ミレニアル世代のバーキン〜「1500円のユニクロバッグが世界一話題になった」という異例の大事件が示すこれからのファッション〜
あなたは、2023年1〜3月に世界で最も検索されたファッションアイテムが何か分かりますか?
ヒント①: それはバッグです。
ヒント②: それは日本ブランドのバッグです。
答えは、ユニクロのラウンドミニショルダーバッグ(税込1500円!)!
実はこれ、結構すごい事件です。
それも、ファッション史上初!のレベルです。
たった1500円の誰でも買えるバッグが、21世紀のイットバッグの座に躍り出たと言う大事件
前述したように、ユニクロのバッグが、2023年1〜3月に世界で1番検索されたファッションアイテム*になった。
(※天下のLVMHグループも投資する、ファッションEC検索サイト「リスト(Lyst)」が発表した。参照:『The Lyst Index』)
1500円と言う値段*は、これまでにThe Lyst Indexのランキングに入ったプロダクトの中で最安値だと言う。
(※日本での販売価格は、税込み1500円だが、海外では約2500円〜3000円程。)
ちなみに、第2位、第3位はそれぞれ、『リック・オーウェンズ』の「クリースター・サングラス(約90,000円)」、『スキムス』の「スカルプトボディスーツ(約8000円)」。
前回の第1位は、サンローランの「イカール(約61万円)」。
ベラ・ハディッドなど多数の海外セレブが身に付けたことで人気に火がついた。
さらに、その前の第1位は、ミュウミュウのバレエシューズ(約13万円)。
こちらも、海外セレブによる着用が人気のきっかけ。
ちなみに、2022年第2四半期まではメンズ、ウィメンズでランキングが分かれており、ディーゼルのバッグ(約8万円)がウィメンズの第1位。Lystは、この人気の理由をプロモーションによる成功だと分析している。
過去のランキングを見てもわかるように、誰でも購入できてしまう庶民的なアイテムがリスト入りするのは、異例の事件である。
しかも、たくさんの人がお金をかけたがる傾向にあるバッグのカテゴリーで!
つまり、とっても庶民的なバッグが、”It Bag(イット・バッグ)”の仲間入りを果たしちゃったと言う大事件だ。
1つ補足すると、Lystのランキングは実際に購入された数やその売り上げ金額に基づいたものではない。前述したように「検索数」、つまりファッションプロダクトの「人気度・注目度、さらには、憧れ度」によるランキングだ。
だから、このランキングは「金額による実際の購入可能性」と言うファクターを最大限に無視することができ、100万円前後のある程度高額なファッションプロダクトも毎年のようにランクインする理由になっている。
「ミレニアル・バーキン」〜今、ミレニアル世代が1番欲しい”It Bag(イット・バッグ)”〜
目立つブランドロゴもなければ、なかなか手に入らない数量限定品でもないユニクロのラウンドミニショルダーバッグが、世界一の座に就くほどバズったきっかけはこちらのTikTok動画。
「なにこれ!見た目はとってもコンパクトなのに、めちゃめちゃ入る!!」
と、その収納力が話題になり、ヨーロッパを中心に世界中でバズると、全世界のミレニアル世代が#Uniqlobagの ハッシュタグをつけて同じような動画を投稿した。
その後もバズり続け、「ミレニアル世代のバーキン」という異名までつけられた。
ここまで話題になった理由の1つは、「①スマートな見た目に反した驚くべき収納力」である事は間違いない。イギリスのガーディアン紙は、その魔法のような収納力から、ネット上で「メリー・ポピンズの旅行カバン」と言うあだ名で呼ばれていると報じている。ナイロンという、軽くて丈夫な素材により、たくさんものを入れても重くなりすぎないのも、多くの人がはまった魅力の1つかもしれない。
他にも、「②ハンズフリーで歩ける事」も人気に火がついた理由の1つだろう。多くの人にとって、外出時に荷物で手が塞がらず、両手が空くのはとても魅力的。外で歩きながら身軽に電話をしたり、ササっとテキストを打ったりできることに、ミレニアル世代が魅力を感じるのは説明するまでもない。
もう一つ考えられる理由として、「③求められるラグジュアリーの変化」がある。数年間続いたコロナパンデミックにより、世界中で貧富の格差が広がったと多くの経済学者が分析した。
そんな社会情勢も背景に、「見せない控えめなラグジュアリー」というニーズが高まってきている。
「見せびらかす高級品」から「わかりやすく主張しない本物の上質」への価値観のシフト
#quietluxury (クワイエット・ラグジュアリー)。
ファッションに敏感な方なら、聞いたことがあるかもしれない。
直訳すると、「静かな高級品」。つまり、主張しない控えめなラグジュアリー。
2022年位からじわじわと支持され、今季の2023年春夏には絶対に外せない一大トレンドとして重要視されている。
クワイエットラグジュアリーが重視するのは、「実用性」と「品質」。
「価格やステータスではなく、品質」で選ばれたファッションスタイルのことだ。
代表格として挙げられるのが、ロゴマークのないハイブランドの高級品。
という余裕とプライドのある上品で毅然とした態度への共感が、その流行の背景にある。
その裏には、「本当の贅沢を知っている優越感」も隠れている。本物の高級品に日常的に触れ、確かな目を養っていれば、わかりやすいロゴマークの主張がなくてもわかる。
わかる人にはわかる、と言う普段から良いものに触れている人だけが共有できる優越感、プライド、自尊心も隠れているが、それがむしろ大衆の憧れを獲得し、一大トレンドまで上り詰めた。
逆に言えば、良いものなら、ハイブランドにこだわる必要はないし、必ずしも値段が高い必要も無い。
クワイエット・ラグジュアリーの流行を背景に、今まで「主張するブランド品」を欲しがっていたミレニアル世代が、1500円の誰でも買えるブランドのバッグに熱狂するようになった。
ニューラグジュアリー/ Z世代・ミレニアル世代が求めるファッション
ミレニアル世代は、倫理観が強く、社会問題/ソーシャルグッドへの関心が高いことで知られる。「共感」を重視する傾向にあり、モノよりもコト(体験)に価値を置く。
わかりやすく言えば、ミレニアル世代は「究極の本物志向」。
ミレニアル世代・Z世代が経済の中心になる将来、新しいラグジュアリー、クワイエット・ラグジュアリーがニーズの中核になっていく可能性は大きい。
これから求められるファッションは、もはや、「入手困難で高額なエルメスのバーキンのようなわかりやすい”高級品” 」では無い。
価格やステータスに振り回されず、精神的な満足を与えてくれる実用的で上質な本物の高級品。倫理的に生産され、ソーシャルグッドに貢献していることもより重視されていくだろう。
(もちろん、エルメスのバーキンの確かな品質、歴史、ストーリーに魅了された一部の人々から、今後も愛され続けるのは確かだが、現在のようにそのステータスや羨望の眼差しを理由にマジョリティに求められるアイテムではなくなるだろう。)
私たちは今まさに、ファッションの大きな革命期を迎えている。
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