【医療データとAI】⑧外来で質問に「ある程度」答えられるように<5>「努力が足りない?」
再び私の役割
この【医療データとAI】シリーズは医療データやAIの最先端を追いかけることではありません。
そういったことはひとまず一部の最先端研究を行っている先生に日本や世界を引っ張って行ってもらいましょう。
私の役割は、次世代医療基盤法についての背景などの自分なりのイメージや理解を皆さんにお伝えして、先生方が外来で患者さんとコミュニケーションする際に役立ててもらおうということです。
なぜ私がその役割を?正直、全く詳しくないからです。
詳しい方にとっては当たり前過ぎで「どこが分からないかが分からない」状況なのです。
私にとっては正直「何も知らなかった」といっても良い状況ですので「分からないことが分かる伸びしろのある男」なのです。そういったことで良いモデルだと思います。
先日までは一問一答方式で<1><2><3><4>を書きましたが、その続きを書いていきます。今回からは普通の記事の形態で書いています
次世代医療基盤法はデータを「集めて」「つなぐ」
先日の記事を簡単に要約すると
・次世代医療基盤法にはデータを「集めて」「つなぐ」を加速させたいという思いがあると書きました。
集めること自体はこれまでも様々な先生が自分のデータを使って論文を書いたり学会発表をしてきたわけです。それが施設ごとの特徴として認識され「ZZの疾患だったらAA病院に紹介しよう」という宣伝効果もあったわけです。そうやって多忙な中、診療と研究に従事しておられる先生方もたくさんおられるのには頭が下がります。
しかし、私のような倫理委員会を有していない小さなクリニックやそもそもそういったことが苦手な先生だとTPPI問題が発生します
Theoretically Possible BUT Practically Impossible(TPPI)問題です
もちろん理屈上は倫理委員会に依頼してデータを集めたり研究をして論文を書くことも出来ますが、実際には物理的・心理的ハードルを感じて不可能なんです。ミクロとして個々の先生の努力としては出来ても、マクロとして多くの先生にそれを期待することは出来ないのです。
努力が足りないというのは簡単ですが、努力をする際には「努力のエネルギーとその先にある成果の期待値のバランスの中で考えて自身のリソース配分を行う」わけです。
とくに、2024年4月から始まる「医師の働き方改革」によって、人手不足がさらに加速され、残業がどんどん出来なくなる中、正直論文の執筆数や研究数が増えるとは考えにくいのでは無いでしょうか?
もちろん長期的にはAIなどのHELPでデータ解析や論文の文章作成・翻訳が容易になりまた盛り返すとは思いますが、それも特定の先生が数多く研究・執筆を行うという未来のような気もします。
しかし、いずれにせよ自施設のデータを用いた研究という形では次世代医療基盤法の意図するデータを「集めて」「つなぐ」の「つなぐ」にはなっていません。特に「つなぐ」というのはデータの名寄せや公的DBとの参照などを行えるのは認定業者のみだからです。
つまりそのためにも認定業者がハブになっていただく必要があるのです
医療データの利活用を医師に依存しない
医師の先生方は専門医の取得時に論文の執筆が条件になっていることが多いかと思います。しかし、その後論文を継続して書いている先生は多くはないと思います。
・倫理委員会
・データ収集
・データ匿名化
・データ解析
・執筆
・査読
・リバイス
などのステップを考えると
体制の整った施設などからの論文発信が主になっていると思います。大学や教育機関など論文を書くインセンティブがある人が多くいる施設などがメインになってくると思います。
先日の記事でも書きましたが、大病院や教育病院は紹介患者さんが多い時点で本当のリアルワールドの疾患レベルや分布とはかけ離れている可能性もあります。そうなると一般的な施設からのデータ発表というのも期待されますが、残念ながら上記に挙げたステップが問題になり発表が少ないのです
医療データの重要性が増している中、データ解析や発表を従来通り医師のみに依存しているとデータのスタックが起こってしまいます。
現実を見てデータ量の増大に対して多くの医師がそれに対応して解析や発表をできるとは思えません。
ですので、得意な人・インセンティブがある人に素早く対応してもらって医療にFEEDBACKをしてもらうことのほうが日本や世界の患者さんのためには意味が大きいと思うのです。
データフローが良くなりそう?
あくまで私のイメージですが次世代医療基盤法は
・データフローを良くする(ことでデータを集める)
・データに意味付けを行う(繋げる)
と言い換えることがで切るのではないでしょうか?
