慰安婦 戦記1000冊の証言39 援護法適用
昭和43年4月26日、国会の衆議院で、社会労働委員会が開かれた。議題は「戦傷病者戦没者遺族等援護法の一部を改正する法律案」で、社会党の後藤俊男議員が次のような質問をした。会議録から紹介しよう。
後藤委員「大東亜戦争当時、第一線なり、いわゆる戦場へ慰安婦がかなり派遣されておったと思うのです」
「聞くところによりますと、無給軍属ということで派遣しておる。さらにこの派遣につきましては、それらの業者と軍との間で、おまえのところでは何名派遣せよというようなことで、半強制的なようなかっこうで派遣されておるというようなことを、私、聞いておる次第でございますが、
さらに、これら派遣された慰安婦につきましては、戦場におきまして、戦闘がたけなわになると、あるいは敵の急な襲撃等があった場合には、看護婦の代理もやっておる。さらに弾薬も運ぶというような、さながら戦闘部隊のような形でやられておるというような実績もかなりあると聞いておるのです。
いま申し上げたような、この慰安婦に対する現在の援護法の適用の問題でございますけれども、これも、過去において5、60名適用したこともあるというようなことも聞きました」
「しかしながら、あまりかっこうのいい話ではございませんので、言いたくても言わずにしんぼうしておる人があるんじゃないかというふうなことも推察できるわけなんです」
「いろいろな苦労をした慰安婦に対しまして、この援護法との関係、いままでの経過、さらにこれからの問題につきまして、どういうふうな方向をとっていこうとされておるのか、この点につきまして大臣にお伺いしたいと思います」
園田(直)国務大臣(厚生大臣)「ただいまのご指摘の問題は、その実情が、海軍と陸軍とで関係も違っておりますし、それからもう一つは、戦争のはじめごろと終りごろとではまた資格、契約等のことも変わっているようでございます。
また終戦後の混乱時については、ご指摘のような点もございますが、事の本質上、この問題として援護することは実態もなかなかわかりませんし、調査も困難でございますので、じかにこの問題として取り上げることはなかなか困難な問題が多いわけでございますが、
委員、ご指摘の点、私もそのように考えますので、たとえば無給軍属の契約をしておる、あるいは戦争の混乱時で後方勤務をやったとか、あるいは弾丸運びをやったとか、あるいは看護婦さんの仕事をやったとか、
そういうものはそういう面からできるだけ広げていって、将来こういう方々にも何とかお報いができるような方針で、事務当局で検討したいと考えております」
後藤委員「いま申し上げました問題について、別に厚生省なり政府としても、そういう関係にあった者については援護法を適用しますというようなPRも全然していないと思うのです。
さらに通達その他につきましても、例示等をして、こういう件については援護法が適用されるのだ、こういうふうなことも全然されておらないと思います。
先ほど言いましたように、50名ないし60名が適用されておるというのは、だれかに聞いて、聞いた者だけがうまくやったと言うと語弊がありますけれども、そういう人だけは適用されたのではないかというふうに思いますけれども、
当時大臣も兵隊に行っておられて、慰安婦等の数なりその他につきましては、千名や二千名ではなかろうと思います。おそらく数千名の慰安婦が第一線なりその他多くの戦場に派遣されておった、これはもう間違いないと思うのです。
その中の、先ほど申し上げましたような犠牲者が、全部うまく把握されて援護法の適用をされておるかというと、そこまではいっておらないと、私は思います」
「せっかくそういう条件にありながら、ありがたい法律が適用されないことになってしまう、こういうふうに思うわけでございますけれども、その辺のところはいかがでありましょうか」
実本政府委員(厚生省援護局長)「いま先生のお話にございます、いわゆる慰安婦と申しますか、そういった人々の問題につきましては、援護法の建前からいたしますと、
先ほど大臣も申し上げましたように、ちょっとそういう見地からの適用を考えたことがございませんので、実はなんら そういう面からの実態を把握いたしておりません。
ただ、大臣が先ほど申し上げましたように、現実に本来の慰安婦の仕事ができなくなったような状態、
たとえば、昭和20年の4月以降のフィリピンというような状態を考えますと、もうそこへ行っていた慰安婦の人たちは一緒に銃をとって戦う、あるいは傷ついた兵隊さんの看護に回ってもらうというふうな状態で処理されたと申しますか、区処された人たちがあるわけでございまして、
そういう人たちは戦闘参加者あるいは臨時看護婦というふうな身分でもって、そういう仕事に従事中散っていかれた、こういうふうな方々につきましては、それは戦闘参加者なり、あるいは軍属ということで処遇をいたしたケースが、先ほど4、50と申し上げました中の大部分を占めておるわけでございます。
したがいまして、こういう人たちの実態というものは、先生が先ほどちょっと触れられましたように、現実には何か相当前線の将兵の士気を鼓舞するために必要なわけで、軍が相当な勧奨をしておったのではないかというふうに思われますが、
形の上ではそういった目的で軍が送りました女性というものとの間には雇用関係はございませんで、そういう前線の将兵との間にケース、ケースで個別的に金銭の授受を行って、事が運ばれていた模様でございます。
