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[セミナーレポート] DXに役立つ「ビジネス発想の手法」

1.この記事の要旨(研修全体の所感)

住友生命のDX人材育成活動「Vitality塾」の講師による1日研修に参加した。表題どおり「ビジネス発想」を鍛えるグループワーク中心の研修。実際に新プロダクトを作った(作っている)講師陣の「地に足の付いた」肉声とフィードバックに触れられる得難い機会だった。

個人的にも(後述のとおり)、自分が実は理解していなかったこと、実は苦手としていた思考方法があったことに気付けた。講義やワーク時の言葉の端々からも学ぶところが大きかった。

著書は既に読んでいたが、実際に研修に参加して良かったと思う。

本研修は「ビジネス発想演習プログラム」に該当する

講師陣は様々な団体、会社でDX人材育成研修を実施しているという。本記事や以下の書籍を読んで興味を持った人は(講師陣がこれ以上売れっ子になる前に)招聘してみるとよいだろう。


2.研修の概要(JUAS公式サイトより引用)

今回は 岸 和良さん杉山 辰彦さん宮本 智行さんの3人が講師を務めてくださった。今回の開催元はJUAS(日本情報システム・ユーザー協会)

グループワークは3回。1グループ4~5人。ワーク後、各グループが順にワーク結果を発表し、講師のフィードバックを受ける形式。

1.指定のDX関連用語・事例(7個)の定義・内容をその場で調べ、纏める
  (35分)
2.DX成功パターン4種のうち、パターン①②③の事例を各3例以上出す
  (35分)

DX成功パターン4種(詳細は書籍『DX人材の育て方』を参照)

3.「ビジネスの仕掛け」キーワード3つをクジ引きする
   3つのキーワードすべてを使って新しいビジネスを提案する
  (90分)

「ビジネスの仕掛け」キーワード例

日時 2023年4月25日(火) 10:00-18:00

■受講形態
会場のみ(オンラインなし)
■テキスト
当日終了後配布
■開催日までの課題事項
特になし

データ、デジタル、ビジネスの仕掛け(ビジネスモデル要素)を活用して、新ビジネスや社会課題解決を行う力を身に着けるため、DXの定義、DX関連用語、DX事例を理解し、それを使って発想する訓練を行います。

<概要>
ビジネスを考えるステップを学び、ビジネス目線で提案できるようになる。
DXとはどういったものなのかを学び、DX関連用語やビジネスモデルの変革事例を調べ、新しいビジネスモデルを考える。
短時間(1時間半程度)で新ビジネスを考え、その場で発表する。

<DX系の仕事を進める力を身につける>
・ DX系の仕事に必要なマインドセット(顧客志向、UI/UXの重要性等)とスキルセット(用語、他社事例など)を身につける。
・ 「新しいことを調べて自分のものにする」習慣を身につける。
・ 他人と議論をして、論理性のある企画・アイディアにまとめ上げる力を身につける。
・ デジタル案件で必要となる「ビジネス発想力」を身につける。
・ データ、デジタル、ビジネスの仕掛けを活用して経営改革や社会課題解決ができる力を身につける。

<カリキュラム>
1.DXの定義
DXで使われる用語について深く理解する研修を行う。

2.デジタル時代のビジネスモデル
デジタル時代に使われる4つのビジネスモデルとそれに使われるビジネス用語について理解する。

3.ビジネス用語の理解と発想
デジタル時代によく使われるビジネスの用語(プラットフォーム、ネットワーク効果、シェアリングなど)を理解し、それを使ってビジネス発想をできるようにする。

4.3ステップでビジネスを発想
ビジネスを短期間で発想するための3つのステップを学び、顧客価値の高いビジネスを発想するプロセスを学ぶ。

<持参物>
・ スマートフォン、タブレット、PCなど、インターネット検索ができるもの

JUASセミナー・会員企業サポートサイト 本研修の募集ページより引用 


3.研修を通じて学んだこと・考えたこと

1.講義・ワークで印象に残ったこと

  • 講師3人のコメント(フィードバックやツッコミ)が非常に為になる。今回は、この肉声に触れるために来たのだ。用語やビジネスモデルを具体的に調べきれているか(どんな顧客にいつどのように貢献しているか)、ビジネス事例を抽象化して横展開(全く別の文脈に応用)するとしたら、このビジネスで最も顧客に訴求するコンテンツマーケティングの"コンテンツ"は何だろうか、等々……。

  • 独自のDXのレベル(段階)設定は改めて印象に残った(画像参照)。個人的に、レベル2とレベル3を区別したところが事業会社にとって有益だと思う。レベル3を実現できたなら大したものだと言える。レベル4~5以外はDXではない、などと高望みして何もできなくなるくらいなら、レベル3のほうが余程地に足のついた行き方だと思う。

