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【初心者向け】疼痛・掻痒情報処理における脊髄後角介在神経について
最近、ラボ入りたての後輩に「神経回路ってなんかイメージが湧かなくてよくわからない」と言われたので勉強会を開いた。
たしかに、自分も入りたての頃は分かっているようでわかっていなかったと思う。自分が知りたいモヤモヤしている部分は調べても出てこず、たくさん文献を読んでいき段々と点と点が結びついていったような気がする。
特に中枢神経系は複雑である。自分は脊髄後角をメインに研究しているが、まだまだ抜けていることがたくさんある。
と、いうことでいつものごとく、脊髄後角神経について、研究はじめたてあるいは分野外の人が最初に理解しておくべき点についてまとめていきたいと思う。
☆脊髄は解剖学的に10層まで分類されている
まず、さらーっと脊髄「後角」と言っていたが、脊髄は大きく前角と後角に分類できる。我々のような体性感覚を研究している人にとって大切なのは脊髄後角(Spinal dorsal horn)である。なぜなら末梢からの体性感覚情報が入力するからだ。前角には主に運動ニューロンがあるので、脊椎動物にとって脊髄は後角が入力で前角が出力を担っているとイメージすると最初は分かりやすいだろう。
話が脱線したが、1950年代にネコの脊髄の研究を行っていたレクセドによって、脊髄灰白質(=ニューロンなど細胞が密に集まっている部分)は10層まで分類されている。これをレクセドの層と呼ぶ。
脊髄後角はⅠ層-Ⅵ層までとされている。また、Ⅱ層に関してはⅡ層の外側と内側でさらに分類されている。
もちろん層によって局在するニューロンに特徴があるのだが、それはまた徐々に後述していく。
☆脊髄後角ニューロンは大きく二つに分類される
脊髄後角に細胞体が局在するニューロンは、投射(projection)ニューロンと介在(inter)ニューロンの2種類に分けられる。投射ニューロンは脊髄から脳などの上位中枢に軸索を伸ばし情報を伝達するニューロンであり、介在ニューロンは脊髄で情報を受け取り、脊髄の他のニューロンに情報を伝達するニューロンである。今回は介在ニューロンに焦点を絞って説明していく。
脊髄後角は様々な介在ニューロンにより複雑な神経回路が構成されている。投射ニューロンは主にⅠ層に存在しているが、Ⅰ層のニューロンにおける投射ニューロンが占める割合はたったの5%と言われており、残りの95%は介在ニューロンであるためだ。さらにⅡ層には介在ニューロンしか存在しない。
また、隣り合っているニューロンからダブルパッチクランプを行っても接続を確認できるのはたったの10%しかないとも言われている。こうして今では脊髄でのダブルパッチは滅多にやられていない。
たしかに侵害受容器から直接入力をうける投射ニューロンもあるが、介在ニューロンがなければ痛みや痒みの行動が完全には表出しないことが知られている。つまり介在神経回路は非常に複雑であるが、痛みや痒みの情報処理において重要な役割を果たしているため、我々は研究しなければいけないのだ。
☆中枢神経は主に興奮性と抑制性に分類される
ここで、一旦基本に戻る。脊髄に限った話ではないが、中枢神経は主に興奮性と抑制性に分類することが出来る。簡単な話だ。活性化してシナプス終末からグルタミン酸などを放出して他のニューロンを興奮させるニューロンを興奮性ニューロン、GABAなどを放出して他のニューロンを抑制させるニューロンを抑制性ニューロンと呼ぶ。つまり、グルタミン酸作動性(glutamatergic)ニューロンと言われれば狭義の興奮性ニューロンだし、GABA作動性(GABA ergic)ニューロンと言われれば狭義の抑制性ニューロンである。
自分も最初のうちは「グルタミン酸伝達をうけるニューロンがグルタミン酸作動性だっけ?」などとよく混乱していたことを思い出す。
神経回路の考察で我々の頭を毎回悩ますのが、脱抑制という概念である。
例えば、抑制性ニューロンによって活動性が制御されているニューロンがあるとする。そしてその抑制性ニューロンが抑制された場合、活動を制御されていたニューロンが抑制から解かれ活性化する。このことを脱抑制と呼ぶ。
慢性疼痛や慢性掻痒では、抑制性介在ニューロンの機能が低下し脱抑制が起こることで過剰な情報伝達が起こっていることがしばしば示唆されているので覚えておきたい。
☆介在ニューロンの分類法
本題に戻って、脊髄後角介在ニューロンについて説明していく。
ここでは、痛み・痒み情報の多くが入力するⅡ層について説明していく。それらは形態的に大きく4つに分類される。