軍はそういった意味で雇用関係はなかったわけでございますが、しかし、一応戦地におって、施設、宿舎等の便宜を与えるためには、何か身分がなければなりませんので、無給の軍属というふうな身分を与えて、宿舎その他の便宜を供与していた、こういう実態でございます。
いま援護法の対象者としては、そういう無給の軍属というものは扱っておりませんで、全部有給の軍属、有給の雇用人というものを対象にいたしておりまして、端的に言いますと、この身分関係がなかったということで、援護法の対象としての取り扱いはどうしてもできかねる。
しかしながら、先ほど申し上げました例のように、戦闘参加者なり、あるいは従軍看護婦のような臨時の看護婦さんとしての身分を持った方々につきましては、そういう見地から処遇をいたしておるわけでございまして、
もし、そういう意味での方が、こういう方々の中に、まだ処遇漏れというふうになっておりますれば、援護法は全部申請主義でございますので、そういう人があれば、申請していただくということになるわけでございます。
ただ、時効の問題その他ございますが、そういう面で援護法の適用をそういう方々にしてまいりたいというのが、このケースの処理として、いまのところ援護局と申しますか、厚生省の態度でございます」
後藤委員「当時第一線なり戦場へどれくらいの数の慰安婦が派遣されておったか、数千人だろうというふうな想像をいたしておるわけでございますけれども、
これらの中に、先ほどの援護法を適用してもよろしいというような条件に該当する人があったとしたならば、援護法の適用をされるわけなのです。
ところが、局長も言われるように、これは申請しなければ問題にならない。しかしそれらの条件に該当する遺族なり、それらの人は、全然そういうことを知らないと思うのです。
百人のうち1人や2人は知っておる人があるかもしれませんが、ほとんどの人がわからない。わからなければ申請をしない。申請をしないからこのままでいくのだ、こういうふうなかっこうで進んできたのが今日であり、これからもそういうふうになるのではないかと思われるわけでございますけれども、
局長がせっかくそこまではっきりきちっと言い切られましたら、それらの条件に該当する人については、これは援護法の適用がされるのだということで、やはり連絡なり、PRなり、通達なり、それらに十分なる手配をとっていただく必要があると思うのです。
それと同時に、こんなことを申し上げるとまことに失礼かもしれませんけれども、それらの条件に該当する人は、生活も裕福な人は少なかろうと思うのです。
いわば生活に非常に苦しんでおられる家庭の人が多いのじゃないか。しかも遺族の人も、まことにいい話ではございませんので、遠慮しがちになってくる。全然声が出てこない。
そういうところへ、この援護法等の適用につきましても手を差し伸べていくのが政治の力であろうと、私は考えるわけです。
だから、これは具体的に局長として、いま申し上げました問題をどう進めていこうとされておるのか、もう少し具体的にお答えいただきたいと思います」
実本政府委員「援護法とか恩給法とかいうものは、非常に難解でございまして、そのときそのときで、またいろいろ範囲の拡張とか、あるいは給付の対象になる人の拡大とかいうふうな改善が行われまして、継ぎはぎ継ぎはぎで、専門家が見ましても非常に難解な法律になっております」
「ここで私が申し上げましたように、現にこういう方々であって、援護法上の準軍属なり軍属として処遇されていた方々は、もうはっきりとそういうケースとして、軍のほうから戦闘参加を要請したというケースが事実としてあり、あるいは日赤の従軍看護婦のような臨時に雇った者につきましては、そういう事情がございます。
それから、ある前線からある前線へ大量の人を輸送船で運んでいた。それが海没したような場合につきましては、はっきりそういう人たちのケースがわかっておりますので、
ほんとうに先生がおっしゃられるような準軍属なり軍属として取り上げてもいいような人たちについては、おおむねそういうケースとして処遇してきたつもりであります。
しかし、それの数は、さっき先生が言われましたように、われわれのほうとしても的確な数字を持っておりませんが、大体四、五千というふうなことを聞いております。
そのうちの四、五十人ということでございますから、あるいはまだほかにそういったケースも、知らないために眠っている、あるいは泣いているという方があることが考えられます。
これは援護法のほかの対象者にもそういうことがございますので、この問題のみならず、常にそういった人たち全体についてのPRなり徹底の方法といたしまして、月並みではございますけれども、年に2回、都道府県の部課長会議を開いて、そういった意味での徹底を、窓口でございます市町村の援護係のほうにさせるようにやっておるわけでございます」
以上、質疑の要旨を紹介したが、「戦闘参加者」「臨時看護婦」「軍属」「準軍属」と規定して、「援護法」の対象となった慰安婦が、「40人から50人」いた。
また、「大体4000人から5000人」という人数も出てきたが、日本人慰安婦の総数なのか、死者など援護法の対象となるような人数なのか。答弁の文脈からすると、死者・負傷者の人数と思われるが、どうだろう。
この援護法は「軍人軍属等の公務上の負傷若しくは疾病又は死亡に関し、国家補償の精神に基き、軍人軍属等であつた者又はこれらの者の遺族を援護することを目的とする」。該当者には障害年金・障害一時金が支給される。
この質疑以後、受給者が増えたのだろうか。
(2022年1月1日更新)