【医療データとAI】③ 外来で質問に「ある程度」答えられるように<1>「DisneyにFAST PASSがなければ?」
先日
昨日は次世代医療基盤法で患者さんデータの提供がオプトアウトになって、医療機関に働く医師が好むと好まざるに関わらず患者さんから「データ提供について詳しく話を聞かせて下さい」という質問が来る可能性が上がって来るのである程度の理解が必要だと書かせていただきました。
目的は「次世代医療基盤法の是非を議論すること」ではありません
政策や法律というのは生き物のようなもので時代や国家目標、業界からの要請など様々な要素の組み合わせで決まっていきますので、議論をどれだけ尽くしても100%の賛成というのはありえないのです。
そこで「全国民を代表」する民選議員議士(=代わりに議論を行う人)を国民が選挙で選ぶようになっているわけです。
もちろん選挙制度も比例代表など直接選べないような仕組みの存在・一票の格差などの議論はあります。パーティー券や政治献金などの問題が2023年末にはありましたがそういった業界や一部の団体のためにということも存在するのかもしれません。
しかし、そういったことは日常臨床の外来の場では正直解決できないので、まずは一旦受け入れて現実的な対応を行う必要があるので、まずは存在してしまったものの現実対応という視点での投稿であることをご理解下さい。
目的は「自分が患者さんに説明できるようになること」
ここでの目標は実臨床の忙しい外来の中で患者さんに事前説明できるようなレベルの理解を「自分が頭の中でイメージを持てるように、自分なりに噛み砕いてみた解説」を独り言のように書いているものを みなさんがOPT-IN(ご自身で選択)をして読んでいただいているという建付けをしておりますので。「反対だ!」という方はOPT-OUTしていただくようにお願いします。(*加えて間違った所もあるかもしれませんがお許し頂き、教えていただけると幸いです)
一問一答方式で
(患者さんからの質問頻度高そう<高>、質問頻度低そう<低>と頭に書いています。)
<低>「次世代医療基盤法の正式名称は?」
「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」というものです。これは覚えられませんよね。
でもこの正式名称を見れば
・医療分野の研究に役立てるため
・医療分野の開発に役立てるため
・医療情報の匿名加工に関するルールを決めるため
の法律であることがなんとなく理解できますね?
<高>「医療分野の研究や開発と医療情報に何の関係が?」
・新しい治療法や薬の開発を進める
・(既存の)医療の質や効率を向上させる
・健康長寿社会の実現に貢献する
こういった目的のためには、多くの患者さんの情報を分析したり。それらの情報の傾向や課題を把握する必要があります。しかし、個人情報保護の観点から、患者さんの個人情報をそのまま利用することはできません。そこで、次世代基盤法では、匿名加工医療情報を活用することで上記のような目的を達成しようとしています。
<高>「今までも企業や大学はすでに個人情報を使って研究しているじゃないですか?今更どうして新しい法律が必要なんですか?」
今までも企業や大学は個人情報を使って研究を行ってきましたが、次世代医療基盤法が必要となった背景には、以下の2つの理由があります。
医療情報の利活用に関する規制の整備
これまで、医療情報の利活用は、「個人情報保護法」に基づいて行われていました。しかし、個人情報保護法は、個人の権利利益を保護することを目的としており、医療情報の利活用を制限する側面もありました。そのため、医療情報の利活用を促進するためには、個人の権利利益を保護しながら、医療情報の利活用を可能にする新たな法律が必要となりました。それが次世代医療基盤法なんです。
医療情報の利活用による効果の期待
前の質問の回答と重複するところがありますが医療情報の利活用により、以下のような効果が期待されています。
新薬や医療機器の開発
医療の効率化・高度化
医療の質の向上
これらの効果を実現するためには、大規模な医療情報の利活用が必要となります。しかし、「個人情報保護法」に基づく医療情報の利活用では、個人の同意を得ることが必要であり、大規模な医療情報の利活用は困難でした。「次世代医療基盤法」では、本人がOPTOUTしない限り、匿名加工医療情報の提供が可能となるため、大規模な医療情報の利活用が可能となります。
