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インドの魚が食べたくて #4
(前編までのあらすじ)
25日早朝に東インドのド辺境、ゴブラ農村に着くやいなや、チャイ屋や市場、村のイスラム祭り、お世話になるインド人アリムルさん(アリやん)のお母さんのところなどへ行ったり、奥様ルミちゃんの活け〆牛やベンガル湾の雷魚や小魚ケチキなど数々のベンガル超ローカル魚料理を満喫。そして今日26日の午後、市場の魚をとことん見て回った後、今度はアリやん宅の広大な庭のココナッツで熱波と長旅の疲れを癒す。
熱波にはココナッツ
家に帰ると見知らぬ子どもが4人いた。体をくねらせたり、お互いを冷かしたりしながら僕を凝視している。
「なんや、君らわしを見に来たんか」
「そうです、珍しいから、みんな日本人を初めて見る」
3人はアリやんの親せきで1人がご近所さんだという。みんな英語が達者でひたすら話しかけてくる。どうやら今からココナッツ収獲が始まるから一緒に行こうというのだ。面白そうだ。場所はアリやん家の裏庭。と言っても先が見えないくらい広大だ。
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アリやんが言う。「ここはわたしの曽祖父さんの代から続く場所。もしかしたらもっと前からかもしれないけどそれ以上のことはわかりません。面積はゆうに1エーカー(約4000㎡/約4反)はあって、わたしが子供の頃は米、その裏で野菜やスイカを作るプロ農家でした。でもお父さんの代で終わり。わたしたちはやりません」
アリやんは長男である。上に姉が二人、そして自分、妹、弟の5人兄弟。インドは長男が家業や代々の土地を継ぐもの。これくらいの面積があれば現代でも農業で食っていけるというが、都心でサラリーマン、あるいは海外に出て働く方がはるかに楽に何倍も稼げるのだという。
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そんなわけでアリやんのように他の家も、日本で言うところの休耕あるいは放棄状態の広大な敷地を持ち、男たちはみんな都心や外国で稼いでいるのが現状だ。つまり、インドも一部の広大な敷地を持つ企業的農家は別として大半の個人農家は廃業の一途というわけだ。彼らは都市部のみならず僻地も時間の問題でインフレになるということはよくわかっているのだ。
「庭には昔お爺さんが植えたココナッツが大量に残っています。今では背が高くなりすぎて危ないし、いろいろ管理が大変です。だから今日は収獲職人を呼びました。そうそう、庭にはヘビが多いから気を付けて。日本と逆で殆ど毒を持ってますから。蚊も多いし」
念のため日本から持ってきた虫よけスプレーを全身に吹き付ける。すると子供たちが一瞬不思議そうな表情になり、その直後ゲラゲラと笑い出した。もちろん彼らはなにもつけない。わしはカヨワイ日本人なんじゃい。
庭の真ん中は1mほどくぼんでいて、その淵にヤシの木が無数に連なっている。縫うようにしながら前進。すると200mほど行ったあたりで2人の男性がヤシの実を収拾していた。一人はオレンジの、もう一人はイエローのシャツを着ている。
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「僕たちはインド各地にヤシの木を収穫に行きます。プリー、ブラフマプル、チェンナイも行ったことがある。どこも見た目も味も違うんですよ。その中でウエストベンガルのココナッツは緑や白、赤などいろんな色があって味も最高ですよ。ほら見てて、今から彼が昇っていくから。ささ、離れて」
片手に鉈を持ったイエローくんが英語でそう言い、オレンジくんがおそらくベンガル語で何やら叫んで腰に長いロープを巻き付け、両端に輪っかのある紐でヤシの木を挟み、その輪っかに足を通して、リズミカルに軽々と登っていった。なんと器用なことか。
オレンジくんがいくつかのココナッツをロープで巻き付け、上から何か叫んでからするするとおろし、下で待ち構えていたイエローくんが受け取る。
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そして鉈で器用にココナッツを割ってくれた。中には透明のココナッツジュースがたんまり。生ぬるいが甘くてとろみがあって最高だ。ココナッツは火照った身体を冷ます作用があると聞く。熱波の中でこれほどにありがたいものはない。
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そこにアリやんがやってきた。
「どうですか、もう大きすぎておいしくないでしょ。中の肉も硬いかな」と言って白い果肉をちぎって口に入れ「ふむ、これならなんとか料理に使えるかな」
この後、アリやん、子供たちと共に、ドラムスティックの木を見たり、ニームの葉をどっさりとちぎったりしながら庭を散策。
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ココナッツジュースのおかげか、ようやくお腹が動き出したようだ。実はこちらにきてからまだ大が出でいない。下痢ならぬ便秘なのだ。僕は普段お通じがすこぶるいいのに。
おそらく猛暑過ぎて、どれだけ水分を摂取してもすぐに枯渇してしまうからだと自分でそう読んでいる。
さて僕の身体はどこまで順応できるのか。
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