超狐イズナライザー #1「イントロダクション」

 山森カズヤは狐の力を宿した正義の味方である。

 父をクトゥルー伯爵に殺された彼は、同じく故郷のフォックス星を追われた玉藻前からフォックス因子を注入されたのである。
 そしてロリ狐娘のイズナライザーに変身し、クトゥルー伯爵率いるアンドロメダ十字軍に復讐の戦いを繰り広げているのであった!

【超狐イズナライザー】

■■

 ここは浅間山地下に作られたアンドロ十字軍の秘密研究所。岩肌がむき出しになった廊下にはパイプが張り巡らされ、コンパネとか計器類とかいっぱい付いている。
 そしてその向こうから……鉄と鉄がぶつかり鎬を削る音が聞こえてくるではないか!

 奥の広間では全身タイツに奇妙な覆面を被った戦闘員が誰かを取り囲んでいる。その中央で対峙するは……われらのイズナライザーではないか!
 この地下研究所に島田教授が誘拐された。その情報を聞きつけ、イズナライザーが潜入したのだ。

 女子小学生くらいの背丈に長い狐耳、平和な時ならば愛らしかったであろう顔は、敵をじっと見据え殺気立っている。
 服装は巫女服に甲冑みたいな赤いプロテクターが付いたような和風ヒーロー然とした姿。
 白金に輝いていたであろう髪と一筋の尻尾は、幾多の戦いを経てくすんでしまっている。 

 広間の両脇にはピコピコ動くコンピューターがあり、奥の壁では大型の換気扇がゴウンゴウンと唸りを上げてゆっくり回っている。
 そしてそのさらに奥から、カミキリムシめいた形相の怪人が出てきた。奴こそがこの秘密基地の総督、ログホナスである!

「グエーッグエッグエ!よくぞここまで来た、イズナライザーよ。だがここが貴様の墓場だ!」

「「キエーッ!」」 ログホナスに檄を飛ばされた戦闘員たちはより一層気合を入れてイズナライザーに襲い掛かる。

「イズナハルバード!」
 イズナセイバーが巻物じみた鉄の塊を掲げると、それが一瞬で伸びてハルバードの形に変形した。その長さ、およそ彼女の1.5倍はあろう長さだ!

「キエーッ!」

 戦闘員の一人が頭上から飛び蹴りを繰り出す!イズナライザーはすかさず長い柄で受け止める!
 たじろぐ戦闘員をそのまま斧めいた矛先で袈裟斬り!

「ギャワワーッ!」
 斬られた戦闘員は破れる紙のように身体が千切れ、ペンキのような緑の体液をまき散らす!

「キエーッ!」
 後ろから戦闘員二人がナイフを持って襲い掛かる!イズナライザーは素早く振り向く。ハルバードを横一文字に掲げて抑え、戦闘員ごと押しのける!
 戦闘員たちはコンピューターに打ち付けられる!

「キエーッ!」
 さらに別の戦闘員たちがビーム拳銃を発砲!
「トォーッ!」
 イズナライザーはハルバードを風車のように回し、光弾を全て跳ね返す!バチバチっ!BOOM!
 流れ弾を受けたコンピュータは火花を散らして爆発、周囲の戦闘員を巻き込んで粉々になった!これで戦闘員は全滅!

 イズナライザーはそのまま矛先をビシッと下げて残心をし、ログホナスに向く。ログホナスの背後には換気扇。
 光が換気扇からレイトレーシングのように漏れ、彼を後光のように照らしている。

「グエーッグエッグエッ!さすがはイズナライザー……だがこの私に勝てるかな?」
「それはどうかな」
「これでもくらえ!殺人ヴェノムガス!」
 ログホナスのカミキリムシめいた口がガバっと開き、そこから紫色の毒ガスが漏れる!
 なんということだ!たとえイズナライザーといえど、この密閉空間で毒ガスを吸えばひとたまりもない!しかし――

「な、効かないだと!?」
 殺人ガスは背後のレイトレーシングめいた換気扇にみるみる吸い込まれてゆくではないか!
 ログホナスは己の耐毒性と密閉空間に慢心を抱き、隙を晒してしまったのだ!
 そこにすかさず稲妻めいた縮地で迫るイズナライザー!

「イズナ・ライトニングスラストォォォ!!」
 ログホナスの腹部が貫かれ、彼は緑液を吐血する!

「貴様の後ろに換気扇があることを忘れたか、節穴め!」
「グッグッグッ……おのれイズナライザー……だがクトゥグア侯爵が貴様を……グアアアアアッ!」
 腹部から頭頂部にかけて真っ二つに切り裂かれたログホナスは切断面からペンキめいた緑液を噴き出し、そのまま火花を散らして爆発した!

 イズナライザーは奥の部屋で幽閉されている島田教授を救い出した。彼は白衣を着た中年男性で、地熱発電の権威として知られている。
「ありがとうイズナライザー……君がいなければ私はどうなってたことか」
 イズナライザーは彼女より背が高い教授の顔を見上げた。
「礼には及びません。私は成すべきを成したまでです」

 島田教授は背の小さいイズナライザーに手を引かれ、施設の廊下を走る。固く乾燥した手でイズナライザーの手を握りしめる。
 なんと小さくみずみずしい手であるか。博士は長らく会っていない愛娘を思い起こした。それでいてイズナライザーの手からは決意に満ちた力が伝わってくる。

「君ほどの年の子がこのような戦いをせねばならぬとは」
 好きでこんな姿になっている訳じゃない、とイズナライザーが言おうとしたその時!

