賞金ハンター・ブロスナン#2「刺客見参」
俺の名はスティーブ・ブロスナン。宇宙を股にかける賞金稼ぎだ。
今日俺はこのセントラルシティにある屋敷にお呼ばれされた運びだ。ご覧の通り、エントランスはゴシック調のオシャレな内装でシャンデリアもまばゆく輝いている。
なんたって俺がこんな屋敷に呼ばれたかだと?簡単だ。シティ警察の署長直々のご指名で来たのさ。あいにく俺は紳士淑女の皆様が出るようなパーティーと無縁な男だ。よってセレブの美人とお近づきになるようなチャンスも無いわけだ。
代わりに転がっているのは自分の血を目いっぱい浴びた黒服の死体ばかりである。これが何を意味するか諸君ならもうお分かりいただけただろう。
「さて、今日君をここに呼んだのは他でもない」と署長。「この一連の事件の犯人を突き止めてほしいのだ」
周りに転がっている死体はみな袈裟斬りでバッサリと斃されている。ここ最近、シティのマフィアの邸宅をこのように襲撃する事件が頻発しているという。被害者たちは例外なくこのように刃物でやられている。どうやら切り傷を見るに生半可な刃渡りのナイフではないようだ。
「こんな特徴的な傷ならすぐ犯人を突き止められるんじゃねえのか?白昼堂々カタナをプラプラ下げてほっつき歩いている昼行灯に違いねえ。だいいちそういう仕事は専門外だ。探偵でも雇えばいい」
「ところがそう行ってないから君を呼んだんだ。もし犯人を捕まえられたのなら報酬を言い値で出そう」
「フゥム」
確かにこんなあからさまな犯人を簡単に捕まえられるのなら探偵を呼ぶまでもない。しかし実際に捕まらないということは、相当の手練れの犯人に違いない。探偵風情に務まる相手でないことは想像がつく。
「いいだろう。後で資料を持ってきてくれ」
セントラルシティは文字通り銀河貿易の中心を担う超巨大都市だ。一見栄華を極めるこの都市だが何事もすべてピンからキリまである。俺みたいな流れ者は外れにある埃臭いダウンタウンがお似合いなのさ。遠くにそびえ立つ白亜色の超巨大ビル群を眺めながら雑貨屋でタバコと安テキーラを買った。
そういうわけで安ホテルの一室に腰を据えた俺は、渡された資料をテキーラ片手に読んでいた。事件が起きたのは今のところ4ポイント。すると俺は犯行現場にある特徴があることに気が付いた。犯行現場の座標を時系列で辿っていくと……その線はなんと五芒星を描きつつあるのだ!そうすれば自ずと残りの1ポイントが見えてくる。
――
そして夜。俺は事件が起きるであろうマフィアの邸宅の側で奴が来るのを待ち構えていた。腕に取り付けたデバイスには屋敷の防犯システムが映し出されている。さらには念のため、夜営用の小型センサーを塀にこっそり巡らせておいた。これで奴がどこから侵入しようがすぐ分かるはずだ。そいつが普通の犯人ならば。
時計が深夜の2時を過ぎる頃だった。屋敷の方から悲鳴が聞こえてきた。クソ!やはり奴は俺の警戒網を掻い潜ってきたか!
俺が邸宅の中に突入する頃には既にエントランスの床は転がるマフィアの死体と鮮血で彩られていた。そして中央階段の上にはその犯人が立っていた。
黒尽くめのボディスーツに月明かりに照らされるアジア人の黒髪。そして手には血の滴り落ちるサムライソード。
「お前が一連の犯人かニンジャ野郎」俺はホルスターの近くに手を添える。「お前をお縄に掛ければ今日の晩餐は1ポンドステーキとスコッチになるんだ」
「今すぐ立ち去らねば今度は貴様を斬ることになる」アジア人の鋭い目がギラリと光る。
どうやらそう簡単に事は進まないらしい。
BLAM!