このような理由から、次世代医療基盤法が必要となったというイメージを持ちました。
<高>「個人情報保護法と次世代医療基盤法の同意方法は違うの?」
令和3年個人情報保護法改正まで
学術研究機関等による学術研究目的の場合も個人情報保護法が適用除外されていたのです。個人情報保護委員会の勧告・命令等の権限行使についても、学問の自由を妨げてはならず、民間事業者が学術研究機関等に個人情報を提供する際も、個人情報保護委員会の権限は行使しないとされていました。つまり、個人情報保護法改正までは「研究がしやすかった」と言い換えてもよいかもしれません。
しかし
EUと日本との間で個人情報の授受に支障の恐れ
EU(欧州連合)では、個人情報保護に関する法律として、GDPR(一般データ保護規則)が制定されています。GDPRは、個人情報の保護を強化する内容を定めており、EU域外からEU域内への個人情報の移転には、一定の条件を満たす必要があります。当院で使っている予約サービスにもGDPRとあったのを思い出しました
日本は、<一般には>GDPRの十分性認定を受けています。これは、日本がGDPRと同等の水準で個人情報を保護していると認められたことにより、EU域外から日本への個人情報の移転が自由にできるというものです。しかし、日本の個人情報保護法には、<学術研究機関等が学術研究目的で個人情報を取り扱う場合を一律に各種義務の適用除外とする規定>があります。
このため、EU圏から学術研究機関等に対して個人データが移転される場合、GDPRの十分性認定の効力が及ばず、個人情報の移転が制限される恐れがありました。
<参考>https://www.miyauchi-law.com/f/170828iryobigdata.pdf
そこで、法改正が行われました
令和3年に個人情報保護法が改正されました。改正により、学術研究に係る適用除外規定は、一律の適用除外ではなく、義務ごとの例外規定として精緻化されました。これにより、学術研究目的で個人情報を取り扱う場合にあっても、GDPRの十分性認定の効力が及ぶようになりました。
オプトインの必要性
改正個人情報保護法では、医療情報の多くは「要配慮個人情報」とされ、医療機関外に持ち出す場合には、目的を明確にして患者の本人同意(オプトイン)を得ることが必要になりました。研究などで匿名加工した大量の医療情報を収集して分析するといった、医療情報の利活用のハードルがより高くなったのです。
次世代医療基盤法
この改正は、個人の権利利益の保護につながる一方、病歴が要配慮個人情報に指定されたことにより、医療分野におけるデータの活用に歯止めがかかることが懸念されました。
日本では、ビッグデータの活用や医療分野におけるICT化が重要な政策課題として受け止められており、医療分野におけるデータを活用した研究開発等に対する需要が大きくなっている。
このような経緯から、医療分野におけるデータの取扱いについて、特別法を設置することへの要請が高まり、次世代医療基盤法の制定につながったとのことです。個々で丁寧な説明を要するながらもオプトアウトが認められたのです
医療情報の利活用に当たり、改正個人情報保護法が「ブレーキ」に例えられるのに対し、次世代医療基盤法は「アクセル」に例えられます。
つまりは
・もともと(改正前の)個人情報保護法下は研究がしやすかった
・GDPRのために合わせるため(改正後の)個人上保護法が厳しくなった
ため研究がしにくくなった
・日本の目標に合わせるため、研究をしやすくするためもあり特別法として次世代医療基盤法が制定された
<低>「次世代医療基盤法のような特別法は恣意的では?」
法律には
・一般法
・特別法
があります。
一般法とは、広く一般的な適用効力をもつ法律のことです。例えば、民法や刑法は、日本国内のすべての人に適用される一般法です。
特別法とは、一般法に優先して適用される、特定の人、場所、事柄、行為などに限って適用される法律のことです。
特別法が出来た場合には一般法に優先して効力を持つのです。かっこよく言うと、後法優先の原則により、特別法が優先して適用されます
これは自分がイメージしやすいように勝手なイメージですが
ディスニーランドに行ったときにFAST PASS(特別法)を持っている人はあとから来てもら先に並んでいるFAST PASSなしの列(一般法)の方より先に入れますよね?これは恣意的に見えてしまいます。
しかし、暴動は起きないですよね?なぜでしょうか?