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a: vertical b: radial c: central d: islet (cell)と呼ばれる。
これらは主に樹状突起の伸ばす方向などによって分類された。
また、これらに分類されないものも約25%存在すると言われている。
ある報告(T J Grudt and E R Perl, J Physiol. 2002)では、Ⅱ層介在ニューロンにおいて、大型のvertical cellは興奮性、全てのradical cellは興奮性、全てのislet cellは抑制性であることが示されている。
また、Ⅱ層のニューロンは電気生理学的に分類されることもある。
主なパターンには、delayed-firing(Aa), transient-firing (initial bursting)(B), tonic-firing (C), single spike (D) などである。
![](https://assets.st-note.com/img/1686372421098-DpREs6IqNM.png?width=1200)
Punnakkalらの報告(Punnakkal P et al., J Physiol. 2014)から考えると、delayed-firingは興奮性介在ニューロン、tonic-firingは抑制性介在ニューロンを示す可能性は比較的高い。しかし、それだけでは興奮性か抑制性かを判断するには根拠に乏しいため、興奮性抑制性を判断するならvGluT2など、マーカーなどで担保を取るべきであると考える。最近の論文は発火パターンのみで分類してしまっているのも見受けられるので違和感がある(個人的見解)。
また、保持電位により発火パターンが変わる場合があるため、発火パターンをテストする際は電位依存性も示すことが推奨される。
☆各層におけるニューロンマーカー
さて、ここまで特にストーリーもなく書き連ねてきたが、要点をまとめると、
末梢の痛みや痒み情報は脊髄後角に入力する
それらの多くは介在ニューロンを介し、やがてⅠ層の投射ニューロンに行き脳へと伝達される
介在ニューロンは興奮性と抑制性のものが混在しており、複雑な神経回路が形成されている
一次求心性線維の種類によって入力する層も変わってくるが、それは様々な文献でもまとめられているのでそちらを参考にして頂きたい。ここでは、各層におけるニューロンマーカーについて話そうと思う。
脊髄後角の神経回路の論文で、各層のニューロンマーカーを用いた免染は不可欠であり、当たり前のように出てくる。なぜなら層によっても神経回路の特徴が分かれるからだ。そしてそれは上記のように入力する神経も特徴があるため、容易に想像できるだろう。
まず覚えなければいけないのが、neurokini1(NK1)陽性ニューロンであろう。Ⅰ層の投射ニューロンの80%以上はNK1陽性であるため、Ⅰ層あるいは投射ニューロンマーカーとして用いられる。
続いてはcalcitonin-gene-related peptide(CGRP)陽性ニューロンであろう。これはⅠ層からⅡ層outerのマーカーとしてよく用いられる。
続いてはisolectin B4(IB4)陽性ニューロンであろう。これはⅡ層outer-innerのマーカーとしてよく用いられる。
最後にPKCγ陽性ニューロン。これはⅡ層innerのマーカーとして用いられる。
ここまで、Ⅱ層を外側と内側に分けて説明してきたが、初心者はきっとここが突っかかるところであろう。しかし、この分類は非常に重要である。末梢からの痛みや特に痒み情報はC線維を介し、Ⅰ層またはⅡ層outerに入力するが、Ⅽ線維はⅡ層innerにも入力する。しかし、この層における機能的な役割は未だ不明な点が多い。
☆おまけ
実は、これら脊髄後角神経回路は、脳からの下行性制御も受けている。特に抑制面での影響が大きく、慢性疼痛や慢性掻痒のメカニズムの一つにこれら下行性抑制の機能が低下することもよく示唆されている。想像しているよりもこの抑制力は強く、スライスパッチクランプによる後角ニューロンの興奮/抑制バランスはほぼ同等であるが、in vivoパッチクランプではかなり抑制に傾くことからも、下行性制御が重要な役割を果たしていることが分かる。
☆終わりに
最初に理解しておくべき点と言っておきながら4000字弱も書いてしまいました。笑
もっと書きたいことは山ほどありますが、最初はこんなもんでいいかと思います。個人的には痒いところに手を届かせたつもりですので。
ところどころ個人的な見解も含んでいるので、あくまでも参考程度にしてもらえればと思います。
何か質問等あればコメントまで。
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