しかし、少ないデータを「繋げて」も意味がないので、やはりデータが「集まる」かことがまずは大切かなと個人的には思います。
以下の文章の目的は、個人情報保護法の特別法である次世代医療基盤法によって、自施設ではなかなかデータを解析したり論文を書いたりしない医療機関からデータが認定事業者に渡しやすくなっているのか?という視点で見てみました。
医療機関の負担<同意取得>
個人情報保護法下での要配慮個人情報を第三者に提供するに当たっては、学術研究等を除いては、オプトイン(あらかじめ本人が同意すること)によらなければならず、オプトアウト(本人が停止を求めないこと)によることができない。
しかし、次世代医療基盤法下では情報提供では一定の要件を満たすオプトアウトにより、
①医療機関等から認定事業者へ要配慮個人情報である医療情報を提供することができる
②認定事業者から利活用者へ匿名加工医療情報を提供することができるものとされた。
この同意取得の方法はデータフローを良くするためのものとは見えないでしょうか?
臓器提供における意思表示にOPTINとOPTOUTがあり、いずれの方式をデフォルトにしているかで臓器提供の比率にどれくらいの差があるかを見たグラフが印象的ですよね?これはどちらかの是非を問うものではありません。しかし、こうすることでデータのフローが良くなるという結果が出ているということです。
Johnson, E. J., & Goldstein, D. (2003). Do Defaults Save Lives? Science, 302(5649), 1338–1339.
医療機関の義務<匿名化加工>
個人情報保護法下では
・医療機関に匿名加工の責任が残る
・個別医療機関単位の匿名加工が必要
・また委託するにも適切な匿名加工能力を有する事業者の判断が困難
こんな状況で要配慮個人情報を第三者に提供しようと思うでしょうか?
しかし、次世代医療基盤法では
・認定事業者が匿名加工の責任を負う
・多数の医療機関の情報を収集可能
・国が適切な匿名加工の能力を有する事業者を認定
これで医療機関の物理的・心理的・手続き的なハードルを下げてきているようには見えませんか?
この匿名化の責任移譲はデータフローを良くするためのものとは見えないでしょうか?
医療機関の負担<倫理委員会>
研究やデータ解析となった際に医師の頭に本能的に浮かんでくるのは「倫理委員会」という言葉です。STUDYのタイプによっても求められるものも異なりますがとりあえずそれが思い出されて「ため息」なのです。
以前倫理委員会についても書いておりますー
以下のPDFにも記載があるように
「認定事業者による医療情報の取得、加工、匿名加工医療情報の提供の一連のプロセスは、法に基づくもので必要な手続がとられているため、医療機関等が医療情報を提供する際、認定事業者が医療情報を収集する際、認定事業者が匿名加工医療情報を提供する際、及び利活用者が匿名加工医療情報を利活用する際に指針※で求められている倫理審査委員会の承認等の手続は不要。」
この倫理委員会が不要というのははデータフローを良くするためのものとは見えないでしょうか?
楽になったからデータが増える?
これらの3つの要素からでもかなりハードルが低くなっており、データフローが良くなりそうですね?いえそれだけでよくなるかな?という思いもあります。これまでデータ解析をしてこなかった医療機関が積極的にデータ提供をしてくれる?
・世の中のためになる
・何か得になる
・他の人よりも損をしたくない
・周りがしている
・強制力がある
・実際に役立つことがわかってきた
はじめは世の中のためになるとか得になるからというインセンティブのある少数の医療機関が参加してくれて、MAJORITYが参加するのはあくまで他人や他施設との比較だったり、強制力があるとか かなり時間がたって医療にFEEDBACKが還元されてからという消極的な理由からなのかもしれないなーなどと考えています。しかし、まずは少数の医療機関の方々に納得してもらう形で提供してもらうことから目指すしかないのです。
今日はここまで
シリーズ【医療データとAI】について
先生方とともに自分も学習したいので新しいシリーズ【医療データとAI】を開始しました。私にとっても未知の分野で認識の誤りなどもあるかと思いますがお許しください。
そしてNYAUWのブログの目的は難しいことが理解できない自分自身が学習の過程で掴んだイメージを皆さんにもお伝えすることですので
・卑近すぎる例 失礼に見える表現
・プロから見るとそうでないこともある
などがあるかもしれません。
しかし、できるだけイメージをつかみやすいように、内容を難しくしすぎないようにを心がけていきます。受験勉強の語呂合わせのようにイメージやストーリーを伝わりやすくするためにという悪意の無い目的ですのでお許し下さい。
AIという誰も経験したことのない分野と医療のクロス分野では倫理や哲学もまだ統一されたものもないため議論が世界中で多方面にこれから行われることになると思います。
そういった中で私個人が考える長期的なマクロの医療という視点でこのブログを書いてまいりたいと思います。ミクロな意味・短期的な意味では「不適切だ」か「反対」と思われる方もおられると思います。
・これはあくまで個人としての見解のブログであること
・世間的な未来予想に則ったもので、他の方の考えを否定するものではありません。
その点をご理解下さい。
今後はこの分野【医療とAI】のプロフェッショナルな方々に教えていただきたいので「教えてやるよ!」、または、まだまだ知らないので「一緒に勉強したい」という方まで連絡お待ちしております。
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