もしも、どんな事があれ順番に並んでいたくルールだけが適応になった場合には(一般法)、皆さん1日ではほとんど好きなものは回りきれません。
FAST PASS(特別法)があることで他の列にも擬似的に並んでいることができるので多くのものを楽しめるのです。つまりこのシステムが有ることで多くの人のメリットになるわけです。
特別法は、特定の人、場所、事柄、行為などに限って適用されるため、一般法よりも適用範囲が狭く、適用対象が限定されます。そのため、特別法の適用対象となるかどうかが、個々の事例によって判断され、その判断が恣意的に行われる可能性があると疑われることがあります。
しかし、DISNEYのFASTPASS全体のためになっているように、次世代医療基盤法も長期的・マクロ的・全体の利益という視点で考えた際にメリットが大きいと考えられているのだと思います。
そういった意味で DISNEYの暴動が起きないよう合意形成がされているように、国民に説明をすることは必要ですね。実際に内閣府などはそういった活動をされています。これをみれば長期的・マクロ的・全体の利益という視点があるのがわかります。
<低>「特別法は多いの?」
特別法と一般法の数の比率は、時代や社会情勢によって変動します。
戦後間もない頃は、経済復興や社会保障の整備など、新たな制度や政策を導入するために、多くの特別法が制定されました。その結果、特別法の数は一般法の数を上回る時期もありました。しかし、近年は、特別法の乱立や、特別法による一般法の骨抜き化が問題視されるようになり、特別法の制定には慎重な姿勢が求められるようになっています。
2023年12月現在、日本国憲法の下で制定された法律のうち、特別法の割合は約20%程度とされています。これは、戦後間もない頃と比べると、特別法の数は減少傾向にあると言えます。
しかし、依然として、特別法の数は一般法の数を上回る分野もあります。例えば、経済分野では、税制や産業政策、競争政策などに関する特別法が多数制定されています。また、社会保障分野では、年金制度や医療制度、福祉制度などに関する特別法が多数制定されています。
これらの分野では、特別法によって、一般法では対応できない複雑な課題やニーズに対応してきた経緯があります。しかし、特別法の乱立や、特別法による一般法の骨抜き化が問題視されるようになり、これらの分野でも、特別法の見直しや廃止が検討されるようになってきています。
やはり、恣意的・一般法の骨抜きという視点は課題なので、その社会的監視の中で次世代医療基盤法のも作られているんでしょうね。
今日はここまで
しばらくはこうやって一問一答で患者さんの質問に答えられるようなイメージを伝えていきたいと思います。
今回感じたのは法律や国家運営を考える人はいろんなバランスを考えながら法律や政策という言葉で国を動かしているのに驚きましたね。
シリーズ【医療データとAI】について
先生方とともに自分も学習したいので新しいシリーズ【医療データとAI】を開始しました。私にとっても未知の分野で認識の誤りなどもあるかと思いますがお許しください。
そしてNYAUWのブログの目的は難しいことが理解できない自分自身が学習の過程で掴んだイメージを皆さんにもお伝えすることですので
・卑近すぎる例 失礼に見える表現
・プロから見るとそうでないこともある
などがあるかもしれません。
しかし、できるだけイメージをつかみやすいように、内容を難しくしすぎないようにを心がけていきます。受験勉強の語呂合わせのようにイメージやストーリーを伝わりやすくするためにという悪意の無い目的ですのでお許し下さい。
AIという誰も経験したことのない分野と医療のクロス分野では倫理や哲学もまだ統一されたものもないため議論が世界中で多方面にこれから行われることになると思います。
そういった中で私個人が考える長期的なマクロの医療という視点でこのブログを書いてまいりたいと思います。ミクロな意味・短期的な意味では「不適切だ」か「反対」と思われる方もおられると思います。
・これはあくまで個人としての見解のブログであること
・世間的な未来予想に則ったもので、他の方の考えを否定するものではありません。
その点をご理解下さい。
今後はこの分野【医療とAI】のプロフェッショナルな方々に教えていただきたいので「教えてやるよ!」、または、まだまだ知らないので「一緒に勉強したい」という方まで連絡お待ちしております。
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