 ブイーン!ブイーン!施設全体に鳴り渡るサイレン!警告灯で廊下が赤く染まる!
『警告、あと5分で施設が自爆します。作業員は直ちに脱出を――』

「いかん!ログホナス総督が死んで自爆装置が作動したんだ!」
「なに!?」
「もし爆発すれば浅間山が……!」
「それはいかん!」
 そう言ってイズナライザーはその小さな身体で教授をひょいと持ち上げた。

「うおっ!?」
 天地がひっくり返ったような感覚に島田教授はたじろぐ。
「自爆装置はどこに?」
「最下層にあるジェネレーター室だ!」

 イズナライザーは教授を抱えたまま踵を返し、最奥部に向かって疾風の如く廊下を走る!
 行き着いた先はエレベーターの乗り口。イズナライザーはつま先を伸ばし、脇のボタンを何度も連打する。しかし反応が無い!

『爆発まであと3分――』
「くそっ!」
 悪態を突くいたいけな少女に目を丸める博士。
「おそらく作業員をはじめから捨て置くつもりだったのだろう」
「ええい、こうなったら!」

 イズナライザーは槍のようなキックで無理やりこじ開ける!
「ジェットコースターは好きですか!?」
「好き好んで乗るほど…うわあああっ!」

 イズナライザーは博士を抱えたまま、暗黒のエレベーター通路を飛び降りる!
「ギエエエエエ!」
 博士の悲鳴が暗黒の天井に木霊する!

 イズナライザーはそのまま最下層で停まったエレベーターの天井に着地!それから博士をいったん下ろす。
「死ぬかと思ったわい……」
「装置を止めなければ我々全員が死にます!」

 そう言いながらエレベーターの中身をこじ開けるイズナライザー。彼らは天井の穴から滑り降り、中のドアを蹴って廊下に出る。案内板を見る限り、どうやらここが最下層らしい。

『爆発まであと2分――』
「この奥だ!」
 博士が廊下の奥を指さす。
 イズナライザーは再び大の大人を抱えて疾走する。そしてとうとうジェネレーター室室に辿り着く。

 厳重なロックだったが、イズナライザーが三発蹴りを加えると、厚い扉が歪んで開いた。すると、そこからとてつもない熱波が吹き荒れる!
「ジェネレーターが臨界点に達そうとしているんだ!」
 彼らは熱波に耐えながら中に入る。イズナライザーはともかく、壮年の博士には堪える暑さだ!

「で、どうやって止めるんです?」
「私がコンパネで停止準備をする!準備が出来たら両脇のレバーを引くんだ!」
 博士は肌を焦がす熱波に耐えながら停止準備を進める。コンパネからピコピコと音と光が鳴る!

『爆発まであと1分――』
「よし、準備ができた!あとはレバーを引くだけだ!」
 イズナライザーは左に、博士は右のレバーに付いた!
「これを引けばいいんですね!?」
「そうだ、これを一緒に……熱っ!」
『爆発まであと30秒――』
 熱されたレバーに触れ、博士は手を反射的に引っ込めた。どうする!?このままでは関東全域が火の海になるぞ!

「ならばこれを!」
 博士はイズナセイバーが投げた布を受け止める。手に取ったのは、彼女のスーツの上着ではないか!
「これを手に巻いて!」
 言われたとおりに、博士は両手に彼女のスーツを巻き付ける。未知の素材でできたイズナライザーのスーツは耐熱性に優れているのだ!
 それでもまだ熱いが、なんとか握れる温度にはなった!

『爆発まで10、9、8――』
 彼らは一斉にレバーを引く!だが熱膨張で隙間が埋まったせいか、かなり固い!
 イズナライザーは余裕だが、死力を尽くして引く博士に合わせねば意味がない!
「博士!」
「ウオーーーッ!」
 博士は鬼のような形相を浮かべ、人生の全てをレバーに乗せる!

『3、2、1……』
 ガコン!

『――停止。自爆装置、停止。自爆装置、停止。』

 糸が切れたように博士がうなだれる。急激な血圧の乱高下で現実感が失われ、ここが死後の世界とさえ思えて来る。
 そこへ茫然自失とした博士に駆け寄るイズナライザー。彼女の平坦な胸はサラシで巻かれていた。
「やりました、博士!」
「い、イズナライザー……」

 二人は施設から出て、山の中腹に辿り着く。
「おお、これは――」
 地平線から真っ赤に燃える朝日が二人の雄姿を称えるようにゆっくりと顔を出す。博士の目から一筋の涙が伝う。

「生きている……私は生きている……」

 博士は手をわななかせ、地面にへたり込む。博士が拉致されていたのは数週間。
 だが、密閉された地下空間と過酷な研究作業は時間感覚を奪い、数年に及んで空を拝んでいなかった気分になっていた。

「あなたがいなければ、浅間山は爆発していた。そしてこの空も、火山灰に覆われて闇に包まれていたことでしょう」
「ありがとう……本当にありがとう……」

 クトゥルー伯爵に殺された父と玉藻前の復讐が終わるまで、彼に安息の時は無い。走れ、イズナライザー!次なる戦いは近い!

【つづく】

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