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特別な街 神戸

私を愛してくれた彼だから、私が愛してた彼だから、今でも大切な彼だから


もう私は彼とお別れして一度も連絡を交わさない。


兵庫出身の彼と出会ったのは、私が浪人を経て無事に大学合格した時。
受験という重荷から解放されたことも相まって、彼のおかげで全ての事が新鮮で白黒の毎日から生活に色が戻った。
長年一緒に過ごして徐々にドキドキから家族みたいな関係性に変わる事すら愛おしかった。
優しくて私には勿体無いほどの彼だった。年上の彼は言い合いになっても折れてくれた。ただ一つの事を除いては。
『将来住むのは神戸、大阪はちがう』彼はよくこう言っていた。
それでは困る。私は将来大阪のおばちゃんになるつもりなのだから。

彼は私を色んな所へ連れて行ってくれた。人生で初めての場所や経験がどんどん増えていく。そして彼はそれと同じくらい神戸に連れて行った。
ハーバーランド、南京町、三宮商店街、六甲山の夜景、異人館、スマスイ、王子動物園、ルミナリエ、IKEA、三宮駅の中の美味しい明石焼きのお店、toothtooth 、西村コーヒー、オムライスのパゴット、私の地元にはない大丸、阪急、冬に綺麗な旧居留地のライトアップ、
写真なんて見なくても一つ一つに生き生きした映像が脳内に流れ出す。

よく並んで老祥記に行ったなあ。


こう言いながら内心はすごく楽しんでいた。
『でも、大阪に住むもんね!!』私がふざけながら言う。
彼も笑っていた。
『いつか神戸が良いって思うようになるよ』
ずっとこの楽しい時間が続くと思っていた。

人生は諸行無常。人も必ず変わる。
彼が院を卒業するのが間近になった時、就職活動を始めた。
社会の一員になろうと変わる彼と、学生期間が長いのを良いことに変わらない私。少しずつ歪みが生じて、気づいた時にはもう修復不可能だった。つまりそういう事だ。
こうして静かに幕が閉じた。

それから失った何かを求めるように、何かに取り憑かれたように新神戸駅にいく。
あぁ懐かしい匂い。プルースト効果を実感する。こちら側は木でいっぱいだけど、向こう側に神戸の街が見えるなあ。
高揚感で胸がいっぱいになる。


この古びた感じが帰ってきたなという安心感を与えてくれる

モザイクに寄った。
あの時工事中だったポートタワーは見事に赤々と輝いていた。
1人で見るにはあまりにも煌びやかすぎた。
神戸の街も私たちの関係性もすっかり変わっていたみたいだ。

私は少しでも彼に触れたくて、でもそうする事はできないから彼の思い出に触れたくて何度も神戸に足を運ぶ。
辛くなった時逃げ出したくなったとき、彼がそうだったのと同じように神戸の街はいつも暖かく迎えてくれる。
神戸がいつの間にか大好きな街になっていた。


『いつか神戸が良いって思うようになるよ』

そうじゃない

貴方との思い出が神戸を好きにさせたんだよ


最近、新神戸駅が新しく生まれ変わる事を知った。
あの昭和が漂う思い出の駅。神戸プリンが好きだと言ったら毎回お土産に持たせてくれたあの駅。
彼との思い出の詰まった駅の景色が変わりゆく。
私はまだ彼との思い出を捨てきれずに前に進めていない。
神戸の街並みも変わる、彼も立派な社会人になろうと変わっていった。
私もいいかげん変わらないとな、、、


私を愛してくれた彼だから、私が愛してた彼だから、今でも大切な彼だから、
最後の私からの精一杯の愛を。もう私は彼とお別れして一度も連絡を交わさない。これからの彼の人生に私が登場しない事が彼の幸せなのだから。




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