モスクワ市の契約兵の条件について
「部分」動員から半年以上が経った。
その動員兵の行方は定かでないものの、「ロシア政府が40万人規模の契約兵募集を計画している」という情報が出ている。
そして実際に、最寄り駅で契約兵を募るミニブースを立てている姿を目の当たりにした。
日本のテレビ局でも別の駅の様子が報道されていた模様。
そこで配っていた冊子をもらってきたので、そこに書いてある契約兵の待遇について、紹介したいと思う。
金銭面の待遇
契約署名時の一時金
19万5000ルーブル
「特別軍事作戦」地域へ派遣前
1ヶ月当たりの給金:9万~10万ルーブル
【内訳】
給金:4万~5万ルーブル
モスクワ市長令52-UMによる給金:5万ルーブル
「特別軍事作戦」地域へ派遣後
1ヶ月当たりの給金:21万~34万ルーブル
【内訳】
給金:4万~5万ルーブル
「特別軍事作戦」参加による追加給金:12万~24万ルーブル
モスクワ市長令52-UMによる給金:5万ルーブル
注意書き
上記給金は契約期間、従事地域、連邦もしくは各地域の政令により変わる場合があります。
所感
まず比較として、現在のモスクワの最低賃金および平均賃金は以下のとおりである。
最低賃金:2万4801ルーブル(2023年)
平均賃金(中央値):3万5370ルーブル(2021年)
平均賃金(平均値):11万2768ルーブル(2021年)
上記平均賃金は2021年と戦争とそれに伴うインフレの前に発生しており、平均値はさほど変わらなくとも、中央値は4万ルーブル前後まで上がっているという見方もある。
https://gogov.ru/articles/median-salary
ただいずれにせよ、金銭的な待遇は悪いとは言えない。
一方でこの待遇が自らの命を懸けるに値する額かという点については、大いに疑問が残る。
優遇措置について
子ども、および子どもの学校に関する優遇措置
好きな幼稚園(1歳半以降)および小中学校に待機なし、居住登録なしで入園・入学可能
1日当たり2回の給食・学童保育・サークル活動(年間最大20万ルーブル相当)
高齢(65歳以上)の家族に関する優遇措置
ソーシャルワーカーによる週3回のお手伝い(年間最大50万ルーブル相当)
健康状態に応じた老人ホームへの入居(年間最大100万ルーブル相当)
光熱費に関する優遇措置
年間最大8万ルーブル
近親者に関する優遇措置
優良教育機関での、希望する専門に関する無料学習
追加優遇措置
子ども1人あたり毎月1万8770ルーブル
所感
優遇処置の目的としては、残してきた家族についての心配を減らす効果があるだろう。
また学校に関する優遇などは関心を示す層がいるのでは、と思う。
一方でこれもまた、自らの命を賭すに値するものかどうかは大きな疑問符が付く。
まとめ
この冊子を受け取ったのは数週間前であり、この後ミニブースを見かけたことはない。
一方で電子掲示板などで広告を見かけることは多く、またモスクワ市のサイトのトップページには契約兵の案内が出続けている。
ではその効果があるか、はっきり言って疑問である。
既に開戦から1年が経っている。
ここまであげてきた待遇を魅力的に感じ、自ら戦場に行く層は既に契約兵として前線に行っているのではないだろうか。
また9月に発令された動員令には、軍と結んだ契約は部分動員が継続する限り一部例外を除き認められない、とある。
この動員令では健康上の理由というのが除隊の理由の一つとなっているが、実態としてがんから回復した若い契約兵が契約解除できず、何とか契約解除にこぎつけたものの動員の可能性が残る、というケースも発生している。
ここで述べてきたのは契約兵、いわゆる志願兵についてだが、動員兵についても召集に関する規則が変更され、出頭しない限り大幅な私権制限がなされることになっている。
さまざまな方法で兵力を確保しようとしているロシア。
しかし、いつまでその供給を維持できるかは、大いに疑問である。
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