Nervous Fairy-7 "diSTAnt cRoThing"
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流石にこれに関しては自分でもナンパだと思ってしまった。
「…いや、ごめん。今のは忘れてくれ。ごめん」
何故なんだろう。反射的にと言っても過言ではないくらいに口走ってしまった。
「…あたしはどうせ出ないで帰るけどね」
「……え?なら道別れるまででもいいから一緒帰んない?」
反射的な提案。なんでそこまで自分がグイグイしたのかわからない。嫌われしかしないだろうに。
「…あたしは駅越えた向こうだけど」
おや?
「あ、同じだ。なら少し話せるな」
「まだ一緒に帰るとは言ってないけど。それに撤回したんじゃないの?」
「帰り道一緒なら良くない?」
「……まあ途中までなら」
「よっし。…あ、先生来た」
会話はそこで途切れる。
誘った結果、どう思っていたのかは、ロングヘアのカーテンに隠されて横顔を図ることもできなかった。けれど、あからさまな拒否はされていないらしい。もし新刻が抱え込んでしまうタイプだとしたら違うのかもしれないけど、別にこちらは負荷をかけようとかそんなつもりはなかった。もちろん、俺と新刻の人付き合いの仕方には温度差はあるだろう。けれど、それでもなんとなく、嫌がられている感じはしなかったのだ。
それに、恋愛とかそういうことではなく、何か他のところで新刻に興味は湧いていた。この時はそれがなんなのか、全く分かってはいない。
「んじゃ行くか」
一週間後提出の進路希望調査票やらなんやらのプリントを配られて、ホームルームは終わった。
「…あたし、ちょっと職員室に寄るから、先に玄関行ってて」
「はーいよ。了解」
そう返事をしてカバンを肩に担いで、入学式の前後に少し話した数人の男友達に挨拶してから教室を出る。部活説明会出ないのかよ、と引き留められはしたが、自分は部活入る気がないから、と断った。
さらに、さっき隣の女子と何話してたんだよ、と聞かれもしたが、ただの挨拶だよ。隣の席だし、別におかしいことじゃねーだろ?と答えておく。まさかもう狙ってんの?という短絡的なバカの思索が飛んできたが、それは舌打ちで無視した。すぐそういうことに結びつける思考には男女問わず吐き気がする。
おそらく自分はその時に、まだ友達にもなっていなかった男友達の大半を失ったけれど、別に良かった。ただ、その態度を取った瞬間に新刻が横をすり抜けていったのだけが少し気になる、って程度だ。だから俺は友達が少ない。
昇降口まで行く間、少しそんな暗い気分を抱えたけど、そんな中部活説明会に向かう生徒数人とすれ違った。その中に同じ中学のやつもいて、自分がもう帰るというのを察したのか「やっぱり篠倉はそうだよな」と言ってくれて少しスッとする。そうだ。クラスにいないだけで、同じ中学の友達はまだいるのだ。
昇降口で下足に切り替えて、外に踏み出す。俺以外にも帰る生徒はそこそこいるようだ。若干オタクっぽく見えるやつもいた。偏見だけど。
あまり露骨に真ん前で待つのも、と思って、昇降口を数メートルだけ離れたところの木の下でスマホを開いた。今日は、っと。と、アプリを開いて注文状況を確認する。
iCanというアプリで、スマホ一つでショップ開設から販売、売買取引、決済まで完了する。「自分にできることをして生きていくために」という名目で、好きなことをしている人間と好きなものが欲しい人間の「センスマッチング」を行うアプリ、というお題目だった。
アクセサリーやハンドメイド、フリマ限定ではなく、絵もあれば、ソフトウェアもあるし、小説や漫画、服も存在している、まさに未完成の感性の見本市。俺は、ここの空気感が好きだった。基本何かが作れなければいられないし、好きなものがければアクセスする価値もない。好きの集合体。
その日の注文は嬉しいことに3件も届いていた。これは帰ったら梱包してもう一回駅前だな、と思う。さらに最近気になっているショップを何件か回ってみる。残念ながら早い者勝ちで買い負けたものもあれば、あまり動いていないところもある。
男なのに気持ち悪いと思われるかもしれないが、脳みそへの刺激として、女性もののアクセサリーや服を見にいくこともある。意外に、これがデザインとかに対していい刺激になることもあるのだ。
「……へぇ」
探っていると、一件面白いショップを見つける。ワンピースやスカート、ブラウスに帽子なんかを扱っている女性向けのショップだった。不思議と、どこかで見たことがあるなぁ、と思った。
その時。
「…なにしてるの」
声がかかった。新刻だった。
なんなら、少し離れたところで携帯をいじりだしたのは、別に無視してもいい、という合図でもあった。こっちが気づかなきゃ、気負いもしないと思った。なんか集中してスマホいじってたから、で言い訳もつく、俺の場合は。
「……おお。新刻さん」
「おお、ってなんですか篠倉さん」
「いや、ちゃんと声かけてくれたから」
「……約束したし、そこまで薄情じゃないし、まだ篠倉さんに好きも嫌いもないし」
「そうか。まあ確かに。じゃ、やたら帰りの生徒が増える前に行こうぜ」
「うん」
そうして、入学初日にして、初めて新刻と二人だけの帰り道が始まった。