俺は先手必勝でホルスターから素早く銃を引き抜き、稲妻のような素早さで男の足を撃った――だが信じられないことに、特殊合金のマグナム弾は空を切り、大理石の階段に突き刺さったのだ!
「トォォーッ!」
奴の姿が突如目の前に現れた!俺は咄嗟にマグナムの銃身で身を庇った。
ガキーン!
カタナとマグナムがぶつかり合い火花が散る。俺のマグナムは特殊合金製ゆえ滅多なことで傷はつかない。だがそれを握る右手が稲妻に打たれたかのように痺れた。
「刺客、キース・龍三郎・マグワイア、見参!」
キースと名乗ったその男は立て続けにカタナを振るった。
ガキーン!ガキーン!ガキーン!
俺は奴の斬撃をマグナムで受け流していく。2メートルとない間合いの中で攻防が続く。カタナの方が有利じゃないかって?そんなことはない。この距離になると銃は確実に相手を仕留められる必殺のナイフに変わるからだ。
BLAM! BLAM!
銃口がやつの方へ向くよう誘導しながら受け流し、後隙を狙って引き金を引く。だが奴もまた巧みに銃口を逸らすようカウンターを入れてゆく。
BLAM! BLAM! BLAM! ガキーン!ガキーン!ガキーン!
リボルバーの中の弾は尽きた!だがこの瞬間、奴は思いもよらぬ隙を晒した!俺はすかさず拳を奴の顎に叩きつけた。クリーンヒット!
「ヌゥーッ!」
奴が怯んでいる隙に俺は距離を取り、ベルトのクイックローダーに手を掛ける。この距離間になれば俺のものだ。俺にリロードを許して生きて帰れたやつはいない。
これから第二ラウンド、両者ともに向き直ろうとしたその時!俺たちに数々のスポットライトが浴びせられた!
「そこまでだ諸君!武器を捨てて投降せよ!」
がなり立てるような拡声器の声が大理石のエントランスに響き渡った。よく見ると声の主はあの警察署長だった!
「てめえ、一体これはどういう――」
「フッフッフ……如何にもこの刺客を雇ったのは私だよ。この街の有力なギャングを一掃させ、君に始末してもらうことで麻薬市場を独占するつもりだったのだがね」
「お喋りが好きなお巡りさんだこった。ならてめえの首を差し出すまでだ」
「やれるものならやってみたまえ。君たちはここで死ぬのだからな。私の話は冥土の土産だと思ってありがたく覚えておくのだな!」
後ろで待ち構えていた闇警官たちが一斉に発砲を始める。俺とキースは第一波を上手く切り抜けた。そっちがその気なら俺もやり返すまでだ。
BLAM! BLAM! BLAM!
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
オレンジの光が瞬き、銀色の光が夜闇の屋敷で閃く。野郎と俺は奇妙なシンクロ感で結びつき、闇警官どもを息もつかせぬまま斃していった。
そして残すはあの食わせ物の署長一人だ。
「お願いだ!助けてくれ!金ならいくらでもやる!見逃してくれ!」
署長は泣き崩れ、俺たち二人に命乞いをする。だがアジア人はツカツカと跪く署長の前へと出ていった。
「ま、待ってくれ!話せば分かる!」
「不義の者に掛ける慈悲なし!」
SLASH!!!
一瞬の間の後、署長の首がゴロリと床に転がり、元あった位置から赤黒い血が大量に吹き出た。このキースという男のやり方に苦笑いをせざるを得なかった。
「おいおい、謎の殺し屋に黒幕の警察署長とかいまどき安雑誌の小説でも流行らねえよ。俺が探偵だったら呆れて家に帰ってるよ」
そうアジア人に言ったつもりで振り返ったのだが、そこには既に奴の姿は無かった。
陽炎のような奴だ。奴の首に賞金が掛からない限り、なるべく敵として会いたくないものだ。
して、俺のステーキ・ディナーはまたいつかのお預けとなってしまった。
(了)
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