったな」とふと思ったりするものだ。
自分が生まれるよりずっと昔からそこにあるはずなのに。
それが「宿命」と言ってしまえばそれまでなのだろう。
「春の桜」。
それは出会いと別れの象徴。
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初めて君に会ったあの日。
まさに桜の季節だった。
ショートヘアーで丸顔、大きな目。
負けず嫌いで、ボーイッシュな女の子。それが第一印象だった。
会う度に色々な面を見つけた。
くしゃっとした笑顔が可愛いところ。
汗っかきなところ。
実は繊細で涙脆いところ。
そして、人一倍頑張り屋なところ。
いつだったか聞いてみたことがある。
「なんでそんなに頑張れるの?」
君はこう答えた。
「今やらないと、後悔しちゃうからね」
まるで自分のやっていることは「どうってことのないもの」のような、涼しげな表情だった。
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出会った時よりも、君の髪は長くなっていた。
そんなに時間が経った気はしていなかったのに。
でも上を見上げると、もう何度目かの桜の花が満開に咲き誇っている。
あの日と同じだ。
「寂しくなるな」
ふと、そんな言葉が漏れた。
「私もだよ」
そう言うわりには、やけに表情が嬉しそうだが。
「え…?じゃあ…」
「でも。ごめん。行かなくちゃ」
「…どうしても?」
「うん。行かないとだめなんだ」
「次の私が、そこで待ってるから」
とっくにわかっていた。君を止めることなんて、できるわけがない。
きっと「時間」ですら、君を引き留めることなどできやしないだろう。
「さよならじゃないよ」
「またね」
新しい季節はまだ始まったばかりだ。
君にとっても。僕にとっても。