    レベル定義は社内でDXを語るときの共通言語になる。講師は「DXという同じ言葉でレベル1を語る主任、レベル5を語る部長A、レベル2を語る部長B、……が議論していて互いに噛み合わない」実体験を聞かせてくれた。これはまずい、ということでDXの段階定義を作ったとのこと。

DXの5段階(講師による定義。詳細は書籍『DX人材の育て方』を参照)
  • 自分の複業でやってみて成功したほうが社内提案の説得力が出る。講師(岸さん)はそうしたという。他でもちらほら聞くやり方だが、説得力がある。安定した組織では「新しい事業/やり方を提案する→実績の確約を求められる→小さな範囲で検証させくれと提案する→実績の確約を求められる→……」という無益な無限ループが生まれるからだ。「それは売れるのか?」という質問に嘘をつかずに答えるには「これは売れ」という過去形の回答しかあり得ない。

  • すぐ「専門業者に委託しよう」とするのはいけないという指摘。発言はコンテンツマーケティングの文脈だった。「どんな価値を提供したいのか」という想いが真実なのであれば、安易に人任せにしてはいけない。とはいえ、講師の会社もコンテンツ制作は業者任せになっていたらしい。そこで講師は業者を自社の顧問にして(!)ノウハウを手元に残すようにしたとのこと。そうまでして「自分で考える」価値があるということだ。

  • 研修の終わりに、当日朝になって急遽追加したという「ChatGPTによるワーク課題への回答例」が紹介された。回答のレベルの高さに驚愕した。が、同時に気づく。驚愕できるのは、思考プロセスを実体験したからこそ、なのだと。講師の言うとおり、研修前にいきなりこれを見せられても凄さが解らなかっただろう。ChatGPT等のAIが発達しても、思考プロセスを鍛える重要性は高まりこそすれ無くなることはない。AIは高速で疲れ知らずだから、検証(実験)回数を増やせるようになると感じた。(モノづくりにおいて3D CADと物理現象シミュレーションが普及したのと同じことが起こるのだと思う。)

2.自分の理解や考えが深まったこと・新たな気付き

  • 頭が固い/柔らかいとはどういうことか、実感として理解できていなかった。頭が固い/柔らかいとは結局、考え"続ける”かどうかなのだ。実感として、「頭が固い」状態の内実は思考停止という不作為ではないか。何をどう考えてよいのか、その手がかりを失った状態なのではないか。

    今回のように良い材料(ビジネスの仕掛け、DXのレベル、用語)があればこそ、自分が疎い題材についても考え"続ける"ことができるのだろう。(日本語の「頭が固い/柔らかい」という表現は誤解を招く比喩だ。「固い/柔らかい」は行為でなく性質を表す言葉なのだから。)

  • 自分がいかに文脈依存の経験に頼っていたかに気づかされた。新ビジネス提案のグループワークで、提案内容が自分にとって馴染みの無いテーマだったため、良いアイデアが出せず貢献できなかったのだ。

    しかし、不案内で経験がなく、具体的に実感を「持てない」対象こそ、考える絶好の訓練場ではなかろうか。自分に馴染みがあり、思考の手がかりを沢山持っている対象であれば、色々とアイデアが浮かびやすい。そこに甘えず安住せず、知識・経験の抽象化と横展開(応用)、そして共感(顧客の身になる)感度を振り絞って考えることで成長できると気付いた。「知識があれば」「経験があれば」、そんな言い訳を止めよう。

3.次にやること

  • ノック(制限時間付のアウトプット練習)を自分でやってみる。どこまで講師との相互作用を再現できるか。フィードバックを即座に出して深掘りするのがいかに難しいか、自分でやってみると良くわかる

    1. くじ引きで当たった用語を調べる 
      → 自分にツッコミをいれる(ChatGPTにツッコミをいれてもらう)

    2. くじ引きで当たったビジネスの仕掛けを使ってビジネスプラン作成
      → 自分にツッコミをいれる(ChatGPTにツッコミをいれてもらう)
      → ChatGPTが作ったプランと比較する

  • 社内提案して中々通らなければ、複業申請して自分で事業をやってみる。


4.あとがき

  • 研修の終わりに講師(岸さん)は「自分の年代で後進を育てるのに失敗すれば、会社が潰れる」という危機感を吐露された。また「日本を良くしたい」という言葉も。その志の高さを見習いたい。

  • 「現役」の講師って良いものだなあ、としみじみ感じた。ここで言う「現役」というのは、形式的な肩書や所属の話ではない。現実の勝負や葛藤に身を晒しているか、ということだ。そういう人からは現場の匂いのようなものが感じられて、「見習いたい」と思えるものだ。

会場での集合研修に参加するのは3年ぶりだったが、参加して本当に良かった。歴史ある大企業の中で新しいプロダクトを作った(作っている)現役の講師から学べることは多い。所謂JTC(Japan Traditional Company)と揶揄されるような事業会社で、現実を良くしようと努力されている人々にお勧めしたい。

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