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かゆみ学#14 ~βアラニンフラッシュ~
最近、私のラボでは「筋トレ男子」が急増しています。
事の発端は昨年、ラボに筋肉隆々の学生が新しく入ってきたんですね。その子はボディビルの大会に出るほどのガチ勢で、かつコミュ力も高いのですが。。。
以来、触発されたのか知らないですがいつの間にか筋トレブームが到来していました。そのせいで最近非常にラボが暑苦しいです。
そんなことはどうでもいいのですが笑、彼らが話しているのがふと耳に入ってきました。
弟子G「ゴニョゴニョ、あのサプリ飲んだらすごい全身かゆくなってきてん」
筋肉隆々I「あぁそれβアラニンフラッシュですね」
筋トレなぞ微塵も興味ない私ですが、気になってしまいました。
βアラニンフラッシュみなさんはご存じですか?
どうやら筋トレのための人気サプリメントであるβアラニンを摂取した際に皮膚に生じるかゆみやピリピリ感のことを指す様です。要するに副作用です。
筋肉隆々I「まぁでも健康には問題ないんで大丈夫です」
しかし私はもう気が気でありません。全身にかゆみが生じても健康に問題ない?ホントか?と。調べてみようと思ったのですが、そんなアミノ酸とかゆみの報告なんてあったか?ないだろうなと半ば冗談のつもりで論文を検索しました。
ありました。しかもそこそこいいジャーナル。自分もまだまだ勉強が足りないですね。ありがとう、後輩Iよ。
と、いうことで、前置きが長くなりましたが、今回はβアラニンがかゆみを引き起こすメカニズムを最初に報告した論文を解説したいと思います!
Liu Q, Sikand P, Ma C, Tang Z, Han L, Li Z, Sun S, LaMotte RH, Dong X. Mechanisms of itch evoked by β-alanine.
J Neurosci. 2012 Oct 17;32(42):14532-7.
研究背景
もともと、βアラニンはヒトおよびげっ歯類のMrgprD受容体に結合し、細胞を活性化させることが知られていました。
また、かゆみを感じるということは、皮膚から脊髄に情報を伝達する神経が活性化するということですが、MrgprD受容体はその神経に局在していることが知られています。(以下その神経をMrgprD+ DRGニューロンと呼ぶ)
つまり、本研究ではβアラニンがMrgprD+ DRGニューロンを活性化させることで、かゆみを発生させていることを検証しました。
結果
1. MrgprDはβアラニン誘発性のかゆみを媒介する
まず著者らは、MrgprD+ DRGニューロンがβアラニンによるかゆみに関与するかを調べるために、MrgprDを欠損させたマウス(KOマウス)を用いて検証しました。
通常のマウスにβアラニンを皮膚に注入すると、引っ掻き行動が見られますが、KOマウスに注入すると引っ掻き行動が減少しました。また、皮膚注入ではなく経口摂取でも同様の結果が得られました。
2. βアラニンはMrgprD+ DRGニューロンを活性化させる
次に検証すべきは、βアラニンが直接MrgprD受容体に結合することで、MrgprD+ DRGニューロンが活性化しているかどうかです。
そこで著者らはマウスのDRGニューロンを単離し、シャーレ上に培養することで検証しました。
培養DRGニューロンにβアラニンをふっかけると、通常マウスの培養DRGニューロンは活性化し(Caイメージング、パッチクランプ)、KOマウスの培養DRGニューロンでは活性化が見られませんでした。
以上が論文の主な概要です。意外とちゃんと研究されていて驚きました笑
βアラニンが慢性掻痒病態に関連しているか、または慢性掻痒患者がβアラニンを摂取するとどうなるのかは未だ検証されていません。
しかし、MrgprD+ DRGニューロンを標的にした新しい鎮痒薬が開発される可能性はあります。もし開発されれば、βアラニンフラッシュから人類の健康増進に繋がったことになりますのでそれはそれで面白いですよね笑
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